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第16話・鮮度はいつまでも持つものじゃない

ちょいと時間が立ってしまった上に、季節もズレにズレてしまいました。

今回のお話は4月になります。

 若葉は堕ち込んでいた。


 芸能界においてのし上がっていくと言う事は並大抵のことではない。タレントの旬と言うのは瞬間風速が強くても、あっという間に過ぎてしまうと言う事もままあるものである。


「あと1カ月、CMの公開が早ければなぁ」


 若葉が担当したテレビCMの出演者が、企画段階では上り調子、撮影時には人気が爆発的に伸びたのに……公開された頃には既に過去の人となったのである。

 テレビ番組の出演も生放送ではない限りタイムラグと言うのは存在する。

 テレビCMともなると、どうしてもそのタイムラグは起きてしまうものであり、同時にこれから伸びるであろうタレントを如何に掘り出し起用するかと言うのが重要な要素でもある。


「私がタレントの人気をどうこう出来る立場じゃない、運が悪かっただけでもあるんだ……けどなぁ……あー、悔しい」


 テレビがメディアで絶対的な力を持っていたのも今は昔、ビジネス的に力強く押し込んだとしても確実に売れると言う世の中では無くなってしまったのだ。


 4月のうららかな春の陽気が非常に心地良い。

 ……体感的には。

 身体は心地よくとも、そんな現実に直面した若葉の心はかなり荒んでいた。



「お姉さん、どうだい? 今朝もぎたての空豆だよ」


 まだ日の高い日暮里駅前、タイミングが良いのか悪いのか手持ちの仕事が無くなってしまったので午後休にして帰宅する途中だった。


「空豆か……皮肉かな?」


 空豆は、野菜の中でも屈指の足の速さを誇るのである。

 『空豆の旬は三日』とまで言われるほどなのだから、今朝もぎたてと言うのがどれだけ貴重なのかは語るまででもないだろう。


「ま、旬の短さを嘆く私には、丁度良いのかな?」


 思わず苦笑いをしながら、手を伸ばしたのであった。



「う~ん、塩ゆででビールも良いけれど……もうちょっと頑張りたいなぁ……あ、そうだ!」


 わんさか空豆が入った袋を手にしながらの足取りは、会社を出た時に比べて随分と軽くなったようだった。



 自宅につくと、まずは真っ先に炊飯の準備を始めた。

 一合分をチャチャっと準備をして、炊飯器にセットするタイミングで、昆布茶の粉末をサラサラっと入れる。

 そのまま蓋をして通常炊飯を選択。

 一合のご飯が炊けるまで約五〇分。 美味しいご飯の為にも早炊きにはしない。


 次いで、空豆の鞘剥きにとりかかる。

 空豆の鞘を外すのに特に難しいと言う事は無い。

 なんなら子供居る家庭であれば、子供の仕事となるであろう。


 パカッと鞘を割れば、白くてふんわりと柔らかい毛布にくるまれた空豆が出てくる。 無心に割っては豆を取り出す。

 気付くと部屋には爽やかな香りがしてくる。

 若々しく清々しい青い匂い。


 袋にいっぱいだった空豆が、鞘を剥いてしまえば拍子抜けをする程度の料になってしまう。

 空豆に限ったことではないが、体積比で言えば半分以下になるのは仕方が無いのである。


「じゃあ、今日のメニューは三種なので、三等分にして……と。 三分の二はレンジで加熱っと」


 耐熱ボールにとりわけ、レンジで加熱をする。

 加熱し過ぎると食感が柔らかくなり過ぎるので、軽く火が入る程度で良い。

 ものの一分ちょっとで、加熱終了の音が鳴る。


「さぁ、温かいうちに!」


 若葉は気合を入れて、薄皮を剥き始める。

 薄皮と言っても空豆の皮は熱く、コツを掴んでしまえば難しい作業では無い。

 冷えて固くなる前にやると楽なのでスピード勝負っぽい感じに気合いを入れるが、冷えたところで難しいわけでもない。


