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第二十一話 『肩パッドの上は乗り心地がイイらしい』


 ――朝、目が覚めると元の姿に戻っていた。


「いつの間に……」


 自分の裸体を見下ろして、僕は困惑ぎみに首を傾げた。

 何か恐ろしい悪夢を見た気がするんだけど、思い出そうとするとお尻から言い知れぬ悪寒が這い上がってきて、思わず考えることをやめてしまう。


「ま、元の姿に戻れたんだし、いっか!」


 窓が割れて、床に謎の白い液体が付着し、まるで猛獣に襲われて激しく抵抗したかのようにシーツが乱れていたけど、特に問題は見当たらなかった。


「あ、おはよう、みんな! 気持ちのイイ朝だね!」


 お腹が空いたので一階へ下りると、マコト、ヒカリちゃん、アテネさんがテーブルに着いて先に朝食を摂っていた。

 爽やかな朝のあいさつをキメる僕に、三人が各々の反応を返してくる。


「ミノルか。このナイフを貸してやる。ぜひとも自刃に役立ててくれ」

「難しいならヒカリが手伝う。刃物の扱いは得意分野」

「…………」


 おかしい。朝のあいさつに対する反応の三分の二が殺伐としている。

 ちなみにアテネさんは目が合った瞬間に無言で目を逸らされた。横顔が少し赤いところを見るに、どうやら僕の眼力に陥落寸前の様子だ。


「ミノル。朝食の席で目の前に全裸の野郎が現れたらどうする?」


「殺すけど?」


「そういうことだ」


「なるほど」


 納得した僕は服を買うために外へ出て通りすがりのお姉さんに通報された。

 すっ飛んで来た騎士の方々を自慢の足で難なく振り切り、路地裏にて頭の悪そうな世紀末風のチンピラと対峙。激闘を繰り広げ、危ういところに現れた謎のフクロウと協力して勝利と世紀末風の衣装をもぎ取った僕は、戦利品の肩パッドの上に戦友のフクロウを乗せて十分ほどの外出から帰還。アテネさんの隣に着席した。


