2章 1
謁見を済ませた日から、数日が経った。
アマーリエ様からお預かりしたヤズマ皇国の生地の切れ端。
何に使おうか考えてはいるものの、これといったアイディアがない。
それと同時に、扇作りもしなければならない。
パウラ様が公爵を説得してくれたそうで、安価に量産化ができるのであれば、使者が通る沿道の国民に配ることができるようだ。
さすがに短期間で全国民に行き渡らせるのは無理だが、アマーリエ様のお輿入れまでには全土に広げられるとのこと。
制作の優先順位としては貴族階級、富裕層や特権階級、それから庶民となるが、生産量は庶民向けが最も多い。
全てを同時進行で手配しなければならない。
アマーリエ様は城下を気軽に歩き回ることができないので、私とパウラ様が調整役を担うことになった。
パウラ様の御宅に伺い、本日の話し合いをする。
公爵家御用達の商人と扇職人数名、絵師数名を呼び寄せてくれた。
アマーリエ様が嫁ぐことは伏せたまま、ヤズマ皇国との国交樹立と交易の活性化を目指していることを伝える。
職人や絵師たちは興味無さそうにしていたが、商人は目を輝かせた。
「それはそれは。お嬢様がヤズマ皇国のリボンを用いたドレスを着用されたとは噂で伺いましたが、国交樹立のためだったのですか。
交易が活性化すれば珍しいものがたくさん入ってくるようになりますね。」
公爵家に出入りする商人となれば、さすがに耳が早い。
パウラ様はクスリと笑って応じる。
「商機ですわね、でもまだご内密に。
国交樹立のためにヤズマ皇国の使者が来るのですが、遠路はるばるいらっしゃるでしょう?
両国の繁栄を願い、両国の優れたところを融合したものを使って歓迎したいのです。」
そう言って、アマーリエ様からお借りした扇をいくつか、机の上に広げる。
職人たちと絵師たちが身を乗り出す。
「この扇を作っていただきたいのです。
ヤズマ皇国のものを模倣した品と、絵柄を我が国独自の花や自然にしたものと。
それから庶民向けの安価なものと、最低でも三種類は必要ですわ。」
ごくり、と職人たちの喉が動くのが分かった。
目が爛々としている。
自分の専門分野であるにもかかわらず、見たことのない品物に興味津々だ。
「これ、触っても…?」
「もちろんですわ、お手に取ってご覧くださいませ。」
扇職人の親方が、一番大きな扇に恐る恐る手を触れる。
周りの職人たちも、ほかの扇を手にして互いに比べあう。
絵師は鞄から紙を取り出し、ささっとスケッチをし始めた。
「すげぇな、これは。ヤズマ皇国って、なんかあれだろ。遠くにある未開の国って聞いたことがあったけどさ、こんなの未開の国が作る品じゃないよな。」
「野蛮な国じゃなかったか? こんなの作れるんだから、野蛮ってことは無さそうだな。」
職人たちの感想を聞き、貴族以外からも、未開の国と思われていることを改めて痛感した。
国民たちの、この意識を変えなければならないのか。
出来るだろうか。
「みなさん、未開の国ではなく未知の国ですわ。
私たちがヤズマ皇国のことを知らないから、野蛮だと思われているだけで、実際は文化水準も高いのです。
未開だという思い込みは捨ててくださいまし。」
伝わるかな、と不安になりつつ口を挟む。
職人たちは怪訝な顔をしており、深くは理解していないようだ。
「お嬢様のおっしゃるのはつまり、先入観を捨てろってことですかい?」
親方からの問いかけに、私はこくりと頷く。
親方は、こいつらに伝わるかなと呟きながらボリボリと頭を掻く。
職人たちは思い思いに話し出す。
「まあ、難しい話はわかんないけどよ、
すごいモノを作る国なら、きっとすごい国ってことだろ。」
「ヤズマ皇国の職人とは話してみたいな。」
「絵師としても興味深いですよ。詳しく聞きたいです。」
職人たちのほうが、貴族よりも柔軟にヤズマ皇国を受け入れてくれそうだ。
同業者として、なにか通じるものがあるのかもしれない。
他の国民も、そうだと良いのだけど。
「木でできているのですね。そして木に直接絵を描いている。」
「この紐は? 生糸か?」 「となると、そっちの組合にも話を付けなきゃいかんな。」
「そっちの扇はどうだ?」 「骨組みは木のようだが、すごく軽い。紙が貼ってあるな。」
「金地に絵や文字が書いてあるが、なんて書いてあるんだろう?」
「材木商にも話を付けなければならないが、紙はどうだろうか、我が国の紙とは違う気がする。」
「大量に絵を描くとなれば、顔料も必要でしょう。この絵はどうやって描いているのだろう。」
「いくつかの工房で分担するようだな。振り分けはどうするか。」
楽しそうに話す職人たち。
商人もそれを聞きながら、なにやらメモを取っている。
この後話し合いや調整が必要となる分野を把握しているのだろうか。
パウラ様はその様子を静かに見つめていた。
「どうかなさいましたか、パウラ様。なにか気になる点でもございました?」
素晴らしいと思いましたの。あんなにも熱心に、そして楽しそうなのですもの。
みなさん、仕事に誇りを持っていらっしゃるのね。そして、他国の職人への興味関心も。
ヤズマ皇国からの品が我が国に流入するようになれば、我が国の生産物にも大きな影響を与えそうね。
私たちも負けていられないわね。」
パウラ様はかわいらしくウィンクをする。
公爵様に似たのだろうか、と思ってしまった。




