2章 6
「恐れながら、発言を許可いただけませんでしょうか。」
舎人様の後ろに座る面々のうち、我が国のいるを身にまとう青年が口を開く。
アマーリエ様は眉を上げる。
「どうしたの、サミュエル。」
サミュエルと呼ばれた青年は立ち上がる。
そしてテーブルの短辺の前に立つ。
「歓迎の意を示すために制作していただく分に関しては、絵柄を決め、なにかしら王室が許可したことを示す印を入れましょう。
トネリ様、それに関しては、許可をいただけますか?」
「良いでしょう。
ですが、ほかはどうするのです? 製造を一切しないということは無理でしょう。」
サミュエル様は頷いてから、トネリ様に話しかける。
「以前見せていただいたトネリ様がお持ちの扇、あれも骨組みはヒノキという木なのですか?
私は檜扇を見ていないので分からないのですが…見せていただいた扇の木も、我が国の元は違うように見受けられます。」
「ヒノキのもあるが、其方に見せたのは竹だったかな。」
首をかしげ思い出そうとするトネリ様。
パウラ様が口を挟む。
「タケとはなんでしょう?
アマーリエ様から見せていただいた扇の木も、白っぽいなとは思ったのですが。
普通の木を薄くして磨いたものとは違うのですか?」
疑問を受け、アヤメさんが竹の説明をする。
そうか、竹も存在しないのか。
王都にいるから見かけないだけで、地方にはあるのかと思っていた。
「当面、ヒノキと竹で骨組みを用いたものを輸出してください。
できれば、品質を保証する紙を付けるとか、なんかヤズマ皇国側でも対応をお願いいたします。
一般国民に素材を見分けることは無理でも、商人ならば大丈夫でしょう。
定期的に確認をし、贋作をヤズマ皇国産として売っていたら営業停止としましょう。
本物を買いたいならば、多少高くても流通管理されたものを選ぶはずです。
ただし、歓迎式典で製作するものと同じ扇は今後も生産し、庶民が安価に購入できるものとさせていただきます。」
サミュエル様の提案は、決して完璧ではない。
だが、現状では一番現実的な案に思えた。
雑貨や装身具を扱う商人に完璧に見分けることは難しいだろうが、
材木商や大工など気を日常的に扱う人物に判断させれば、ヒノキや竹を見分けることができるはずだ。
「では、竹も素材としては輸出しないほうがよさそうですね。」
どこか残念そうにつぶやくトネリ様を見ていると、なんだか可哀そうな気がしてくる。
ヒノキも竹も、固有種だからこそ売りになるのに、それを輸出できないのだ。
「加工したものを輸出されたら如何でしょうか。
竹細工など、我が国にはない技術ですわ。」
何気なく発した一言に、ヤズマ皇国の面々の驚愕の視線が突き刺さる。
「竹細工…よくご存じで。」
しまった、竹細工の話はまだ出ていなかった。
素材としての輸出の話しか出ておらず、竹も扇の骨組みに使としか聞いていない。
あいまいに微笑みを浮かべ追及から逃れるすべを必死に考える。
助けを求めるようにパウラ様とアマーリエ様に視線をやるが、二人も気になるのか何も言わない。
その様子を見ていたサミュエル様が口を開いた。
「トネリ様。私の提案を飲んでいただけるということでよろしいでしょうか?
「あ、あぁ。よきに計らえ。」
トネリ様がちらりと後ろに目をやると、先ほどと同じように、何かをさっと書き付けている。
私たちの後ろでも、なにやら書き付けているのが音で分かった。
「では、いま話したことをまとめ、トネリ様と国王陛下にご署名をいただきたく存じます。
2日以内には署名をいただけますから、パウラ様、テレーゼ様はそのおつもりで動いてください。」
「わかりましたわ。」 「承知いたしました。」
私たちが了承すると、サミュエル様は一礼をして部屋から出ていく。
そのあとを、慌てて2名の従者がついていく。
サミュエルの立ち位置が分からず、内心で様付けしていたが、やはり地位や身分の高い人物なのだろう。
「トネリ様、ありがとうございます。
サミュエルの案は必ずしも万全なものではございませんわ。
もし、さらに良い案が出てきたり、交易をしている中で何か不都合なことがありましたら、
遠慮なくおっしゃってくださいね。」
アマーリエ様の労わるような声音に、トネリ様も穏やかな笑みを返す。
「ご高配を賜りありがとうございます、王女殿下。
国を挙げて使者を歓迎してくださるようで、安心いたしました。
ヤズマ皇国は未開の国だと蔑まれているかと思いましたよ。」
少しばかり自虐的に口の端を上げ、王女殿下の立場では答えにくい発言をする。
「未開だんて、とんでもありませんわ。
素晴らしい衣類や扇を作られているではありませんか。
私、ヤズマ皇国は未開の国ではなく未知の国だ と皆に申しておりますの。」
ふわりと笑うアマーリエ様は美しい。
アヤメさんとソウビさんはしっかりと頷き、トネリ様やヤズマ皇国の人たちからは感心したような声が漏れた。




