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3章 7

皇国への留学の話をして楽しく過ごしていたが、会話がふと途切れた時に、クラウディア様が顔を曇らせ声を潜ませた。


「お二人にお伝えしたいことがありますの。

 最近、姉のマグダレーナの様子がおかしくて。

 お父様と話しているところを聞いてしまったのですが、姉の婚約者が皇国との国交樹立反対派で、無理矢理阻止しようとしているようなのです。」


元々は侯爵が反対派だったこともあり、周囲には反対派の貴族が集まっているらしい。

いまは侯爵が表向きは賛成に回ったため、取り巻きの貴族たちも反対の声は挙げていないが、彼らは国交樹立に諸手を上げて賛成はしていないようだ。

クラウディア様の姉、マグダレーナ様のご婚約者もその権門から選ばれているため、反対派らしい。


「まだ、アマーリエ様のご婚姻はご存知ないのよね?」

「話を聞く限りでは、まだ知らないみたいでしたわ。

 でも、国交樹立にすら反対ですから、婚姻となればどのような手を使ってでも猛反発するかと。」


このまま侯爵が賛成の立場、婚約者が反対派となればマグダレーナ様のご結婚にまで影響を及ぼしかねない。

両人が想い合っていても、政治的立場で婚約が破棄されることは珍しくはないのだ。


「ヤズマ皇国の件以外では我が家と政治的主張が相いれることもありませんし、何より当人同士はとても仲が良いのです。

 姉は結婚したいそうで、なんとか婚約者を納得させようとしているのですが

 女が国家の一大事に口を挟むな、と。」


「はあ!?」


ガタッ

立ち上がる音と共に響いた、パウラ様の低い声。

今まで聞いたことのない、怒りをはらんだパウラ様の声に私たちは驚きを隠せない。

席からは十分離れたドア付近に待機するメイドたちも、びくりと肩を震わせた。


「なにをおっしゃっるのかしら。

 女だって領地経営をしたり、家の財政や使用人の統制に教育、家業を継いだり色々な仕事があるのよ?

 国の方針次第で経営も家業の在り方も変わるじゃないの!

 口を挟むどころか、どんどん意見を言うべきだわ!


 女がって、本当に酷い言い草。

 そのような考えの方とご結婚されて、マグダレーナ様は苦労なさらないかしら。」


いつにない剣幕にたじろいでいると、遠慮がちにドアがノックされた。

パウラ様は小さく息を吐いてから着座し、ドアに侍るメイドに目で合図を送る。

小さくドアが開かれ、メイドから来客を通しても良いかと問われ、パウラ様は快諾した。

どなたかがいらっしゃる可能性があることを、事前にご存じだったようだ。



扉からひょっこりと顔を覗かせたのは、サミュエルさだった。

まさかお会いするとは思っていなかったので、その姿を見たときに心がどきりと跳ねた。

柔らかな髪が光に反射し、すらりとした細身の身体はややカジュアルな服装もスタイリッシュに映える。



私たちは立ち上がり挨拶をすると、サミュエル様も朗らかに笑み挨拶を返してくれた。

パウラ様に勧められサミュエル様が空いてる席に座り、私たちも腰を下ろす。


「お父様たちとのお話は終わりましたの?」

「公爵からお三方の話を聞いてご挨拶に伺ったのですが、なにがあったのですか?

 珍しく部屋の外までお声が聞こえていましたよ。」


私とパウラ様はクラウディア様を見る。

他家のことを話す訳にはいかない。

私たちの視線を感じたクラウディア様が、実は…と口を開く。


「なるほど。それは困りましたねぇ。

 すべての貴族が賛成していないのは承知していましたが、無理矢理阻止するような真似は謹んで貰わねば。」

「ご出立の際には、とくに騎士を増やす必要がありますわ。」

「無論。

 国内は良いのですが、通過国がどうなるか。後程、関係各所と調整しましょう。

 それで、パウラ様が声を荒げていたのは如何なる理由でしょうか?」


言い淀みながらクラウディア様が事情を話すと、サミュエル様は顔をくしゃくしゃにして笑う。


「相変わらず、貴女はとても格好いい方ですね。」


サミュエル様がパウラ様に向ける眼差しは、眩しく光る宝物を見つめるかのようだ。

二人の間に、私が知らない時を重ねた思い出があることが伝わってきた。

指先がすっと冷えていくのを感じた。


「格好いいだなんて、レディに対しての褒め言葉とは思えませんわ。

 でも良いわ、私、高位貴族だからと家の言いなりになるよりも、自立した女性のほうが好みですもの。」


応じるパウラ様も、澄ました顔で珍しく軽口をたたく。

二人の様子を見たクラウディア様もなにか感じるものがあったようだ。


「お二人は、お親しいのですね?

