3章 5
翌日、お父様に珍しく応接間に呼ばれた。
お母様も一緒だ。
昨日の労を労われ、さらに二人から式典のドレスや扇を改めて誉められ、今回ばかりは素直に喜んだ。
典礼を職務とするお父様とそれを支えるお母様に認められて、心の底から安堵した。
二人が認めてくださるということは、外交上の問題なく、そして国内貴族からも一定の理解を得られたということだ。
「ありがとうございます。でも、改善点があれば教えて欲しいのです。
アヤメさんとソウビさんをご覧になりましたでしょう?
式典の正装姿、腰から白い飾り布が付いてましたよね。
裳と呼ぶものだそうですが、ドレスのトレーンとして使えないかなと考えているのですが。」
「そうねぇ。検討の余地はあるわね。
あとは、お茶会のときのお二人のお衣装。
あの一番上の羽織物をドレスの上から着るのはどうかしら。ローブみたいで、受け入れやすそうよ。」
お母様と私が衣装の話で盛り上がるのを、お父様は黙って見守っていた。
そんなお父様に目を向けると、目尻を下げ穏やかに口を開いた。
「我が国の伝統を守りながら、ヤズマ皇国の伝統を取り入れた点はすばらしかったよ。
次はより庶民が日々の暮らしのなかで、ヤズマ皇国を感じられるものか普及すると良いだろうな。
お守りといったか、あれは良いアイデアだったが、他にもなにか考えているのかな?」
「ハンカチやエプロンにヤズマ皇国で人気の柄を刺繍したり、刺繍図案を提携して下さる組合やお店に配布することも考えてはいます。
裕福な家庭向け、一般家庭向けと糸の種類や図案で価格を分けることも出来ますから。
ドレスやお守り作りに奔走してくれたお針子たちにも、継続して仕事を与えられるかと。」
ふむ、と優しく頷きながら話を聞いてくださる。
そして、どこか諦めたように微笑んだ。
「私が思う以上に、発想力や商才があるのだな。
皆が留学を強く勧めるのも致し方ない。」
昨晩、舞踏会の席でトネリ様とアマーリエ様がヤズマ皇国行きを再度勧めてくださったそうだ。
居合わせた陛下にもパウラ様のお父様にも留学を求められたとのこと。
お父様は、今まで見たことのないくらい真剣な目になった。
空気が引き締まるのを感じながら、私もしっかりとお父様を見据える。
「テレーゼ、留学したいか?
婚約や家から逃げるためではなく、ヤズマ皇国で学び、その知識を生かして我が国で活動したいと思うかい?」
「行きたいです。
逃げるためではなく、アマーリエ様のためでもなく、私自身のために。
学んだ知識を生かして何をしたいかは、まだ考え中ですが、両国の交流を深められるよう努めます。」
緊張しながらも、決意を込めて伝えるとお父様は深く頷いた。
お母様も少し寂しそうな表情をしながらも、頷いてくれる。
「よかろう。ただし、何年もは待てない。
此度はアマーリエ様に帯同させていただくのだ、アマーリエ様の婚約が正式に整う一年後には帰国しなさい。
とはいえ数ヶ月毎に使者や商人たちを交代させることになっているそうだから
何かあれば、一年待たずに、彼らと帰国するように。
良いな?」
ありがとうございます、と思わず抱きついた。
そのままお母様とも抱擁を交わす。
連絡が簡単にはつかない場所に娘を行かせるのだ。
アマーリエ様やその護衛の方々が近くにいらっしゃるとはいえ、心中穏やかではないはずだ。
それでも不安を口にせず、送り出してくれることに深く感謝した。
留学の詳細は、お父様がアマーリエ様や国王陛下や大臣たちと話をして決めることになった。
アマーリエ様からは少しでも長く一緒にいて欲しいとのお言葉をいただいたそうだが、お父様がなんとしても一年で帰国だと言い張ったらしい。
陛下からいただいた案では、アマーリエ様のご学友として留学し、アマーリエ様のお部屋の近くに部屋を与えられるとのことだ。
アマーリエ様は侍女やメイド、護衛たちも連れていき、それ以外に商人や職人、学者も同行する。
今回の式典でお世話になった職人や画家も何名か一緒に向からしい。
同郷の者が多く、そして知っている方も居るのでホームシックには成らずに済みそうだ。
アマーリエ様は1年、とはいえ往路に2ヶ月かかるので実質10カ月ほどヤズマ皇国で過ごしてから婚約し、さらに半年後に式をあげるのだと言う。
それに合わせて入れ替わり立ち替わり、使者たちが往来する予定だ。
私はアマーリエ様と共に出立し、婚約の儀式を見届け使者が帰るタイミングで共に帰国する。
でも、ヤズマ皇国が前世を連想させる過ごしやすい場所ならば、私はそのまま残りたくなるだろう。
一度帰国する約束は守るが、結婚式に参加する使者団に混ざり、すぐにヤズマ皇国へ戻ることも考えておこう。




