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1章 18

「陛下、恐れながら申し上げます。

 なぜ宮廷デザイナーたちにヤズマ皇国を取り入れたデザインをするようご命令されなかったのでしょうか?

 陛下の命令があれば、皆さん、私よりも素晴らしいデザインをしたはずです。」


失礼に当たらぬよう、言葉を選びながら聞きたかったことを尋ねた。

ヒヤリとした空気が場を包む。

頬をピリピリする。

しまった、聞いてはならないことだったのか。


国王陛下は、ふっと笑って場の空気を和ませてから真剣な顔をする。


「命令を出すのは容易いが、ヤズマ皇国ではそうもいくまい。

 他国の王族に嫁ぐということは、外交官のような役割を果たすといいことだ。

 この程度の解決が出来ずに、ヤズマ皇国に嫁いで成果を挙げられると思うか?

 心を許せる味方が居ないなかで立ち回り、我が国に益のあるよう振る舞う必要がある。

 そのための試験のようなものだ。」


王者の冷酷ささえ伺わせる声色からは、父親として娘を案ずるような暖かさを感じない。

国の上に立つ者として後進を育てる、先達者の声だった。

王家ともなれば、一般的な親子関係とは異なるのか。

アマーリエ様の胸のうちはいかがばかりか。


「試験、でございますか。」


「左様。

 切り抜けられないならば、ヤズマ皇国へとついただところで何も成し遂げられないだろう。

 むしろアマーリエを人質として、こちらが不利になるような条件を突きつけられるかもしれぬ。

 娘は大事だが、それと同じく我が国とわが国民たちも大事だ。

 我が国を苦境に陥れる可能性があるかどうかを、見極めねばならないのだ。」


ヤズマ皇国でアマーリエ様が苦しい立場になるだけではなく、我が国が弱い立場になる可能性がある。

国王陛下はそれを危惧されているのだという。


もし、アマーリエ様が今回の件をうまく処理しきれなかったら、陛下はどうしたのだろうか。

婚姻を取りやめたのか。替え玉を嫁がせるのか。

能力がないと国王に思われてしまったら、ヤズマ皇国以外の国にも嫁がせてはもらえないだろう。

他国に嫁ぎ政に携わりたいとアマーリエ様はおっしゃっていたけれど。

国内貴族に嫁がされるか、あるいは一生独身でいるよう強要されるのかもしれない。




返す言葉を探していると、王妃が口を開いた。



「テレーゼ嬢、娘を思いやってくれてありがとう。

 優しい友人が出来たようで、嬉しいわ。


 貴女の新しいドレスの試作を見せてもらいましたが、素敵なデザインばかりだわ。

 帯を変わった結び方にするのもそうですけれども、ヤズマ皇国の文化や風習を理解していなければ、なかなかできないことよ。

 その優れた発想力を生かすためにも、一緒にヤズマ皇国に行ってはどうかしら?」


アマーリエ様から言われたような言葉を、王妃からも聞くことになるとは。

ギョッとして王妃に視線をやると、国王が愉しそうに笑う。


「それは良い。

 なに、アマーリエと共にずっとヤズマ皇国にいる必要はない。

 半年か一年くらい留学し、帰国すれば良かろう。

 連絡官や大使らと道中共にすれば、危険もあるまい。

 リートゥス伯爵、考えておくように。」


愉しげな声が次第に真剣になり、最後はもはや命令かと思うほど威厳に満ちていた。

父母が反論せずに深々と礼をしたのを見て、アマーリエ様が少し嬉しそうにしていた。

国王から言われれば受け入れざるを得ない、と踏んでいるのだろう。


今も変わらず、見ず知らずの婚約者から逃げるべく留学したい気持ちもある。

パウラ様に言われたように、逃げるためのヤズマ皇国行きは良いことではない。

ヤズマ皇国に前世の祖国を感じるからこそ行ってみたい気持ちも、どちらもある。

 

一方で、不安もあり躊躇してしまう。

両親に強く止められれば行くのを諦めるし、背中を押されれば喜んで行く。

その程度の気持ちで、ヤズマ皇国にいくのは無謀だろうか。



「陛下、ヤズマ皇国に留学先があるのでしょうか。

 我が国とは教育制度も、かなり違うようですが。」


遠慮がちな公爵の発言に、私はハッとする。

そう、ヤズマ皇国が前世の日本にそっくりならば、教育制度も学校も違うはず。

アヤメさんたちの服装を見るに、まだ文明開化前だ。

江戸時代なら私塾もあるが、それより前ならばどうしたものか。

女子学生の留学を受け入れてくれる学校を探さねばならない。


陛下は顎にてをあて、少し考えているようだ。


「ふむ。我が国とは制度は違うが、学ぶことは出来よう。

 なに、学園側にはヤズマ皇国での学びを以て卒業できるよう話をつけておく。

 

 テレーゼ嬢、色好い返事を待っているぞ。」




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