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1章 10

「テレーゼさん!いったいどういうこと?!」

 

会が終わり、アマーリエ様の控え室となっていた部屋に戻ると

扉が閉まるや否や、パウラ様はものすごい勢いで聞いてきた。

アマーリエ様も頬に手を当て、困ったように微笑む。


「柔らかい帯をドレスに仕立てる話はしましたけど、まさかこちらもドレスに結ぶとは思いませんでしたわ。」


パウラ様は、アマーリエ様の言葉にブンブンと頷く。

それから、ハッと気がついたように言う。


「アマーリエ様が最初に入場されたとき、腰にリボンなんて幼い子みたいって言われてたでしょ。

 この兵児帯って帯なら尚更リボンみたいじゃない、私大丈夫だったかしら?」


「それは問題ございませんわ。我が国のリボン結びとは、全く違いますから。

 私が黙っていたのは、お二方を驚かせるためですわ。私、パウラ様に黙って離宮に連れていかれたのですから、おあいこでしょう?」


してやられた、という顔をする二人を尻目に、アヤメさんとソウビさんを労う。


「お二方とも、無理なお願いを聞いてくださりありがとうございました。

 素晴らしい技術でしたわ!きっと習いに来る侍女やメイドがあとをたたないわね。」


二人はゆっくりと頭を垂れる。


「お役にたてまして、光栄です。

 テレーゼ様はヤズマ皇国の衣類に精通されていらっしゃるのですか?

 帯を初めて見て、変わり結びを思い付いたとは思えず…。」


アヤメさんの言葉にソウビさんが頷く。

いつか聞かれたらどうしよう、と思っていた質問だが意外にも早く聞かれてしまった。


「ヤズマ皇国の衣類を目にしたのは、初めてよ。」


そう、ヤズマ皇国のは。

前世の話は信じてもらいにくいから、とても良く似た国を知っていると言ってしまえば楽だけど、王女殿下が知らない国など無いだろうし。


目にしたのは初めてだが、聞いたことがある。本で読んだことがある。

いくらでも解釈のしようのある言い回しにとどめておいた。


「左様でございますか。

 でしたらなおさら、テレーゼ様は衣類に対する素晴らしい感性をお持ちなのですね。

 ヤズマ皇国の文化も学ばれれば、深くご理解頂けそうです。」


 アヤメさんがふんわりとはにかんだ。

普段表情を変えないので、とても驚いた。アマーリエ様とパウラ様も目を丸くしている。

遠い異国の地で、自国に理解を示してくれる相手に気を許したのだろうか。


「ヤズマ皇国の文化、興味がありますわ。

 ヤズマ皇国出身者と交流する機会も普段はございませんし、学ぶことが難しいのです。」


アマーリエ様はキラキラと目を輝かせ、手を打った。


「それならテレーゼさんも、一緒に教育を受けませんこと?

 そうだわ、私の輿入れに着いてきたらよろしくてよ。一緒にヤズマ皇国に行きましょうよ!」


は!?


突拍子もない申し出に思わず声が出そうになるが、慌てて取り繕う。


「あ、いえ、それはちょっと…。

 まだ残りのドレスの離宮にはうかがわせて頂きますから、その時にお話を聞かせてくださいまし。」


アマーリエ様は残念そうな顔をする。

パウラ様が口を開きかけたその時、ドアがノックされる。

メイドが対応する間に、私たちもさっと身だしなみを整えた。


パウラ様のお父様お母様、私のお父様お母様が入室した。

さっと立ち公爵夫妻に礼をすると、会釈で応じて下さった。


「王女殿下、失礼致します。

 本日はご参加くださりありがとうございました。」


「公爵夫妻、こちらこそ素敵な会をありがとう。

 ヤズマ皇国への意識が、少しは改善されたかしら。」


パウラ様のお父様は、顎に手を当て考える。


「そうですなぁ。パウラたちの世代は、悪い印象は少ないでしょう。

 我々世代は、商売やら外交やらの打算はありますが表向きは良くなっているでしょう。

 内心は分かりませんが、ご婚姻に強い反対は無いでしょう。」


アマーリエ様は安心したように頷く。

反対に、パウラ様は憤っていた。


「でもお父様、もっと上の世代は分かりませんわ!

 王宮のデザイナーたちだって、こんなに素敵な帯を使うのを咎めるくらいですもの。

 きっと頭の硬い大臣たちに忖度してるのよ。」


「パウラ、それは仕方ないわ。

 今宵のような前例を積み重ねることで認めさせるのよ。

 大丈夫、公爵家で王女殿下が行ったのだから、貴族社会は容認せざるを得ないわ。」


パウラ様のお母様はそう言うが、私は腑に落ちない。

 

前例。

伝統とか文化とか大切なのは分かるけど、固執しすぎるのはめんどくさいなと思う。

今日の帯みたいに、今ある文化と新しい文化を組み合わせれば素敵なものが出来るのに。


そして権威。

王女だから、公爵家だから、だから許されるのか。

もし男爵令嬢が初めにやったら、干されてたのかしら。


権威で認めさせるのではなく、皆に心から素敵だと思って認めなくては、いずれ反発が起こるだろう。

私はそれが怖い。


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