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3章 4

「みな、ドレスの試着会は楽しんでいるかしら?」

 

アマーリエ様の問いかけに、私たちは満面の笑みで頷く。


「はい、アマーリエ様のおかげで、盛り上がっておりますわ。

 急遽部屋を整えてくださった、王宮のメイドや侍女の皆さまのおかげです。」

「それはよかった、パウラさんもご苦労様。

 私も参加したかったわ。クラウディアさん、侯爵家の反応はいかがでした?」

「姉のマグダレーナはたいそう喜んでおりましたけれど、父の内心は分かりかねます。

 自らに利があれば、本心とは違う行動を意図も平然と致しますから。」


少しためらいながら、小声で告げるクラウディア様に対し、アマーリエ様は然もありなんと頷く。

 

「そうね、それが高位貴族というものよ。でも令嬢たちには派閥を問わず喜んでいただけたなら良かったわ。」


アマーリエ様が安堵した様子に、こちらも嬉しくなる。

「貴族女性で、ドレスや装飾品に関心を持たない者などおりませんもの。」

「王女殿下より先にドレスを着るのも前例のないことですが、さらに衣裳交換する試着会まで催されて。前代未聞ですね。」


私たちの会話に小さく首を振り、茶目っ気たっぷりに微笑むアマーリエ様。

 

「ドレスはね、ヤズマ皇国へ向かう前に皆に下賜する予定なのよ。

 国交樹立記念として送るか、婚約に対しての献上品へのお礼とするかは検討中だから、まだ内密にね。」


予想だにしないことに、目をまん丸くするクラウディア様。

まぁ、と小さくつぶやかれるパウラ様。

その驚きは一瞬で納め、ほころぶように微笑みあう。


「承知いたしました。きっと皆、喜ぶと思いますわ。」 「欲しい、という声もたくさん聞こえましたもの。」


アマーリエ様は満足そうに頷いてから、こちらに向き合う。

 

「ねぇ、テレーゼさん。使者の方々も感銘を受けていらしたわ。

 トネリ様もたいそう驚かれていたもの。」


恐れ多いことでございます、と頭を下げてから気になっていたことを問う。

「トネリ様はかなり身分の高い方なのですか?お若いのに口上を述べられて驚きました。」

「えぇ、かなり上の身分なのは確かよ。全権大使だったのですって。

 まさか先発隊としていらっしゃるとは思わなかったわ。

 でも、まだ何かを隠してい気もするから様子を見ているの。」


私たちは知らず知らずのうちにトネリ様に目を向けていた。

自分に向けられる視線に気が付いたのか、小さく会釈をしてからトネリ様が近付いてきた。


「式典のための準備、ご苦労様でした。

 お三方とアヤメ、ソウビから話は聞いていましたが、想像以上でした。

 交易における良き品となりましょう。」


私たち三人はカテーシーで挨拶に応じ、アマーリエ様が問いかける。

「道中はいかがでしたか? 城にいたので、国民の様子が分かりませんの。」


「皆、歓迎してくれましたよ。

 呆気にとられている方も多かったかな。

 ヤズマ皇国を野蛮な国だと思っていたから、我々のいでたちに驚かれたのかもしれませんね。

 敵意に満ちた者や、おそれの表情を浮かべる者もいましたが、成功したと言ってよいでしょう。

 国元にも、そのように伝えます。」


大半の国民たちが受け入れてくれたのは、今後の国交樹立・交易・婚姻といった大きな出来事にプラスに働くはずだ。

一部の国民が反対するのは仕方がないが、恐れている者たちは交流を深めるうちに恐れが無くなるだろう。

何も因縁が無いにもかかわらず敵意を持つ者たちにはどうしたら良いのか。


 

トネリ様は柔らかく微笑み、けれども真剣なまなざしになり私を見る。

「テレーゼ嬢、是非留学なさってください。我が国の婦女子たちにいろいろ教えていただきたい。

 ご自分の力を、過小評価してはなりません。」

「ですが、これは皆様の力があってこそのこと。私など」

「いけませんよ。」


珍しくアマーリエ様が発言を遮る。

あまりのことに、パウラ様とクラウディア様も信じられないと瞬きをした。


「それ以上、卑下することは許しません。

 たしか婚約者の問題があってご家族が反対されていたのでしょう?

 それは別に考えなさいな。いくらでも何とかするわ。

 

 私のためにも来て欲しい、と伝えたこともあるけれどそれも忘れなさい。

  

 テレーゼさんがどうしたいか、なのよ。」


「私が、どうしたいか…ですか。」


トネリ様やアヤメさんたちを見ていると、郷愁の念がわいてくるのも事実だ。

私が住んでいた日本とは違う、けれども限りなく似ているヤズマ皇国に興味が沸き、見聞したいという気持ちは日に日に大きくなっている。

婚約から逃げるためではなく、アマーリエ様のためでもなく、自分のために行ってみたい。


揺れる心が伝わったのか、パウラ様がそっと手を取り包み込んでくれる。


「テレーゼさん、私も同意見よ。

 国内のことなら心配いらないわ。

 ドレスや扇、貴女のアイディアがたくさん詰まった商品たちは、私とクラウディア様、商会長で流通させるわ。

 テレーゼさんが戻ってきたときに、活躍する場所を作っておくわ。」


クラウディア様も、横で何度も首肯する。

その気持ちがとてもありがたい。

少し前まではクラウディア様とは縁がなく、このように尽力してくれる間柄ではなかったのに。



その様子を見守っていたトネリ様が、アマーリエ様に話しかける。

「テレーゼ嬢はたしかリートゥス伯爵家でしたね。アマーリエ様、本日でも後日でも構いません、席を設けていただけませんか?

 私からも伯爵にお話させてください。」

「勿論ですわ。」


アマーリエ様はしっかりと頷く。


私も腹を決めて、お父様と話さなければ。

ヤズマ皇国に行きたい、と。


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