 皮を剥いては豆をパカッと二枚に割って行く。

 なぜかと言うと……それは後ほど♪



「さぁ、ここからが本番ね!」


 向いたままの三分の一を、コンロの魚焼きグリルに並べていく。

 豆として大きい空豆は、魚焼きグリルの上にも並べることが出来る。


「トースターでも良いんだけどね」


 強火にしてそのまま素焼きにする。

 返す刀で次の作業に取り掛かる。

 小麦粉に水と卵を入れてざっくりとかき混ぜる。

 そして、プシュッと良い音が部屋に鳴り響く。


 ゴクゴクゴク……

「……くぅぅぅ……美味しっ! と、飲み干さずに、衣の中に注いでっと」


 ビールを一缶開けて、そこに入れる。

 加熱し薄皮を剥いた空豆を半分、その中に入れてざっくりとかき混ぜる。


「残った半分は……半殺しッ☆」


 ボールに残った半量を、くりこぎ棒で砕く。

 半殺しとは、完全に粉砕するのではなく、粒感が残る程度に潰すことである。


 半殺しが完成したところで、グリルの空豆をチェックしつつ、揚げ油の準備をする。

 薄皮が焼けて藪けた箇所もある。 丁度良い頃合いだ。

 焼き空豆を皿に盛り付けている間に、揚げ油もほど良い温度になってきた。


 一枚一枚油の中に投入していく。

 まとめてかき揚げにするのではなく、一枚一枚を小さなてんぷらにしていく。

 衣をまとった空豆を鍋に入れるとシュワッと音を立てる。

 それほど時間を置かずに、すぐに引き上げる。


 豆を半分に割ったのは、このてんぷらの為だ。

 豆の隙間に衣が染み込んだり、揚げた時の油が染み込んでしまっては重くなってしまう。

 何より、カロリーが大幅に増えてしまう。


 レンジで予め火が入っているんどえ、衣がさっくりと揚ればもう完成である。


 てんぷらが完成したころ、炊飯器がご飯の炊きあがりを知らせる。

 焚き上がりのご飯に負けないホクホク顔で、半殺しにした空豆を昆布茶の香りが立つご飯の上に入れて、ざっくりとかき混ぜる。

 空豆ご飯の出来上がりだ。



「CMでは旬を逃してしまったけれど、空豆の旬は逃さずに……頂きます♪」


 まずは、ご飯に手を付ける。

 一緒に炊くのではなく、ほっくりとした食感を残した空豆と昆布の香りがほのかに昇るご飯がこの瞬間に手を取り口の中に運ばれる。

 一緒に焚いてしまってはこの食感、そして香りは楽しめない。


「んー♪」


 今となっては半日前の苦々しい表情は無く、満面の笑みを浮かべている。


 続いて焼き空豆を、焦げた薄皮を剥がして口に入れる。

 ご飯と違い、ダイレクトに空豆の香りがして、焼きならではの締まった食感を楽しむ。

 これぞ空豆本来の味と香りである。


 本来の姿を楽しんだ次は、てんぷらだ。

 薄い衣をまとっただけの空豆は、揚げた香ばしい油のにおいとカリッとした食感を伴って、また違った表情を見せる。

 咀嚼もそこそこに、再びプシュッと良い音が部屋に響き渡る。


 仕事でのうっぷんを晴らすように、香りがよくほっくりと仕上がった空豆たちをビール片手に平らげる若葉であった。

空豆でずんだも思い浮かんだのですが、お酒のアテにって思ったらこんなメニューになりました♪

茹でるのも良いですが、焼くのが良いんですよね。

本当は鞘付きのままで焼いて、蒸し焼きの感じにすると柔らかくほっくりした仕上がりになりますが、食感を変えるために茹でにもせず、鞘付きで焼くでもなく、薄皮付きで焼いてみました。

グリルで焼くよりはトースターの方が良いんですけどね、火的に。

なんとなく、グリルを使ってしまった……来春に検証調理してみようかな♪

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