3章 2
外から、大きなどよめきと歓声が聞こえる。
使者の列が王宮に着いたらしい。
私たちは案内に従い、所定の位置に就く。
大臣たちは前方に、それ以外の者たちは家格に合わせて並ぶ。
通常時と違い、左右に分かれて中央を通路として空けておく。
前方の一段高くなった場所には、王族方が座る椅子が置かれている。
国王、王妃、王子殿下、そしてアマーリエ様が入室され、私たちはいっせいに首を垂れる。
王族はさすがに我が国の衣装だが、さりげなくヤズマ皇国の色を取り入れている。
「皆、よく聞いてほしい。
ヤズマ皇国に対し、様々なうわさがあることは承知している。
しかしながら、ヤズマ皇国から二か月もかけて我が国に参られた使者の方々に対し、くれぐれも失礼のないように。
使者たちが国元へ戻る道中、多くの国を通る。
道すがら、我が国こそが礼儀をわきまえない国だと吹聴されることを、ゆめゆめ忘れるでない。」
国王は反ヤズマ皇国はの面々をじっと見下ろして言った らしい。
というのも首を下げていたので詳しくは知らないのだけれど、アマーリエ様が後から教えてくださった。
そう。
我が国での待遇が良くも悪くも、多くの国に我が国での扱いを広められてしまう。
それによって得られる利益、失う利益がどれだけの物なのか。
高位貴族は理解しているけれど、下級貴族は理解しきれていない。
国王陛下の言葉という形で伝えることで、少しは気が付いてくれるとよいのだけれど。
貴族たちが姿勢を正ししばらくしたころ。
「ヤズマ皇国使者殿の入場です。」
サミュエル様の声とともに、重々しく扉が開く。
サミュエル様も清掃ながら、肩飾りをつけてくださっている。
続く使者たちヒア黒磯躯体、ひな人形のお雛様のような服装をしていた。
さらには冠をかぶり、杓を持っている。
列の中央あたりには、十二単を着たアヤメさんとソウビさんの姿が見える。
女性陣は二人の服装に釘づけた。
色鮮やかな重ね、長く垂らした紙、髪飾りも檜扇も何もかもが目新しい。
注目を一身に浴びながら、しずしずと使者の列は進む。
最前列で王族に対し礼をするのは、トネリ様だ。
てっきり、より高位の方がいらっしゃるための先発隊の一員だと思い込んでいたので
トネリ様が使者団の中で最高位であることに驚いた。
恭しく巻物を掲げ、それをサミュエル様が国王へと手渡す。
巻物を開き目を通してから、国王はにこりと笑う。
「使者殿、遠方よりよく参られた。
我が国とヤズマ皇国の交誼を結べることを、嬉しく思う。」
「国民も、お集まりいただいた皆様も、我が国ゆかりの装束で歓待して下さり、心より感謝申し上げます。
この良き日の記念に、ヤズマ皇国から国王陛下への贈り物がございます。」
トネリ様は付き従う使者たちが見えるよう、少し体をずらす。
使者たちが持つ荷物は、蒔絵が施された黒い漆塗りの箱。
各々がその蓋をそっと開け、一部を披露する。
色とりどりの絹織物、絵、巻物などが見えた。
どうやら目録もあるようだ。
高位貴族たちの目つきが変わる。
交易でどれだけ利益が得られるか、瞬時に計算しているのだろう。
「心遣い、ありがたく受け取ろう。
我が国からの贈り物もあるが、それは帰国される際にお渡ししよう。
旅の疲れをいやし、ゆっくりと滞在してほしい。」
使者たちの歓迎式典は、大きなトラブル無く終わった。
アマーリエ様もパウラ様もほっとしたようだ。
この後は一部の有力貴族のみが残り、簡易的なお茶会が行われる。
下級貴族たちは別室で集まり、パーティーに参加しない階級の使者たちを接待する。
私たちはお茶会にも招かれているが、令嬢たちがアマーリエ様に許可を得て王宮の一室でドレス着用会を開催することになったため
お茶会の準備が整うまでの間、ドレス着用会に顔を出すことにした。
メイドたちが準備をしてくれている間、パウラ様やクラウディア様とともに談笑する。
「なんとか成功してよかったですわね。」
「ええ、まさかトネリ様が口上を述べられるとは思いませんでしたけれど。
使者団を驚かせたかったのに、相談相手を間違えたかしらね。」
ふふっと可笑しそうに笑うパウラ様を見て、微笑むクラウディア様。
二人とも荷が下りてほっとしたのだろう。
職人たちにもお礼を伝えなければ。
準備が整ったようで、令嬢たちの華やぐ声が聞こえてきた。
着替えを手伝ってくれるメイドたちも、どこか楽しげだ。
「ドレス、人気でよかったですわ。」
「まさか式典後にこのような場を設けていただくことになるとは、まったく想像しておりませんでした。」
彼女たちに目をやると、お互いを誉め合いながら先ほどの儀式の話題で盛り上がっていた。
「あの女性の使者様たちが着ていらしたお召し物を見てからだと、より一層ヤズマ皇国が感じられるデザインですわね。」
「お二人を見てもこの帯というものが良くわからなかったのですけれど、皇国にはお衣裳が何種類かあるのかしら。」
「全部見てみたいわね、素敵だったわ。」
「とても重そうですもの、ダンスはできないわよね。」
「ヤズマ皇国ではダンスはしないのかしら?」
短時間でも衣装のチェックを怠らないのは、さすが流行に敏感な貴族令嬢と言ったところか。
親の意向でこちらの用意したデザインのドレスは着れなかった者も、身長や体形の都合で本当に着たいデザインを諦めた者も、皆が思い思いに楽しんでいる。
「どうなるかと思いましたけれど、本当に良かったわ。
交渉したり、期日をもとにいろいろ計画を立てて人を使うというのは難しさも感じましたけれど。
これが仕事のやりがい、なのね。
もっといろいろなことに取り組んでみたくなるわ。」
パウラ様の言葉に、私たちは頷きあう。
初めての経験ばかりだったけど、充実感があった。
今まで忙しく過ごしていた分、なんだか暇に感じてしまいそうだなとさえ思う。
でも暇にしているわけにはいかない。
婚約者問題、留学問題に真剣に向かい合わなくては。




