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1章 20

「公爵様。私の許嫁をご存じなのですか?」

「うん?」

「お父様が教えてくださらないのです。許嫁がいたことさえ、つい最近知ったのです。」


公爵は驚いたように、私とお父様を見比べる。

そして、苦笑いを浮かべた。


「テレーゼ嬢は家のためにという考えが好きではないようだから、反対されるのが嫌で許嫁を隠していたのか?

 そりゃ年頃になっていきなり知らないおじさんと結婚しろと言われたら拒絶するかもしれないが、

 相手の人となりを知る時間があれば反発心も薄れるだろうに。」


公爵様の言葉に同意する。


確かに嫌だけど、家のためだけに嫁ぐとか何があっても嫌だけど。

相手がいい人ならば、純粋に惹かれあって結婚しようという気になるかもしれないのに。


ずっと許嫁の存在を隠されていて、周りは婚約しただのなんだの言う中でその手の話が無ければ

私は家にとらわれずに自由恋愛・自由結婚ができるものだとずっと思っていたわけで。

その分、幼少期から相手が決まっている令嬢よりも反発心が芽生えるのよ。



「最初は、まだ許嫁だなんだと意識するには早いだろうと思って言わなかったのだ。

 相手の気を引くための化粧だなんだの覚えるのは年頃になってからで十分、のびのびと生活してほしかったからな。

 それが次第に、家のための結婚なんて信じられない!と言い出すものだから、言いだせなくなってな。」


しょんぼりとするお父様を見ても、それなら仕方ないから許嫁殿と結婚しようとは思えない。

お母様は、やれやれと言わんばかりの顔をしている。

もしかしたら、お母様は前から許嫁の話をするようお父様に働きかけてくれていたのかもしれない。


「テレーゼ嬢、許嫁が嫌ならば、忘れてしまえばいい。正式に婚約したわけでもないのだから。

 何かあっても国王陛下がうまくとりなしてくれるだろう。」


「「え!?」」

お父さまと私は同時に声を上げる。


「ああ、そうですわね、許嫁であって婚約者ではないのですものね。

 そうですわ、破棄の手続きも婚約よりは簡単ですし。公にされていないならば私も相手も名誉が傷つくことはないですものね。」

「いくらお前が公爵だからって、そんな勝手なことを。」


私たちの声を聴きながら、公爵は笑ってお母様に話しかける。


「テレーゼ嬢は、貴女に似てセンスが良く頭の回転も速い。新しい時代の考え方ができる女性だ。

 ヤズマ皇国の使者との面会での成果を見て、留学や許嫁の件を考え直してみてはどうだろうか。

 国王陛下ではないが、試験として考えてみてはいかがだろうか。」


「それも一理ありますわね。

 でも、私に決める権限はありませんわ。」


そうしおらしく答えるお母様は、どこか儚げに見える。

一家の女主人ではあっても、婚約などの家が絡むことの最終決定は家の主であるお父様の分掌だ。

むろん、嫁入り道具の指示などはお母様がするだろうが。


公爵は首を横に振る。

そしてお父様をちらりと見てから声を潜める。

「なに、このような時、娘の味方をして使用人たちまで掌握し、一家の主に翻意を促すのは女性だろう。

 なにより、貴女ならあいつを手中に収めることくらいたやすいだろう。」


パチンと音がしそうなくらいはっきりとウィンクをする公爵。

お母様は微笑みを浮かべる。


「えぇ、その通りですわ。」


その通りんなんだ!?

 

いや、お母様は強いなと思っていたけれども。

使用人たちに気を配るのは女主人であるお母様だけれども、それを差し引いても使用人たちのお母さまへの信頼は厚い。

正直、お父様よりお母様のほうが人気がある。


でも公爵相手に言い切ってしまうとは。

お父さまはよほど、お母様に頭が上がらないということだろうか。



お母様は私を見つめ、優しく問いかける。

「テレーゼ。あなた、留学したいという気持ちが少しはあるのよね?

 結婚云々は別として。学びたいという気持ちがあるのよね?」


「はい、お母様。

 家を捨ててでも何が何でも留学したいか、と聞かれたら、今はまだ断言はできません。

 ですが、留学してみたいなという気持ちはあります。」


絶対留学したい!と熱く語ればよいのかもしれないが、嘘をつくことはできない。

本心を聞き、お母様は静かに頷く。


「それならば、公爵様からご提案いただいたように、アマーリエ様たちと力を合わせて、使者との面会を成功させなさい。

 そうすれば、お父様を説得するときに味方になりやすいわ。」

「私も加勢しよう、テレーゼ嬢。貴女の実力が発揮さっれることを、楽しみにしているよ。」


お母様と公爵様は、私に期待して下さっいるようだ。

留学の件や結婚のことは別として、個人の能力を評価してもらえるのはとても嬉しい。

この貴族社会で、女性が個人として活躍することは難しいからだ。


面白くなさそうにしているお父様にも、認めてもらえるように頑張らなきゃ。



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