2章 7
サミュエル様が居なくなったあとも、会話は続く。
懸念事項が解決されたあとなので、和やかな雰囲気だ。
アマーリエ様は小さなテーブルをいくつか運ばせ、従者や侍女たちにもお茶やお菓子を振る舞った。
彼らもまた、国の垣根を越え交流しているようだ。
アマーリエ様付きの侍女や役人たちだからということもあろうが、彼らはヤズマ皇国への偏見を持ち合わせていないようだ。
「王女殿下は、ご令嬢方と仲が宜しいのですね。
こんなにも尽力してくれる交遊関係があるのは、羨ましい限りです。」
トネリ様が目を細める。
アマーリエ様は誇らしげに私たちのことを説明をする。
「パウラ様は幼少期から親しくさせて頂いてますわ。
我が国で最も伝統ある公爵家のご令嬢ですから、私と似たような教育を受けることもあって、一緒に学んだり愚痴を言い合った仲ですの。
テレーゼさんとは知り合ってからは日が浅いのですが、類い稀なる感性で私を助けて下さるわ。
ヤズマ皇国と相性が良さそうなので連れていきたいのですが、断られてしまって。」
憂いを帯びた残念そうな表情は、なんとかして差し上げたいと思ってしまうものがある。
トネリ様がそう思ったかは分からないが、慈しむようにアマーリエ様を見つめてから私へと向き直る。
「王女殿下と共にヤズマ皇国の教育を受けることになったご令嬢とは、貴女でしたか。
ぜひ、ヤズマ皇国にいらしてください。国を挙げて歓迎いたしますよ。」
トネリ様のおどけた言い方に、思わず笑みがこぼれる。
「ありがとうございます、トネリ様。
国を挙げての歓迎は、アマーリエ様にだけでお願い致しますわ。」
皆から笑い声が起こり、珍しくアヤメさんとソウビさんも声を出して笑っていた。
パウラ様はそんな二人を見て、嬉しそうにしていた。
「安心致しましたわ。
お二人はいつも、表情を崩さないようにされているでしょう?
教育係としての振る舞いなのか、ヤズマ皇国の仕来たりなのかは存じませんが、我が国で窮屈な思いをしていないか気になっていましたの。」
パウラ様のお心遣いに感心する。
前世で、ことにビジネスやフォーマルの場では、西洋人から見ると日本人は表情が無いと聞いていた。
二人が無表情に感じるのはそのせいだと思い、二人の苦労を真摯に慮ることをしてこなかった。
パウラ様の話を聞いたトネリ様が、なにか不自由をしたのかと尋ねれぱ
アヤメさんは慌てて首を振り、ソウビさんが口を開く。
「アマーリエ様を始め、離宮の皆様には大変良くして頂いております。
それに、隣室にはアヤメさんもいますし、王宮に行けば、トネリ様を始めヤズマ皇国の人間とも話せますし。
食事などはヤズマ皇国を懐かしく思いますが。
お輿入れされるアマーリエ様に比べましたら、なんてことはありませんよ。」
トネリ様は安堵したようだ。
「ならば良い、そなたらのことはくれぐれもと頼まれておるのだ。
王女殿下、やはりヤズマ皇国へ嫁ぐことはご不安でしょうか。」
心配そうに尋ねる。
不安があればなんとかして差し上げたい、と思っているのが痛いほど伝わってきた。
アマーリエ様は、少し首を傾げる。
「うーん、そうですわね。
不安が無いと言えば嘘になりますが、それはどの政略結婚でもそうだと思いますわ。
相手をよく知らぬまま嫁ぐのですから。
でも、アヤメさんやソウビさんのおかげで、ヤズマ皇国を知ることが出来ましたし
なによりヤズマ皇国へ行けることをとても楽しみにしてますの。
両国の架け橋となれるよう、精進いたしますわ。」
顔を綻ばせるアマーリエ様を見ていると、大輪の花が咲く日が目に浮かぶようだ。
トネリ様を始め皇国の方々は、眩しそうにアマーリエ様を見ていた。