 皆で話し合いをしたときには、感じませんでしたわ。」

「公私は分けますわ、相手が殿方なら尚更。

 サミュエル様は幼少期、アマーリエ様の元にお伺いしたときに共に過ごしたことが幾度とございますから。」


先ほどとはうってかわって、ゆったりと穏やかに話すパウラ様。

サミュエル様も頷きながら口を開く。


「貴女は幼い頃から可愛らしい外見に反して、芯が強くていらっしゃった。

 私のほうが年上だというのに、何度も窮地に立たされましたよ。」


懐かしそうに目を細めるサミュエル様は、満ち足りた顔をしている。

よほど幸せな日々だったのか、それとも今パウラ様を慕っているのだろうか。

彼の深緑の瞳には、パウラ様しか映らないのだろうか。


 

「懐かしいわ。

 気がついたらサミュエル様は外国に行かれてしまって。

 なかなか帰国なさらないし、帰国したらすぐに他の国に行かれてしまうのですもの。」

「はは、私も王族とはいえ、末席も末席。

 長期の遊学が許される立場なのですよ。」


やはり王族の方、なのですね。


思わず口から漏れた言葉を、サミュエル様は聞き逃さなかった。

こてんと首を傾げ、不思議そうな顔をする。


「おや?伯爵はなにも話されてないんですね。

 私はアマーリエ様のいとこに当たりますが、庶子なので、王位継承には程遠いのですよ。

 

 留学して諸外国と友好を築く外交官としては、立場的にもちょうど良い駒でしょう?

 王族だけど、万が一があっても切り捨てやすいから。

 こちらも逆手にとって、好き勝手させて頂いてますよ。」


クスクスと笑い楽しげなサミュエル様を見て、呆れた方ね、と笑うパウラ様。

さらりと明かされた出自と、サミュエル様の身の置き方に驚きを隠せない。

クラウディア様も子細は知らなかったようで、少し戸惑われたようだ。


「そのお陰で、ヤズマ皇国にも長期滞在できるのですよ。

 そうだ、テレーゼ様も一年留学されるとか。アマーリエ様に振り回されるのかと冷や冷やしていましたが、貴女が居てくださるなら一安心です。

 クラウディア様も、後出立の準備や婚儀の用意など、是非ご協力ください。侯爵家が協力する姿勢を見せることが肝要かと。」


爽やかな笑みを浮かべながら話すサミュエル様だが、パウラ様と話されている時のほうが自然体に感じる。

人当たりの良い優しさと真面目さを兼ね備えた雰囲気だが、難しいお立場ゆえに、誰に対しても受け入れ易いようにと作られた姿なのかもしれない。

そのようなことを考えている間に、クラウディア様が返答する。

 

「それは勿論、承知致しました。

ですが、王族の方に様付けで呼ばれるのは…。」


そうかしら、と小首をかしげるパウラ様を横目に、私も慌てて同意をする。

かといって、このような私的な場において家名で呼ばれるのもなんだか違和感がある。


「うーん。私自身王族だと思って生活していないので、気になさらなくて良いのですが。

アマーリエ様やパウラ様と共にテーブルを囲む機会も増えるでしょうし、お二人と同じようにクラウディアさん、テレーゼさんと呼ばせていただきましょう。」



呼び方を変えられても、いつかの日のようには、心が踊らなかった。

パウラ様との親しげな様子を目の当たりにしたからだろうか。


サミュエル様は信頼のおけるとても優秀な方だとは思っているが、

特別な関係にはならないだろうなと感じてしまったのだ。


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