2章 4
職人たちを見送ったあと、パウラ様と私は再び席についた。
パウラ様の指示でメイドたちによって扇が片付けられた。
同時に紅茶が用意されたので有り難く頂戴し、ほっと一息つく。
「検討させて欲しいと言われたときは、焦りましたわ。
でも、さすがパウラ様です。
職人たちもやる気になっていましたわね。」
「扇を見たときから作りたそうにしていましたもの。
私も焦りましたけど、職人には職人の考え方があるのでしょう。
あとは許可を得るだけですわ。」
ティーカップを持ちながら語るパウラ様。
私は疑問に思っていたことを聞く。
「先発隊って、アヤメさんたちのことですわよね?
許可する権限を持っていらっしゃるのでしょうか。」
彼女たちの能力は高い。
でも、重要なことを決定できる政治的なポジションではないはずだ。
パウラ様は困ったような笑みを浮かべながら、音を立てぬよう、そっとカップを置く。
「そうねぇ。二人きりで来たわけではなく、男性官吏もいますから、そちらにも確認するわ。」
パウラ様は王宮に遣いをやる。
すぐに返事が来て、私たちは公爵家の馬車で王宮へ向かうことになった。
あまりにも早い返事に驚くが、パウラ様は平然としている。
これが、公爵家と伯爵家の違いなのか。
王宮に着き通されたのは、アマーリエ様の離宮。
初めてお会いした時と同じ部屋だが、今日は広々とした長方形のテーブルの左右に椅子が六脚。
その後ろにも、数脚の椅子が並んでいた。
侍女たち案内され席に着く。
しばらくすると、ノック音と共に扉が開きアマーリエ様が現れた。
私たちは立ち上がり礼をする。
アマーリエ様は嬉しそうに笑う。
そして後ろを振り返り、アヤメさんとソウビさん、初めて見かけた男性を席に案内する。
男性の服装も、前世の記憶にある和服のようだった。
さらに数名の男性が入室してきたが、彼らは側近のようだった。
中には我が国の衣類を身に着けている者もいたので、世話役なのだろう。
アマーリエ様は私たちと同じ側に、ヤズマ皇国の方たちは向いに並ぶ。
「こちら、パウラ・バーナー公爵令嬢とテレーゼ・リートゥス伯爵令嬢ですわ。」
アマーリエ様に紹介され、私たちは淑女の礼をする。
アヤメさんとソウビさんは深々と頭を下げ、男性も恭しく礼をする。
「パウラさん、テレーゼさん。
こちら、トネリ様ですわ。
ヤズマ皇国でのお名前はもっと長いそうなのですけれども、皆さま舎人様とお呼びしているので、我が国でもそうさせていただいておりますの。」
アマーリエ様が身分を明らかにしてくださらないので、ヤズマ皇国内での立ち位置が分からない。
相手は正式な使者だ。
こちらから挨拶をするべきだろう。
「お初にお目にかかります。テレーゼ・リートゥスと申します。お会いできて光栄ですわ。」
「パウラ・バーナーと申します。本日は急にお呼び建てしてしまい、申し訳ございません。」
私たちからの挨拶に、トネリ様は穏やかな笑みを浮かべる。
「いいえ、お美しいお嬢様方が、なにやら面白いことをしてくださると伺いまして。
お会いできるのを楽しみにしておりました。」
アマーリエ様に促されて、私たちは着座する。
すかさず、侍女たちが飲み物と甘未を用意してくれた。
普段とは異なり、紅茶のほかにもう一つ、取っ手のないカップが置かれる。
パウラ様は不思議そうな顔をする。
その表情に気が付いたアヤメさんが説明する。
「パウラ様、こちらは抹茶と申します。紅茶の茶葉と同じなのですがその後の製法が違うのです。
抹茶以外にも緑茶、前茶などご用意できますので、お口に合うものをお召し上がりください。」
「お紅茶もあるのに、そんなにもたくさんのお茶をご用意くださったの?」
目を丸くするパウラ様に、ソウビさんが笑いかける。
「干菓子と申すお菓子をお持ちいたしました。こちら、お茶と一緒にお召し上がりいただきたいのです。」
真っ黒の御盆にのせて供された干菓子は、ほんのりピンク色の桜、淡い黄色の菊と、色とりどりの花をかたどったものだった。
「まぁ、なんて素敵なの!お花畑のようね!」
「素晴らしいわ、とても美しいですわね。」
目を見張り珍しくはしゃいだ声を上げるお二人に、破顔しながらそれを見守るヤズマ皇国の方たち。
侍女たちも、ほほえましくそれを眺めている。
私は、郷愁の念に駆られてしまった。
特に干菓子が好きだったわけでもない。
桜はきれいだと思っていたけれど、特別大好きなわけでもない。
それでも、胸の奥がきゅうっと握りしめられるような気がしてきた。
「テレーゼ様、どうかなさいましたか?」
「すみません、アヤメさん。あまりの美しさに言葉を失ってしまいましたわ。」
心配そうに声をかけてくれるアヤメさんに、取り繕った返事をする。
「それなら良いのですが。
こちらの薄い紫色がアヤメ、こちらの真っ白な花がソウビです。」
パウラ様は二人と干菓子を交互に見比べてた。
「まぁ、アヤメとソウビはお花の名前だったのね。
もしかして、ソウビって薔薇のことかしら?」
「ええ、そうです。」
はにかんだように微笑みながら答えるソウビさん。
アマーリエ様から、今日はお二人はヤズマ皇国の代表として参加していると話があったが
どうやら口調は普段と変わらないようだ。
お茶とお菓子をいただき一息ついたところで、本題に入る。




