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1章 12

数日後、パウラ様が遊びに来た。

公爵家と比べたら狭い我が家だが、パウラ様は居心地が良いと言ってくださる。


各国や地域との儀礼等の本がずらりと並ぶ書庫にある応接セットで、パウラ様とお茶をする。


「いつ見ても圧巻だわ!

 我が家にも家族が使える書庫はあるけど、広く浅くといった感じなの。

 儀礼や文化だけでこんなに揃ってるなんて、王立図書館以上だわ。」


ところ狭しと並んだ本の背表紙を見ているようだ。

古い本から新しい本まで、我が国の研究者による外国分析の本、外国で出版されたものを翻訳した本もあれば原書もある。

パウラ様は一息着いてから、真剣な顔をする。


「ヤズマ皇国の本はございませんの?」


「専門書はございません。他国の資料に記載されている部分を書き写したものならあったはずです。」


未知の国と言われるだけあって、詳しい本は無い。

探検家の本にチラリと記述があったりもするが、ほとんどがヤズマ皇国の隣国で聞いた情報を伝聞形式で記している。


「そう…。」


目を伏せ、残念そうな顔をする。

パウラ様もヤズマ皇国に興味が湧いて、読みたかったのだろうか。


「私もテレーゼさんのように、アマーリエ様のお役に立ちたくて。何か本があるなら、お借りしたかったの。

 テレーゼさんはヤズマ皇国に誘われるくらい才能もあって、羨ましい。

 私だけ何も出来なくて、とても不甲斐ないわ。」


眉を潜めて、沈痛な面持ちだ。

私は努めて明るく言う。

 

「何をおっしゃいますの、パウラ様。

 アマーリエ様と私を引き合わせて下さったのはパウラ様ですわ。

 人を紹介するというのは、なかなか重労働でしてよ?

 人脈も必要ですし、会わせても問題ないかを見極めなければならないのですもの。

 社交の得意なパウラ様だからこそ、出来たことですわ。」


誰かを引き合わせるのは、上手くいけば楽しいし皆に益がある。

でも失敗すれば、双方からの信頼を失うことにもなる。

パウラ様がアマーリエ様に合わせて下さったのは、私を王女殿下に会わせても問題ないと判断して下さったからで、評価して頂けていることが嬉しい。


言葉を尽くして説明するうちに、パウラ様の表情柔らかくなる。


「そう…なのかしら。

 そう言って頂けて、少し気が楽になったわ、ありがとう。」


他愛もないおしゃべりをしながら、お茶を頂く。

私は気になっていることを、思い切って聞いてみた。


「パウラ様は、アマーリエ様からご婚姻のお話を聞かれたのですよね?

 アマーリエ様は、本心からヤズマ皇国に行きたいと思っていらっしゃるのでしょうか。

 王女であるがゆえに、嫌でも婚姻を結ばなければならずに我慢されてるのでしょうか。」


パウラ様はパチパチとまばたきをする。

そんなこと考えたこともなかった、というように。


「アマーリエ様は、婚姻を望まれていると思うわ。

 昔からね、国内の貴族へ降嫁だけは絶対に嫌だとおっしゃっていたの。

 他国へ、それも王位継承者の元へ嫁ぎたいと話していたわ。王妃として、政がしたいと話してくださったわ。」


政がしたい。


その言葉に息を呑む。

まだまだ女性が政治に携わるのは難しい。

そのような中でキッパリと言い切るとは、なんて強い意思なのだろう。

王家に育つと、自然と政治に対する意欲が身に付くのだろうか。

パウラ様は続ける。


「ヤズマ皇国で女性が政治に参加できるのかは分からないわ。

 でも、未知の国だからこそ、アマーリエ様は楽しみなのではないかしら。

 相手のことがよく分からないまま嫁ぐのは不安でしょうけれど、性格が合わなければ、公的な場でのパートナーとして振る舞い、プライベートな付き合いはしなくて良いそうよ。

 公式な妾を持てるからお世継ぎも問題ないみたい。」


公式な妾?

前世の宮中や大奥のような一夫多妻制なのが誤って伝わっているのか、本当に妾がいるのかどつらだろうか。


いずれにせよ、アマーリエ様は相手と反が合わなければ

私的空間では共に過ごす必要が無いようだ。

公的な場においてはヤズマ皇国のため、きっと協力体制を敷くのだろう。

有能な統治者であれば、だが。


「もしかして、テレーゼさん。

 無理矢理嫁がされるのか、王家や国の犠牲に

ならないかを心配なさっているのかしら。」

「えぇ。私、絶対嫌なのです。家のために結婚するのが。

 個人の幸せのために結婚したいのですわ。」


パウラ様は、フフフと笑う。


「理想はそうですわ。

 でもね、王家や公爵家では、家のため国のための婚姻こそが価値があると刷り込まれて育つのよ。

  領民の幸せ、国民の幸せが私たちの幸せである、とね。

  それは男性も同じよ。

  配偶者と合うかどうかより、領地や国にどれだけ利益をもたらしてくれるか、が大事なの。

  もちろん、相手が暴力的だとかの酷い場合は別ですけれどね。

  伯爵家も、そうではなくて?」


不思議そうな顔で問いかけてくるパウラ様。

一定以上の貴族にとっては、それが常識だからだ。

恋愛結婚する貴族もいるが、釣り合いのとれる家柄同士の恋愛が主であり

恋愛結婚であっても、家や領民の幸せに繋がる結婚なのだ。


「国のためは滅多にありませんが、家のため領民のためとは言われます。

 

 パウラ様、私、許嫁が居たようなのです。

 相手がどなたなのかは教えて下さらないのですが、許嫁が居ることがそれが嫌で嫌で。

 いっそ、ヤズマ皇国に行ってしまおうかしら。」


冗談目かして言ってみる。

パウラ様の目の色が変わる。


「結婚から逃げるためにヤズマ皇国に行きたいとおっしゃっるの? それは良くないわ。

 アマーリエ様に対しても失礼よ。

 きちんとお考えになってちょうだい。」


いつもはふわふわした雰囲気のパウラ様が、厳しい声を出したので驚いた。


結婚が嫌でヤズマ皇国に行くのは、逃げているようにしか見えない。

浅はかな考えを捨てなくてはいけないことに気付かせてくださって良かった。


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