第12話・一年の計は元旦にあり
正月のネタがこんな遅くに……すいません、修羅場ってて……
年末年始のわずかな休み。
これが広告代理店に勤めていると必ず取れるとは限らないのがつらいところである。
テレビでは特別番組が多く、店舗でもセールのラッシュである。
宣伝機会があるところに宣伝マン在り。
「仕事納めね……」
若葉はそう一息ついたが、現在は一月三日である。
初売りセールの仕込みは当然ながら年末からであり、つまりは去年の案件が今片付いたと言うことになる。
「さて、と。 おせちも良いけど……」
帰宅した若葉が向かったのは、キッチンであった。
お歳暮やらお年始も頂いたのだが、それらは全部放置状態であった。
多くは会社宛てに届きそのまま配ったりもするが、自宅宛てに届くものがあったり、個人宛てで独り占めしたいものは持ち帰っていたのだった。
そんな冷凍室から取り出したのは……
「疲れた体には鰻でしょう♪」
ウナギの本来の旬は晩秋であり、お歳暮の時期も出荷されている。
国産ウナギの特大サイズが3尾!
残念ながら好きな白焼きは無かったけれど、それでもテンションはあがる。
しかも、ビールも届いており豊富にある。
しかし、一人暮らしには十分すぎる量である。
「今晩の晩酌から、明日の晩御飯まで、一気に作りましょうかね♪」
若葉は次の日に料理をせずにのんびりと過ごすために一気に調理をするようである。
まずはご飯の炊飯を準備して、その間に冷凍鰻を流水解凍をしはじめる。
ご飯の炊きあがりまでの間に仕込みをするようである。
「鰻料理と言ったら、何はなくとも卵は用意しないとね♪」
言って卵を5つも取り出す。
全部割って、そこに水と薄口しょうゆとみりんを加える。
シャカシャカと言う音がキッチンに響く。
フライパンをコンロに用意して、火にかける。
一人前の料理を作るには大きいフライパンである。
フライパンが充分温まったと見ると、先ほど作った溶き卵を流し込む。
ジュー……
(この焼ける音って、それだけで御馳走……)
卵が焼ける音が広がる。
フライパンを傾けながら薄く伸ばしていく。
薄焼き卵だ。
それを2枚焼くと、ラップをかぶせて寝かせる。
次に取り掛かったのはキュウリの板摺りだった。
塩を打ち、まな板の上でキュウリをゴロゴロする。
板摺りが終わると、スライスして三杯酢に付け込んだ。
流水解凍してた鰻を取り出した。
「さてと……お腹のあたりの部分はちらし用や茶漬け用に、胴の厚い立派なところはお弁当に、身の締まった部分はう巻き用に、しっぽ側や切れ端はうざくかな」
気合を入れるように一人言をつぶやく。
どうやら、5品作るようである。
(こんなに贅沢に鰻を切り分けるって、なにかいたずらをしているような気分になっちゃうね♪)
もくもくと切り分けていく。
まず最初に切り出したのはう巻き用らしい。
卵や機器の幅を確認して切り出した。
続いてそこからお腹寄り、弁当用を切り出す。
これも電子レンジ対応の弁当箱のサイズを確認しての作業だった。
「そうしたら、下処理を……」
お弁当用の鰻の皮目に細かく隠し包丁を入れて、サラダ油を軽く塗った。
そうしたら今度はアルミホイルを一度クシャッとして軽く伸ばし、皮目を上にして乗せる。
魚焼きグリルの奥のほうにセットする。
その手前には、お腹のあたりの身が似た感でセットされた。
ただ、こちらは隠し包丁は入ってないようであるが、一度日本酒で洗われている。
カションとグリルがコンロに収まり、火にかけられる。
思いのほか強い。
鰻がグリルで焼かれている間に、う巻き用としっぽ側の下準備に取り掛かる。
こちらも軽く洗い、キッチンペーパーで包む。
すると、そこに日本酒を軽くかけた。
ペーパーが日本酒を吸ってペタッと張り付いた。
それをお皿に乗せて、レンジにかける。
丸々二尾分の鰻が下処理されていく。
焼き上がるより先にレンジの方が終わる。
取り出したしっぽ側の身を刻んでいく。
日本酒のほのかな香りもあり、ウナギのおいしそうな匂いが鼻腔を抜ける。
