3章 8
数日後。
私は王宮に招かれ、パウラ様とクラウディア様と共に登城する。
はじめて訪れたときと同じ、アマーリエ様の離宮だ。
あのときはヤズマ皇国への留学など、考えもしなかった。
幾度となくアマーリエ様の元を訪れ、緊張することもなくすっかり慣れた。
私が大きく変わるきっかけを下さったパウラ様には感謝してもしきれない。
離宮の一室にに通されると、既にアヤメさん、ソウビさん、トネリ様、サミュエル様がいらっしゃった。
共にテーブルを囲むことを固辞するアヤメさんとソウビさんを説得するのが大変だった。
「式典の功労者を労うのと、ヤズマ皇国へ向かう準備をするための話し合いなのだから、二人にも忌憚無い意見を述べて欲しいの。
立ったままだと、私も気兼ねしてしまうわ。」
アマーリエ様のお言葉に、二人は仕える立場だからと尻込んだが、トネリ様からも後押しされ席に着いた。
アマーリエ様に教育係として仕えるからというよりは、トネリ様と席を共にすることを遠慮しているようにも感じられた。
詳しい出自は存じあげないが、彼らは皇国の方なのだ、それが当然なのかもしれない。
式典の話で盛り上がったあと、ヤズマ皇国への贈り物の選定に話が移った。
王や大臣たちとの調整も担うサミュエル様が話を進める。
「婚約の儀、婚儀と立て続けに贈る機会もありますから、今回は量は少なくて良いのではないでしょうか。
王国から皇帝への品は大臣たちが選んでいますので、アマーリエ様は新しくご家族となられる皇族方や仕える方々を意識された品を選定してください。
貿易用の見本として持ち込む物はまた別に用意します。
こちらは値を抑えた国民向けの物となりますが、商会長とも調整が必要ですね。
アマーリエ様の私物、いわゆる嫁入り道具も一度に送るのではなく、皇国での部屋や生活を見ながら分けて運び込みます。
急ぎで必要なものを今回持っていきましょう。」
皇国に住むからには皇国の調度品を使いたいというアマーリエ様のご意向、トネリ様からの木材は王国と似たようなものがあるとの話から、大きな家具類は少なく済みそうだ。
職人も帯同するので、彼らに作ってもらうことが出来るからだ。
それでも、正装用のドレスや宝石、カジュアルなドレスや寝巻、靴、本、薬に食器など持っていく物は多岐にわたる。
サミュエル様の説明を受け、アマーリエ様やパウラ様、クラウディア様と早速相談を始める。
「贈り物はなにが良いのかしら。皇国と分かりやすく違うのは、衣装や靴かと思いますけれど、サイズが合わないと使えませんわね。
レースやリボンが良いかしら。
公爵領で作らせている布なら他国には無い色味ですけれど、それは大臣たちが選ぶかしら。
アマーリエ様はいかがお思いですか?」
「そうね。絵画や楽器、本などの文化的なものなら、皇国の貴族層だけではなく多様な人たちにも受け入れられるのでは?
皇国にも文化人が出入りするサロンのようなものはあるでしょう?
今回差し上げることができなくても、反応が良ければ次の使者団や貿易商に多めに持参させることができるわ。
テレーゼさん、貴女はどう考えているのかしら。」
「文化的な物や生活に関する物ならば、時計や望遠鏡、オペラグラスに地球儀、調理道具などもよろしいのではないかと。
おそらく、食文化も大きく違いますよね。」
前世の記憶では、だが。
少し不安になり皇国の三人を見ると、小さく微笑み首肯してくれた。
「調理道具!それなら食器や料理のレシピも必要ですわね。
アマーリエ様にはシェフも帯同するのですよね?伝統料理を作って皆様に紹介するのもよろしいかと。」
「私たちが驚いたように、皇国の方々にも驚きや新鮮さを味わって頂きたいわ。」
盛り上がる様子をサミュエル様は微笑ましそうに見つめるが、皇国の三人は困ったような顔をしている。
「どうかなさいましたか?」
口を開きかけたアヤメさんを、トネリ様が首を降って制する。
「いえ。皆様のお心遣い感謝いたします。
一つだけお心に留めて頂きたいのですが、皇国で芳しい反応が無くても残念に思わないでください。」
申し訳なさそうな声に不思議に思い、私たちは四人で顔を見合わせる。
サミュエル様も眉を顰める。
陛下や大臣たちが選ぶ贈り物に関しても同様だろうかと思案されているのだろうか。
「……? わかりましたわ。
皇国から依頼された訳でもなく、こちらから一方的に贈る物ですもの。
喜んでいただけるのが一番ですが、そうでなくても、違う文化圏のものに馴染みが無かったのだと思うだけで、残念になど思うことはございませんわ。」
「使者の方々も学者たちも、あまり表情を変えませんものね。
公の場では表立った反応はしない国民性なのかしら。」
アマーリエ様とパウラ様の言葉に、曖昧に曖昧に微笑むトネリ様。
横に視線をずらしアヤメさんと目が合ったが、アヤメさんは苦笑しながら小さく首を横に振った。
いまこの場ではなにも言うまい、ということか。
トネリ様の言葉の裏にはなにが隠されているのだろうか。




