1章 11
アマーリエ様は、優しい笑みを浮かべながらお父様にも話しかける。
「伯爵、テレーゼさんのおかげで素敵なドレスに仕上がりましたわ。ありがとう。
他のデザインも考えて下さってるので、楽しみだわ。
公爵もそうお思いでしょう?」
「そうですな、さすがリートゥス伯爵家のご令嬢だと、皆も褒めてましたよ。
途中で結び方を代えたり、パウラにまで帯を使ったりと、私も楽しませてもらったよ。」
公爵もアマーリエ様に応じる。
私に向かってウィンクをされ、どぎまぎしてしまう。
「娘がお役に立てたならば光栄です。」
お父様とお母様が、誇らしそうに礼をする。
アマーリエ様もにこりと笑って応じる。
「ぜひテレーゼさんにも、ヤズマ皇国に来て欲しいのだけど、断られてしまってね。
やはりダメかしら。ずっと居て欲しいとは言わないわ。
私が慣れるまで半年くらい、留学という形でも構わないのよ。」
二人は真っ青な顔で首を横に振る。
「とんでもございません、娘には家のために為すべきことがありますので。
学園を卒業したら、結婚させようと思ってましてな。」
「王女殿下のようなご立派な方でしたら、在学中に留学させるのも考えますが、娘はまだまだ安心して送り出せませんわ。」
家のために結婚。
大嫌いな話に、無表情になる。
お母様が私を安心して送り出せないのは分かるから、反論はない。
どうしてもヤズマ皇国に行きたい訳でもないのに、止められてイライラするのは、やはり「家のための結婚」が嫌なのだと再認識した。
パウラ様が意を決したように前に出た。
「お言葉ですが、テレーゼさんは素晴らしい実力をお持ちだわ。
いつもドレスの相談に乗ってくださるけど、お父様である伯爵と、伯爵夫人のお仕事をよく理解しているからこそ、よ。
今日だって、私は何もアイディアを出せなかったのにテレーゼさんはいくつも考え付いていたもの。」
お父様は、パウラ様からもお褒めの言葉をいただいたからか、嬉しそうに笑った。
伯爵家の娘として誉められたから嬉しいのか。
娘だから?それとも娘に良い友達が出来たから?
「パウラ様、ありがとうございます。
でも、まだまだです。我が家の役割を考慮すれば、もっと学ばねばならないことがたくさんあります。
我が家の名を背負っていながらこの程度では、他国に留学させることは出来ません。」
「そうかしら。テレーゼさんは十分、立派な方よ。
急なお願いでもしっかり役目を果たしてくれたし、皆の前で機転を利かせて話をするのも上手でしたわ。
でもまあ、いいわ。あと一年ありますし、気が代わったらいつでもおっしゃってちょうだいね。」
アマーリエ様からのお褒めの言葉が、嬉しい。
個人として認めてもらえるほうが、性に合ってる。
その後は次回に向けた打ち合わせをし、後日パウラ様とお会いする約束をしてから、私たちは屋敷を去った。
お父様たちは馬車の中で褒めて下さったけど、アマーリエ様のヤズマ皇国へのお誘いは社交辞令だと思っているようだった。
「お父様、やっぱり私、卒業したら結婚しなくてはいけないの?」
「卒業2、3年内には、と考えているが。
あとは許嫁殿がなんというか、かな。」
「許嫁!? そんなの聞いてないわよ!」
今日一番の大声が出た。
お母様は声量に驚いたのか、顔をしかめる。
お父様は私の抗議など意にもせず、軽くあしらう。
「そんなに驚かずとも、名のある貴族なら珍しくないだろう。
結婚する年頃になったら紹介しようと思ってな。
なに、そのうち分かるさ。」
会ったこともない許嫁がいて、結婚しなければならないとは。
嫌、絶対に嫌。
会ってみてお互いが恋に落ちたら良いわ。
恋とはいかなくても、人として尊敬し合えるとか、穏やかに家族としての愛情を育めるならまだ良いのよ。
でも、全く合わない相手だったら? ずっと我慢を強いられるの?
家のための結婚だと、離縁も難しいわ。
合わない人、嫌な相手とこどもを作らなきゃいけないの?
ぞっとする。
そんな結婚するくらいなら、アマーリエ様に付いてヤズマ皇国に行ってしまおうかしら。
許嫁殿が諦めた頃に帰国したら、結婚せずに済んで良いわね。
それとも、他の人をあてがわれるかしら?




