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第二十三話 『陰謀<デート』


 通路を左折し、直進した僕は更衣室の前に到着した。

 迷わず女性用の更衣室に入室、両手を広げて何度か深呼吸する。その後、そっと地面にうつ伏せになり、ローリングを開始。床面積を全て制覇していく。


「よし!」


 充電を終えた僕は近くにあったロッカーをオープン。中を物色する。

 断っておくと、別に下着を盗もうとしている訳ではない。これは必要に迫られて仕方なくの行為であり、つまりは変装が目的だった。


「うん、きみにキメた!」


 いくつかのロッカーを漁り、相応しい変装グッズを見つけた。

 デルタ型のマスクで口元を覆い、巨大なレンズが特徴のゴーグルで目元を保護、カラーは濃厚なパープルで隠密に最適という、我ながら完璧な変装だった。


「よし、逃げるか」


 逃走の下準備を終えた僕は聖域に敬礼し、無音で退出した。

 退出したところで、警備兵の方々に無言で取り囲まれた。


「しまった……!」


 どうやらローリングの際に大声で奇声を発していたのがよくなかったらしい。

 警備兵の方々は僕の実力を察してか、すぐには確保に動こうとしない。どころか「お前が行けよ」「いや、お前が……」などと譲り合いの精神を発揮している。


 幸い、変装しているので顔バレの心配はない。

 しっかりと人相を押さえられたのはマカオさんだけだ。メレンゲさんの時は顔の骨格が崩壊するレベルの変顔で対応したのでたぶん大丈夫。

 だから焦点は、いかにこの包囲網を突破するかの一点に絞られる。


「ふふふ……」


「おい、笑ってるぞ……」

「ヤベぇって……」

「何がヤバいって、視界ゼロでこっちの存在をはっきり認識してることだな……」


 おっと、『ギフト』の力かな? 認識されていることを察しているらしい。

 そう、理屈は分からないけど、今の僕は五感が人間のそれを逸脱している。彼らの心音もはっきり聞こえるし、どんな表情をしているのかもお見通しだ。


 しかし、さすがにこの人数は突破できない。だって、みんな剣を持ってるし。

 いくらハイパーモードに突入している僕でも、剣で刺されたら一巻の終わりだ。つまり、強行突破は不可能。となれば、ここは『アレ』を使うしかない。


 複雑なイメージは想定外の事態を招きかねない。だからここはシンプルに、瞬間移動の時の反省も踏まえて、僕一人の離脱を明確にイメージする。

 ハイパーモードの頭脳が余計な雑念を排除し、必要なイメージだけを強固に構築していく。やがて、カッと開眼した僕は天高く手の平を突き上げた。


「エッセンス・オブ・ザ・フール、発動ッ!!」


 次の瞬間、足元の床が消滅。ギョッとした警備兵の方々に見守られながら、僕は天高く手の平を突き上げたまま落下した。



――――――――――――――――――――



「ア゛ア゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああッ!!」


 落下した僕は穴の中を滑り落ちていた。穴の中は斜めになっていて、例えるなら水のないウォータースライダーに近い。

 垂直落下ではなく、滑っているというのがミソだ。つまり何が言いたいかというと、摩擦で剥き出しのお尻が燃えるように熱い。


 ふと見れば、羽を畳んで腹ばいになり、頭を下にした『にけ』がすい~っと僕の前を楽しそうに滑っていた。

 その姿に着想を得た僕は、口を覆うデルタ型のマスクを下半身に装着。V字の布が食い込み、稲荷寿司と白桃に深刻な継続ダメージが追加された。


「い゛ア゛ア゛ァ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛――――ッッ!?」


 策士策に溺れる。下半身の耐久値がマッハで削れた。

 しかし僕の下半身が滅びる前に、水なしウォータースライダーが終点を迎えた。ぺっと穴から吐き出された僕は床を転がり、やがて壁に激突して止まる。

 一足先に到着していた『にけ』がその柔らかな羽毛で僕の真っ赤なお尻を優しくフェザータッチして労ってくれた。


「ここは……」


 戦友の優しさに感謝しつつ、立ち上がった僕は目の前の光景に目を丸くする。

 水なしウォータースライダーを越えて僕が辿り着いたのは、地下に広がる広大な空間だった。そしてその空間の多くは、所狭しと並べられた檻に占められていた。


「……魔獣?」


 檻の中に入っていたのは、多種多様な魔獣たちだった。

 檻の前には動物園などで見られる紹介文が書かれた立て札があり、僕は見覚えのある魔獣の前で足を止めた。――そう、『ショウヘイ』である。


「ふむふむ」


 紹介文に書かれていたのは、ほとんどアトラさんから聞いた情報と同じだった。でも、僕の知らない情報もあった。


「その肉は美味であり、乱獲されて絶滅……」


「――(じゅるり)」


 肩パッドの上で『にけ』が涎を垂らしている。

 その共食いも辞さない食い意地には恐れ入るばかりだ。しかし怯える『ショウヘイ』が気の毒だったので、僕はその場から離れて他の魔獣も見て回ることに。


 ――他にも、僕が知っている魔獣はいた。


 まず、『ポチ』。

 正式名称は『マンティコア』。強力な毒を有したサソリの尾を持つが、自分自身もその毒の耐性はなく、またノーコンであるため、よく間違えて自分に攻撃を命中させて自分の毒にヤられて死ぬ。自滅によって絶滅したらしい。


 次に、あの超高速セクハラゴリラ。

 正式名称は『コウケツコング』。高い身体能力を持ち、特にその俊足が持ち味。ただ、なぜかオスの八割近くがホモになる傾向があり、子孫を残せず絶滅。

 どうやらこのゴリラも『絶滅種』の一種だったらしい。


 ――というか、ここにいる魔獣は全て『絶滅種』だった。


「どうして、『絶滅種』がこんなに……」


 謎の地下空間に、大量の『絶滅種』。

 陰謀の気配を感じ取った僕は、『にけ』が見つけた隠し通路を通り、研究所の外に脱出。普通に宿屋に帰り、明日のデートを楽しみにしながら就寝したのだった。


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