1章 19
王族の退出を見送り、私たちも別室へと案内された。
王宮にしてはこじんまりとした装飾の少ない部屋だが、暖かみがある部屋でほっとする。
着座すると紅茶が振る舞われ、口にすると一気に緊張が解れた。
「改めて、謁見お疲れ様。
使者との面会日も楽しみにしているよ。」
公爵はウィンクをしてくるが、癖なのだろうか?
お父様のこめかみがピクピクしていた。
「ありがとうございます。パウラ様も参列なされるので、心強いですわ。」
当たり障りのない返事をする。
公爵は、パウラ様が来る日に備えて準備に奔走している様子を楽しそうに話す。
お父様やお母様も談笑し、ゆったりと時間が過ぎていった。
和やかに解散するかと思われたとき、公爵が少し硬い表情をした。
「リートゥス伯、テレーゼ嬢を留学させるならば、デビュタントを急いだほうが良いのではないか?」
「私は、娘がヤズマ皇国でやっていけるとは思えません。
留学させるつもりは無いのです。」
きっぱりとお父様が言い切ると、公爵は眼を見開いた。
陛下の命令に近いお願いを断るとは、思ってもいなかったのだろう。
小さくため息をついてから、気を取り直すように笑みを見せる。
「陛下の提案を拒絶することはなかろう。
まだ時間はある、夫人と共に考えてみるが良い。
テレーゼ嬢、貴女もしっかり自分と向き合い考えてみなさい。
ヤズマ皇国という未知の国を、貴女はよく理解している。
これは得難い才能だ。才能を無駄にしてはいけないよ。」
公爵に諭され、申し訳ない気持ちになる。
未知の国を知っているように見えるのは、ヤズマ皇国が前世の日本と良く似た国だからだ。
いつか両親には本当のことを話すべきだろうかと思案を巡らす前に、優雅に頭を垂れる。
「勿体ないお言葉ですわ。」
「留学する気があるのであれば、王女殿下の教育係として来ているヤズマ皇国の子女に、貴女にも講義をするよう依頼しよう。
王女殿下も貴女の留学を望んでいるようだから、一緒に学べばよかろう。」
以前、アマーリエ様からもそれとなくお誘いはあったが、公爵の後押しがあるならばヤズマ皇国についての講義は実施されるだろう。
日本と比べてどのような国なのか、興味はあるし知りたいとは思う。
アヤメさんやソウビさんたちから話を聞けるのであれば、喜んで参加したい。
ただし。留学が条件になるのならば話は別だ。
「留学するかは別として、ヤズマ皇国のことを学びたいとは思っております。
アマーリエ様が嫁がれれば、ヤズマ皇国の方とも関わる機会が増えるでしょうし。
未知なことが多い国だからこそ、正しく知っておいたほうが良いと思いますの。」
私の発言に、公爵はにこやかな表情になり、反対にお父様は驚いた表情を見せた。
お母様は小さく微笑みを浮かべながら頷いていた。
「テレーゼ。そんなことを考えていたのか?
確かに学んでおくことはよいことだ。
ヤズマ皇国のしきたりや典礼を学ぶことは我が家のためにもなる。」
我が家のため。
お父様の好きな言葉。
家のために勉強をしなければならないというのか。
興味関心があるからこそ学ぶのであり、それは自分のために他ならない。
結果的に家のためになることはあっても、はじめから家ありきで考えるのは私には合わない。
「家のためではありませんわ。私が知りたいから、学ぶのです。」
お父様の目をしっかりと見据え、きっぱりと断言した。
お父様は眉を顰める。
面白いものを見る目をした公爵は、愉快そうに笑いだす。
「テレーゼ嬢は、今の若い世代では流行っている、個人主義の価値観をお持ちのようだな。
なんにせよ、学ぶのはよいことだ。
留学するかどうかは、ヤズマ皇国がどのような国か学んでから決めたっていい。
講義の件は、話がまとまり次第追って連絡しよう。」
「ありがとうございます。」
「そして、デビュタントの件もな。
卒業後にと考えていたのかもしれないが、少しくらい前倒ししてもよいだろう。
きっと王女殿下も参加したいと言い出すだろうから、王女殿下が輿入れされる前に実施したほうが良いぞ。」
お父様は嫌そうにため息をつく。
それを見た公爵はにやにや笑う。
「王女殿下が臨席するとなると衣裳をどうしよう、とか許嫁殿がどう思うかとか考えているんだろう。
お前は昔っからあれこれ考えてばかりで。
先走って考えずにきちんと当事者たちに話をして、それから決めればいいんだ。」
公爵の言葉に引っ掛かりを覚える。
それが表情に出ていたのか、お母様がそっと耳打ちをしてくれた。
「公爵様とお父様と私はね、学園で一緒だったのよ。
二人は公爵家と伯爵家の垣根を越えて仲が良かったわ。
貴方とパウラ様みたいにね。」
なるほど。
それでお父様は公爵の前では表情を顔に出すのか。
年齢や貴族の慣習として学園で一緒であろうことは想像がついていた。
だが名前で呼び合っているところを見かけないから、特別仲が良いとまでは思わなかった。
親子二代に渡り、公爵家とは縁があるようだ。
でも、私が引っ掛かったのは許嫁殿のほうだけどね。




