第十八話 『ぽっくり逝っておる』
「おいコラそこのアマぁッ! 俺のポチに何しやがるテメェ――ッ!!」
人と魔獣による高度なプレイにロマンさんが物申した。
そんなロマンさんの申し立てに対し、プレイの手を止めたマカオさんが息を弾ませながら熱っぽく潤んだ瞳で振り返る。
「あら。ご存じないかしら?」
「あァ!?」
「これは調教よ」
鞭を片手に「ふふっ」と艶やかに微笑んだマカオさんが優しく告げる。
正直、見れば分かることだった。どうやらロマンさんも僕と同意見らしい。
「見りゃ分かるわンなこt」
「うるせェ捕まってるヤツが吠えんなッ!」
と、ここでアトラさんの拳骨が炸裂。ロマンさんが気絶した。
地面と熱い接吻を交わすロマンさんに殺意の高い変態たちから嫉妬の視線が注がれる。「埋めっか?」「いや、焼く」と殺意の高いやり取りが聞こえてきた。
「で、アレは一体どういう意味があるんだ?」
とは、アトラさんの近くに歩み寄ろうとするも、ヒカリちゃんに足にしがみ付かれて仕方なく足を止めたマコトの質問だ。
その遠い問いかけに、アトラさんは「ああ」と腕を組みつつ言った。
「ありゃ魔獣を手懐ける手段の一つだ」
「え? 魔獣って手懐けられるんですか?」
驚きの情報に僕が聞き返すと、アトラさんは「まァな」と頷いて、
「つっても、出来るヤツは限られる。魔獣ごとに手懐け方は違ェし、しかもあの魔獣は絶滅種だ。アレを屈服できる野郎はマカオくらいのもんだぜ」
そう言えば、たしかマカオさんは魔獣の専門家なんだっけ。
どうやら特殊なプレイではないと判明してホッとした僕は、爽やかに微笑みつつ掻き上げる前髪がなかったので代わりに禿頭をぺちっと叩き、
「しかしアトラさん。いくら同性でも、女性を野郎呼ばわりは頂けませんよ?」
「ん? まァ、細けェこたァ気にすんなって。「彼は男だから問題ないよ」別にマカオもこんなことでいちいちキレるほど小せェヤツじゃ……は?」
一瞬、空気が凍り付いた。一拍遅れて、全員がバッと発言者へと振り返る。
その人物、レオナルドは「ん?」と微笑みながら小首を傾げていた。
「お、おい、レオナルド……オマエ、今、何かスゲェこと言わなかったか?」
「? マカオが男だと言った件ですか?」
「「「マジかよっ!?」」」
その場にいる全員が声を揃えて驚愕を顕にした瞬間だった。
マカオさんが野郎だって? じゃあ、あの素晴らしいボインはフェイクだと? そんな詐欺があっていいのだろうか。いや、いいはずがない!
「――やれ、ミノル」
「了解ッ!」
『未知』好きセンサーにビビッときたらしく、腕を組んだマコトの号令に威勢よく応答した僕は地面を蹴って駆け出した。
走りながら地面に突き刺さっていた『妖刀』を引き抜き、プレイ続行中のマカオさんを目指して真っ直ぐ疾走する。
マカオさんの真実を暴く方法は簡単だ。そう、つまり――、
「剥けばイッパツっ!」
大きく跳躍した僕は上段に構えた『妖刀』を目標めがけて振り下ろした。
しかし体が縮んでいたせいで跳躍距離が足りず、『妖刀』の禍々しい刀身は綺麗に檻のみを分断。『にゃー!』と咆哮を上げてポチが解き放たれた。
そして僕は『妖刀』を振るった代償として老人に成り果てた。
「あとらしゃん。栗ご飯はまだかいのぉ?」
「「「バカかよっ!?」」」
よぼよぼと『妖刀』を杖代わりにする僕にポチがあんよを振り上げる。
その爪が僕をシャッとする寸前、マカオさんが巧みに鞭を使って僕を回収してくれた。ボインに抱き止められた僕は萎んだ目元をカッと開きシャウトする。
「本物じゃあっ!」
「言ってる場合じゃないでしょ!?」
僕を抱っこしたマカオさんがポチと相対する。
調教の方は完了していなかったらしく、ポチのマカオさんを見る目はご飯を見るそれだ。これにはマカオさんも「参ったわ……」と引き攣った笑み。
「――大丈夫だよ。僕に任せて」
「レオナルド!」
一瞬でマカオさんとポチの間に割り込んだレオナルドが抜剣しつつ言う。
頼れる男の救援にマカオさんは強張っていた表情をホッと緩め、僕は舌打ちしてから「かぁ~、ぺっ!」と痰を吐き捨てた。
「レオナルド! 出来れば殺さずに保護してちょうだい!」
「無論、そのつもりだよ」
マカオさんの要望にレオナルドが爽やかに言い返した直後、ポチがわずかに体を沈めつつ、逆にそのお尻を真上に突き上げた。
ぐぐっとサソリの尾が首をもたげる。次の瞬間、シャッと放たれたサソリの尾がポチの後頭部に命中。ポチが泡を吹いてダウンした。
「「「ポチぃ――ッ!?」」」
危篤に陥ったポチの周囲にみんなが駆け寄る。
ウサギ跳びで駆けつけたロマンさんが涙ながらにポチへと語り掛ける。
「おい、ポチ……嘘、だよな……?」
ロマンさんの声は震えていた。同じくウサギ跳びで駆けつけた殺意の高い変態たちが後ろで嗚咽を堪えながらその光景から目を背ける。
ポチは弱々しく『にゃぁ……』とひと鳴きし、ロマンさんを見ると小さく微笑んだように見えた。やがて、その瞳がゆっくりと閉ざされる。
「……ポチ? おい、ポチぃ!?」
駆け寄ったレオナルドがポチの脈を計り、やがて痛みを堪えるような沈痛の表情でゆっくりと首を横に振る。そう、ご臨終だった。
ポチの亡骸を前においおいと泣くロマンさん。僕はそんなロマンさんの肩にポンと優しく手を置き、「見るのじゃ」とポチを指差した。
「心残りなくぽっくり逝っておる……。きっと、ポチもお主という家族に最期を看取られて、安心して逝けたのじゃろうよ。そんな、幸せそうな逝き顔じゃ……」
「老師……」
「さぁ、ポチを埋めてやろう。立派な、そう、立派な墓を建ててやるのじゃ」
「老師ぃ~!」
ガッと熱い抱擁を交わした僕とロマンさんに、同じく「頭ぁ!」「老師ぃ!」と殺意の高い変態の同志が次々と抱き着いてくる。
この日、ポチは遠い所へと旅立った。ロマンさんと殺意の高い変態たちは、おいおいと泣きながらポチを埋葬し、立派な墓を建てたのだった。
「――よし。しょっぴけ!」
そして、そのあと普通に連行された。




