2章 23
公爵家の別邸にある広間。
多くのメイドたちがひしめきながらも、静寂さを保っている。
しかしながらピンとした緊張感ではなく、ソワソワとした楽しそうな空気だ。
「みなさん、本日はお集まりくださりありがとうございます。
二日間、頑張りましょうね。」
パウラ様の言葉に深々と頭を下げた面々のなかに、ただのメイドはいない。
伯爵家以上に支えるメイド長ないし侍女長クラスの使用人たちだ。
式典に向け、令嬢や奥方の仕度をする彼女らに帯の結び方などを身に付けてもらい、同時にヤズマ皇国について知ってもらうための集まりだ。
アヤメさんとソウビさんがトルソーを用いて、襲が美しく見える着方、帯の模様を生かした結び方を伝えていく。
パウラ様、クラウディア様、そして我が家のメイドや侍女たちには事前に講習をしてもらい、今回はサポートとして参加している。
男爵家・子爵家のメイドらには彼女たちが指導する予定だ。
ヤズマ皇国風のドレスを見るのも、帯を見るのも初めての者ばかりなので、驚きやワクワクした好奇心とが入り交じった雰囲気だ。
おそるおそる触れる者、眼に焼き付けんとばかりに見つめる者と様々だ。
アヤメさんとソウビさんがヤズマ皇国から来ていること、皇国では名家の令嬢であることをパウラ様が紹介したためか、みな二人に質問する際にとても丁寧に接する。
ヤズマ皇国を忌避して距離を取ったのではなく、令嬢として対応したためであることは察せられたので、彼女たちのヤズマ皇国に対する素直な感情は分からない。
結び終わった帯を珍しそうに撫でていたメイドたちに、声をかける。
伯爵家から来たというメイドたちは、はじめは驚いた様子だったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「ヤズマ皇国についての印象ですか…。
正直に申し上げますと、良い印象も悪い印象も持ち合わせていませんでした。」
「野蛮な国と聞いたことはありましたが、接点の無い遠い国なので、本の中の話のような感覚です。
ですが、このような素晴らしい織物を作る国が、蛮族の国だとは到底思えません。」
「そう思えるのは、皆さんが上流階級に仕えている者のなかでも選抜された方々だからでしょうか。
それとも国民の大多数がそのように考えているのでしょうか?」
メイドたちはキョトンとした顔をし、考えながら口を開く。
自分の所属する階級で、教養の差、政治的なとらえ方や感じ方の差はどうしても生じてしまう。
彼女たちもいわゆる一般国民よりも恵まれた環境で生活しているが、私たちよりは姿勢の感覚を知っている。
以前話した職人たちはヤズマ皇国に対して差別的な感情を持ってはいないようだったが、それは一般的な感覚なのだろうか。
「市勢の人々となると、また違う感想を持つかもしれませんね。
ですが反対する者がいてもヤズマ皇国に遺恨があるわけではございませんから、単に怯えているだけでしょう。得体が知れない物って恐ろしく感じますもの。」
「蛮族と言われる方たちと何かトラブルがあったときに国に守ってもらえないかもしれない、我が国の法や文化に反するようなことをした時に毅然と対応してもらえないのではないか、という漠然とした不安感があるかもしれません。
ほら、隣国でしたら生活習慣も似ていますし、いろいろな政治的な協定などがありますでしょ?
詳細は知らずとも、お互いに国の秩序を乱す外国人はきちんと罰せられるという認識がありますから。
ヤズマ皇国がそれを守ってくれるという確信を皆が持てれば、忌避する者はほとんどいないのではないでしょうか。」
見知らぬ国のものが自分たちの国に来て好き勝手されるのではないか、という不安。
そして好き勝手なことをした時に国が処罰を与えないのではないかという疑念。
そう言ったことが、蛮族という噂に拍車をかけて、皇国に対して構えてしまう原因になっているようだ。
「そうなのね、ありがとう。
伯爵家では、ヤズマ皇国の話題になることはあるのかしら?」
二人の顔色がさっと変わる。
家に不利なことになるかもしれない情報は話すまいと、言葉を選んでいるようだ。
優秀なメイドたちのようでなによりだ。
「私共は存じませんが、お嬢様も奥様も式典をたいそう楽しみにしております。
以前、パウラ様のお召しになられたドレスが素晴らしかったとのことで、そのようなドレスを着用できる機会をいただけたことを喜んでいらっしゃいました。」
私は頷き、笑みを浮かべる。
「皆で成功させるよう、お力添えをお願いいたしますわね。」
恭しく二人が礼をしたのを見て、その場を去る。
市井に根強い噂はあるものの、使者たちの姿を見れば蛮族という思いもなくなるだろう。
得体のしれぬもの、新しいものを排斥したがる貴族社会のほうが問題が根深そうだ。