三杯酢で付け込まれているキュウリと和えて、そのまま馴染むまで置いておく。
次はう巻きである。
先ほどの薄焼き卵に使った残りの溶き卵にさらに出汁を追加する。
卵焼き器をコンロに置いて火にかける。
丁度その時、グリルから少し香ばしい香りがしてきた。
グリルを開けて手前にある鰻の身を取り出し、奥の鰻を残したまま再びグリルを閉じる。
よく焼くらしい。
充分温まった卵焼き器に出し入り溶き卵を流し入れて、軽くかき混ぜる。
半分固まったら、ウナギを入れて、包むように巻き付けていく。
2回折りたたむと少し置いて火を入れていく。
そのまま手前に動かして、卵焼きの角を整えたら、う巻きの完成である。
火を入れている途中でグリルから香ばしく焼き上がった鰻を取り出していた。
皮目は香ばしく焼き上がっているが、身の方は焦げているわけではない。
隠し包丁の入れられたところがジュクジュクと音を立てている。
しばらくするとご飯が炊きあがった音が流れる。
アツアツの炊きたてご飯を3つに分けた。
まずは、一つはボウルに入れて、山椒を振りかけた。
その山椒ご飯を弁当箱に浅く半量だけ敷き詰めた。
そしてその上にしっかり香ばしく焼いた鰻を敷き詰め、さらに上に残りの山椒ご飯をかぶせた。
「最後にかば焼きのタレをたっぷり目にかけて……まむし弁当の完成♪」
うな重の鰻がご飯の中に埋もれたようなお弁当だ。
関西風と言われる蒸しを入れない鰻のかば焼きを、温かいご飯に包むことでふっくらさせる料理法である。
『間』で『蒸し上げる』から「まむし」と言われる。
「これなら、明日レンジでチンしても、ウナギはご飯に挟まれているからふっくら仕上がるはず♪」
ほくほく顔で、次に取り掛かる。
冷たくでも美味しいように、もう一つのご飯にすし酢をまぶして銀シャリにする。
次に用意したのは、キュウリの細切りと茗荷とレンコンのスライスと絹さやである。
次に薄焼き卵を細く切って錦糸卵にしたら、ちらしずし用に取り分けておいたウナギをざくざくと切っていく。
浅めのお皿にそれらを盛り付けて、ちらし寿司にしていく。
「焼きのりは直前に散らしたいから、今はここまで♪」
作り置き料理は完成直前にしておいて、食べるときに完成させる方がおいしいものが多い。
その手間も惜しんで完成させるのも良いけれど、若葉はその手間は惜しまない。
最後の鰻茶漬けの作り置きを用意する……そのまえに、この後食べる鰻のかば焼きの用意をする。
再びグリルの出番である。
残り1尾のかば焼きを軽く流水で表面を洗い、日本酒を振りかけて、グリルに入れる。
(本当は一尾丸々入るなら切らずに焼きたいんだけどなぁ……)
若葉はグリルに入れるために半分にカットしたことに凹んでいた。
かば焼きが焼き上がるまでに、残り1品、鰻茶漬けを用意する。
残りのごはんをラップに包む。
そう、明日食べるのですぐ食べられるように用意するだけなのである。
包丁は使わなくていいように準備するのである。
そして、香ばしさを出すために、ごぼうを短めのささがきにして、素揚げする。
さらに、小葱のみじん切りとカットした三つ葉を用意し、ごぼうと合わせて『薬味皿』を用意する。
鰻は、ざく切りにしてこちらも別皿で用意する。
あとは食べる直前にご飯をレンジで温め、これらを茶碗に盛り付け、熱いほうじ茶をかければアツアツのお茶漬けが出来る♪
すべてがそろったころには、グリルのかば焼きも出来上がる。
「う~ん、今夜の晩御飯兼晩酌のアテが鰻3品、明日は朝にちらし、昼にまむし、夜に茶漬け……鰻まみれね♪」
表情を緩ませながら、晩酌の用意をする。
最初の一杯目から日本酒で行くようである。
「ふふふ♪ うなぎなら、やっぱりこれよね♪ 大七の生酛♪」
ここからは鰻を堪能する4食を股にかけてのパーティーである。
一人きりだが……
また食べるシーンがかけず……ぐぬぬ……
まぁ、こうした料理シーンを書くのが目的なので良いんですけどね。




