第二十七話 『共通の目的を持つ変態の間に言葉は不要らしい』
「おや? おやおや? もしかしてもしかすると、マイエンジェルこと五三種きゅんではありませんかぁ! またいらして下さったんですねぇ~!」
メガネのつるを押し上げ、入店した僕を捕捉した女性が怪しげなサイドステップを刻みながら高速で接近してきた。
女性はそのお手頃サイズのお胸が僕のお腹あたりに押し当てられるほどの超至近距離で立ち止まり、「むふふっ」と怪しげな微笑を浮かべて見上げてくる。距離感も凄いけど、その手が僕のヒップを激しく揉みしだいている点も見逃せない。
「むっは~! この形! 大きさ! 弾力! たまりませんなぁ~!」
「お褒めに預かり光栄です」
賞賛されたことは分かったので、ひとまずキメ顔で感謝しておいた。
この女性はマーガレットさん。ハネ毛のある金髪を後頭部で簡単にまとめ、黒縁メガネをかけた、ここ『魔境の花園』の店主さんだ。
「相変わらずね、マーガレット」
「ややっ!? 誰かと思えば、マカオさんではありませんか! そしてお隣の小さなレディは、初めてお会いする顔面ですね!」
「メレンゲだ。よろしく頼む。……口と動きがうるさい女だな」
上体を真横に傾け、片手で日傘を作るジェスチャーをするマーガレットさんに対し、レンちゃんは簡単に自己紹介してからうんざりしたような顔をした。
その間、僕のヒップは揉まれ続けている。もはや執念に近い何かを感じるね。ここは僕も礼儀として彼女のヒップもしくはバストを揉み返すべきだろうか。
などと考えていたら、腕を組んだレンちゃんがどこか不機嫌そうに口を開いた。
「おい、貴様。そろそろ離れたらどうだ?」
「おっと、これは失礼を! 大好きなお兄ちゃんにベタベタされて、イラっとして殺意が湧くそのお気持ち! マーガレット、配慮が欠けていました……!」
と、僕から離れたマーガレットさんが腕を組みながらうんうんと頷く。
しかし、レンちゃんはマーガレットさんの反応にご不満の様子だ。顔を赤くし、その小さなおててを振り回して否定の声を上げた。
「ち、違う! そういう意味で言った訳ではない! あと、私はこう見えて成人している! 女児扱いするのはやめろ!」
「いえ、ここは服屋なので、私はお客さんを外見のみで判断します。オブラートに包んだ表現をするなら、お客さんの体にしか興味がありません」
「くっ、言っている内容こそ変態のそれだが、しかし服屋としては正しいように聞こえる……!」
キリッと真顔で切り返され、レンちゃんが悔しそうに拳を震わせる。
しばらくそうして悔しがっていたレンちゃんは、やがて脱力するように息を吐くと、近くの壁にもたれかかって腕を組んだ。
「まあいい。私はここで待っている。貴様も服がボロボロだ。何か買って着ろ」
と、僕の方を見ながら言ってきた。
たしかに、激しい戦いを経た今の僕は半袖短パンだ。シャツに関しては僕の血で真っ赤なお花が咲き乱れ、南国風のアロハもどきと化していた。
そうして僕が自分の服装をチェックしていると、マカオさんがレンちゃんの待機宣言に対して物申す声を上げた。
「あら、ちょうどいい機会なのだし、所長も何か女の子らしい服を買ってみたらどうかしら? 私服、一つも持っていないのでしょう?」
「なんと! そういうことでしたら、ぜひこのマーガレットにお任せを! 心身ともに改造……ではなく、コーディネートして差し上げましょう!」
「おい待て。貴様、何か不穏なことを口走らなかったか?」
ビシッと敬礼し、マーガレットさんがコーディネートを買って出る。
無論、僕も黙っていない。バッと前転して躍り出た僕は、サッと前髪を掻き上げ、真面目な顔でビシッとマーガレットさんに指を突き付けて言った。
「レンちゃんの服を選ぶのは、この僕です」
「なぜ張り合う!?」
僕の宣戦布告に対し、しかしマーガレットさんも引き下がる気はないらしい。
ニヤリと挑発的な流し目で僕を見やり、人差し指を振りながら言ってきた。
「ではでは、どちらがより彼女に相応しいコーディネートが出来るか、ここは一つ勝負といきましょうか?」
「望むところです」
「私は微塵も望んでいないんだが!?」
腕を組み、僕とマーガレットさんは不敵な笑みで火花を散らす。
正直、勝敗なんてどうでもいい。重要なのは過程であり、むしろそっちが本命である。そしてどうやらマーガレットさんも僕と同じ考えらしい。アイコンタクトで互いの意図を通じ合わせた僕たちは、無言で頷くと同時にガッと握手した。
「あらあら、何か面白いことになったわね。お姉さんも一緒にいいかしら?」
「「是非もなし」」
「私の! 意思を! 確認しろぉ――ッ!!」
合法的なコスプレ大会が、今、幕を開ける――。