「これでどうかな?」


「……匂う」


「脱ぎましょう」


 鼻をつまんだヒカリちゃんに心の底からイヤそうな顔をされたので、僕は肩パッドを除いた小汚い世紀末風衣装を脱ぎ捨てた。

 ひとまず朝食を食べつつ、パンをちぎって肩パッドの上の戦友に与えていると、ふと視線を感じた。隣のアテネさんが目を丸くして僕を見ている。


 なるほど。事情を察した僕はくるりとスプーンを回して床に落とした。飛び立った戦友が拾ってくれる。ありがとう。

 改めてスプーンをくるりと回してキメた僕は爽やかにウィンク。


「告白ならオッケーです。結婚しましょう」


「にけ!?」


 僕の快諾を受け、アテネさんが奇妙なシャウトを上げた。

 しかし優秀な翻訳機能を搭載する僕の脳はちゃんと理解する。そう、アテネさんは『オッケー』を噛んだのだ。つまり婚約成立。なんてめでたい日なんだ。

 と、ここで戦友が肩パッドから離陸。アテネさんの肩に着陸した。


「にけ! あなた、どうしてミノル君と一緒にいるんですか!?」


「おい、アテネ。『にけ』とは、そのフクロウの名か?」


「はい、そうです」


「やっぱりね。僕の推測通りだ」


「…………」


 前髪を掻き上げる僕をヒカリちゃんがじーっと熱い眼差しで見つめてくる。

 さてはヤキモチかな? モテる男は辛いね。


「この子は『にけ』。私の友達です。少し確認したいことがありまして、天界の方に送り出していたのですが……」


「確認? 何をだ?」


「実は、お二人の体から『神樹の実』を分離できないかという――ひっ!?」


 マコトの質問に回答した直後、アテネさんの口から引き攣った悲鳴が漏れた。

 見れば、音もなくテーブルに飛び乗ったヒカリちゃんが『妖刀』をアテネさんの喉元に突き付けていた。そして、既に半泣きのアテネさんに冷たい声音で言う。


「『神樹の実』を、マコト様から分離? それは、つまり、マコト様と、ヒカリの仲を、引き裂くと、そういう、意味……?」


「~~っ!!」


 セリフを区切りながら聞いてくるヒカリちゃんに、涙目のアテネさんが青い髪を左右に揺らしながらブンブンと首を横に振る。

 その涙で潤んだ赤い瞳を、ヒカリちゃんの黒い瞳がじっと覗き込む。しばらくして、ゆっくりと目を閉じたヒカリちゃんが『妖刀』を消して着席した。


「なら、問題ない」


 ――その後、相当怖かったらしく、緊張の糸が切れたアテネさんは号泣し、二時間ほど部屋に引きこもって出てこなかった。



――――――――――――――――――――



「『にけ』は天界に住む神鳥の一種で、『神器』の存在を感じ取ることが出来ます」


 泣き腫らして目元が赤くなっているアテネさんが改めて説明してくれる。

 ちなみに『神樹の実』を僕とマコトから分離させるという件は、出来るけど出来ないという結論だった。つまり、それが可能な神様はいるけど、面倒なので全部片付いた時にまとめて処理するとのことだった。


「なので、乗り気ではありませんでしたが、仕方がありません。まずは早急に全ての『神器』を回収し、その上でお二人から『神樹の実』を分離。この国に返却します。もちろん、その時はちゃんとごめんなさいして下さいね?」


 人差し指を立てたアテネさんが「めっ」てしてくるけど、正直、ごめんなさいしたくらいで許してもらえるとは微塵も思えなかった。


「あ、あと、『神樹の実』を分離しても、ヒカリさんがマコト君と一緒に居られるよう私が便宜を図りますので……」


「当然」


「だから、その……」


 びくびくしながら反応を窺ってくるアテネさんに、ヒカリちゃんは優しくその目を細めながら小さく微笑んだ。


「大丈夫。アテネは友達。ヒカリは友達を裏切ったことは一度もない」


「そ、そうですよね! 私とヒカリさんは、お友達ですしね!」


 ヒカリちゃんの友達宣言にアテネさんがパッと表情を明るくさせる。

 生後間もないヒカリちゃんが既に友達を作っていたことに驚きだ。今度、ぜひともその幼女に合わせて頂こう。


「それで、その『にけ』は『神器』の存在を感じ取れると言ったな?」


「あ、はい。『にけ』が言うには、この王都のどこかに『神器』……『アスクレピオスの杖』という再生を司る『神器』が存在するそうです」


 気に入ったのか、僕の肩パッドに乗る『にけ』を見ながらマコトが問うと、不安と恐怖が払拭されて顔に生気が戻ったアテネさんがキリッとしながら答えた。

 その回答に、マコトは顎に手を当てながら考え込むような素振りを見せつつ、


「再生の杖……どんな形状だ?」


「大きさは一般的な杖と変わらず、特徴的なのは蛇が巻き付いていることですね」


「それだけ分かれば十分だ。手分けして探すぞ」


「手分けして、ですか……?」


 小首を傾げるアテネさんに、マコトは「ああ、効率優先だ」と頷く。


「俺はヒカリと動く。アテネ、お前は『火中の栗』の尋問状況の確認だ。場合によっては『神器』の捜索を急ぐ必要が出てくる」


「……泥棒とはいえ、彼らに被せた罪もあとでちゃんと謝罪ですよ?」


「分かっている。仕方がなかったとはいえ、俺も心を痛めているんだ」


 などと言い、クズは痛みを堪えるような演技を見せる。

 あっさりと騙されたアテネさんがため息を吐きつつ「分かりました」と了承するのを見届けてから、僕は「はい!」と元気よく挙手した。


「僕はどうすれば?」


「お前はそのフクロウと『神器』を探せ。幸い、お前には懐いている様子だ」


 そう言って、マコトが肩パッドの上の『にけ』に手を伸ばす。

 次の瞬間、その指を食いちぎらんばかりの勢いで『にけ』がクチバシを高速で射出。読んでいたマコトがギリギリで指を引き、「な?」と言ってきた。


「さて、どこぞの女神が部屋に引きこもっていたせいで貴重な時間を無駄にした。すぐに動くぞ」


「ぅ……」


「ラジャ!」


 こうして僕たちは、手分けして『アスクレピオスの杖』と呼ばれる『神器』の捜索を開始したのだった。


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