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2章 3

私はできるだけ冷静に、親方に話しかける。

こちらが無茶なお願いをするのだ。機嫌を損ねてはならない。


「すぐにお受けしていただけない理由をお聞かせください。

 こちらで対処できることでしたら、なんとかしますから。」


無理難題を言われませんように、と祈りながら。


「お嬢さん方がどう思ってるのか分からないが、ヤズマ皇国の扇は、そりゃ素晴らしいものですよ。

 同じ職人から見ても惚れ惚れする。絵師たちも同じ意見だった。


 だからこそ、引き受けられないんだ。」


親方は真剣な目をしており、嘘を言っているとは思えない。

続きを促す。


「自分たちの研究用に1つ2つ作るのはやってみたいさ。

 でもな、ヤズマ皇国のものを真似して作って、それを歓迎の印とするんだろ?

 同じだけの品質のものが、即時大量生産できるとは思えないのが一点。

 

 それとな、ヤズマ皇国の扇に我が国独自の柄を描くってのもよ、ヤズマ皇国の扇職人たちが培ってきたアイディアの盗用ってとこだろ?

 木に直接絵を買いたり紙を張る扇なんてこの国にないことはお嬢さん方だって知ってるだろ。

 職人としてどうなんだ?って思っちまうんだよ。」


アイディアの盗用。


その観点はなかった。


我が国において他国の使者を歓迎するときに、その国にまつわるものを身に着けたり飾ったりすることは一般的だ。

前世の記憶でもそう、外交に携わるような方たちは、なにかしらゆかりのあるものを身につけたりしていたはず。


ヤズマ皇国ゆかりのものを購入することができないので、職人たちに作ってもらう気でいたが、それは模倣品となり相手国に悪い感情を与えてしまうのだろうか。

ヤズマ皇国の扇に我が国の草花を描くことは、アイディアの盗用なのだろうか。


現在のヤズマ皇国の扇事情は分からないが

誰か個人が特許を得て制作しているというよりも、もはや生活に根付いた工芸品だろう。

それでもアイディアの盗用とみなされてしまうのだろうか。



親方からの思わぬ意見に、反論することができない。

商会長は腕組みをして何かを考えこんでいるようだ。


部屋を包み込む重々しい空気を切り裂くように、パウラ様が口火を切った。


「おっしゃりたいことはよくわかりましたわ。

 ヤズマ皇国の方が許可を出せば、よろしいのですか?

 職人の方に許可を取る時間はありませんが、皇国の、それなりの立場の方に許可を取ることはでいますわ。」


皇国から許可が出たとあれば、模倣やアイディアの盗用という懸念は解消される。

それならば、制作に対する心理的ハードルはなくなるだろう。

親方は、おや、と眉を上げる。


「使者はまだ来てないんだろ? 許可を取っている間に使者が着くじゃないのか?」


パウラ様は、さも重大な話をするといわんばかりに身をかがめ、口元に手を添えて声を潜める。

思わず、その場にいた皆が耳をそばだてる。


「詳しいことは申し上げられないのですが、先発隊がもう来ているのです。

 その方々にお伺いを立てますわ。」


はぁぁ と感嘆と驚きが入り混じったような息があちこちから漏れる。

商会長は職人たちとは違った息を吐いたようで、パウラ様をまじまじと見つめていた。


先発隊とは、アヤメさんやソウビさんのことだろう。

彼女たちは名家の子女と聞いているが、果たして許可を出す権限を持っているのだろうか。

疑問には思うが、口には出さずにパウラ様と親方の話し合いを注視することにした。


「その人たちが許可を出す立場にいるなら、是非そうしてくれ。

 作って歓迎しても、模倣品だの盗作だのと思われるのは気が重いんでね。」


「かならず、許可を取って見せますわ。

 ですので、扇の試作品だけ先に作成してくださりませんか?

 許可が出たら、すぐに製作に取り掛からないといけませんでしょう。」


パウラ様が自信たっぷりに言うので、親方も職人たちもこくこくと頷く。

誰一人、許可が取れないなどとは疑っていないようだ。


パウラ様のその場の空気をものにする力はすごい。

ふわふわとした雰囲気も相まって、普通に会話をしていると錯覚を起こすが

パウラ様は難しい理屈をこねくり回さなくとも、人を従える力を持つ。



商会内長も後に続く。


「必要な物資も、早めに調達したいですね。

 親方、許可が出た場合に必要になりそうなものと量を教えてください。

 絵師の皆さんも、筆や絵の具など必要な道具をそろえますから、言ってください。」



許可さえ取れれば、一気に製作は進みそうだ。

ほっと胸をなでおろした。

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