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第十三話 『底なし沼にハマった間抜けがいます。貴方はどう助ける?』


「よぉ! そこのナイスガイな兄ちゃん!」


「はい僕のことですねご用件は何でしょう?」


 森の中を爆走していたら呼び止められたので僕は足を止めた。

 声の出所に目を向けると、ヒゲの渋い長髪のおじさんと目が合った。しかしやけに目線が低い。そう、まるで首から下が地面に埋まっているかのようだった。


「うっかり底なし沼にハマっちまってな。ちょいと助けてくんねぇか?」


「あはは。おじさん、底なし沼にハマるなんて間抜けですね」


「兄ちゃんにだけは言われたかねぇセリフだな。あと、俺のことはおじさんじゃなくて、ロマンさんと呼べ」


 そう言って、底なし沼にハマった間抜けなおじさんが自己紹介してきた。

 相手が名乗ったんだ。ここは僕も名乗るのが礼儀だろう。


「僕は五三種実って言います。ミノルさんって呼んで下さい」


「状況が有利と見るや躊躇なくマウントを取りに来るその姿勢は嫌いじゃないぜ? しかしな、目上の奴には敬意を払っとけ。余計な敵を作るのは賢くねぇ。いいか? 大人に喧嘩売る時は、本当に譲れねぇモンを守る時だけにしろ」


「なるほど分かりました。僕はここで失礼するので頑張って下さい。では!」


「まぁ待て。待ってくれ。説教臭くなったのは俺が悪かった。ミノル、だったか? その振り返らず前だけ見て突っ走るスタイルは俺好みだ。はっきり言って気が合いそうだ。だがな、たまには立ち止まってみるのも悪くねぇもんだぜ?」


 ロマンさんの言い分に僕は一考の余地ありとダッシュをキャンセル。

 そこでふと僕は眉を寄せた。きょろきょろと周囲を見渡し、自分の体を見下ろして、最終的に怪訝な表情を浮かべるロマンさんを見る。


「どうして僕は、全裸でこんな所に……?」


「おっとヤベぇな。コイツは最高にぶっ飛んだのを引いちまったか?」


 おかしい。ここに来るまでの記憶がかなり曖昧だ。

 魔獣と一緒に瞬間移動したのは覚えている。でも、その直後から記憶が怪しい。


「最高に気分がよかったのは分かるんだけど……」


 ダメだ。記憶にモヤがかかったみたいで何も思い出せない。

 とはいえ、無事に魔獣の群れは撒けたみたいだし、ここは一刻も早く迷子になったアテネさんたちを捜しに行った方がいいみたいだね。

 そう判断した僕は、すぐさま仲間の元へ駆け出そうとして――、


「なぁ、ミノルよ。どうか俺をここから助け出しちゃくれねぇか?」


「え? いや、でも、僕はすぐに――」


「イイ女を紹介するぜ?」


「――貴方を救ってみせるッ!!」


 素早く身を翻した僕はその場で座禅を組んで自慢の頭脳を回した。

 集中しろ。集中するんだ五三種実。底なし沼にハマった人を助けるにはどうすればいい? 考えろ、考えろ、考えろッ!


「ハッ!」


 次の瞬間、天才的な名案を閃いた僕はカッと開眼した。

 素早く跳ね起きた僕はロマンさんを目指して猛然とダッシュ。足首の激痛に襲われて転倒しかけるも地面に手をついて華麗に側転することで転倒を回避。空中で三回転半ひねりをキメながら理想的なフォームで着地して底なし沼にハマった。


「…………」


「…………」


 息がかかるほどの至近距離で無言のお見合いが始まる。

 互いに一歩も譲らない激しい無音の攻防が一センチの間合いを挟んで繰り広げられる。果たして、勝利の女神が微笑んだのは――。


「さて、どう抜け出したもんか……」


「くっ……!」


 目と鼻の先にいる僕をさながら透視するかの如くロマンさんは見て見ぬふり。

 その直前の出来事など僕の存在ごとなかったものとして扱うロマンさんの冴えた一撃に、さしもの僕も物理的に曲げられない膝を屈する他なかった。


「しまった! 今の無茶な挙動で顎にまで侵食が……!」


「よし、叫ぶか。大声で叫べば、なんとかなる気がする」


 天を仰いで懸命に気道を確保しているとロマンさんが名案を閃いた。

 くわっ! と目を見開いたロマンさんが鬼の形相で叫ぶ。


「助けてくれぇぇぇえええええええええええええええええええええええッ!!」


「あ、僕も手伝います。誰かぁぁぁああああああああああああああああッ!!」


 まるで魂を削るかのようなロマンさん渾身のシャウトにすかさず僕も続く。

 その時、奇跡が起きた。僕たちの魂の叫びが届いたのか、何やら集団がこちらに向かって走ってきた。みんな手を振りながら何か叫んでいる。


「あのクソ栗野郎!? 沼にハマってやがる!」

「バカじゃねぇの!? あの人バカじゃねぇの!?」

「誰かあの息するように死にかける栗専用の保護法作れやぁッ!」

「いい加減にしねぇとここで息の根止めっぞ栗ィッ! あぁん!?」


 などと罵詈雑言をまき散らしながら、とても殺意の高い集団の皆さまが目を血走らせながらご到着。ロマンさんが「ふっ」と誇らしげに微笑み、


「よぉ、お前ら。俺は信じてたぜ? お前らなら、俺のことを必ず助k」

「テメェ今度は何やらかしやがったボケぁッ!」

「どうやったらこんな見晴らしのイイ所で底なし沼にハマれんだ栗ゴラァッ!」

「お? 処すっぞ? お?」


 ロマンさんのセリフに食い気味で言い放ち、ひと昔前のヤンキーのような屈み方をした殺意の高い皆さまがロマンさんを囲ってガンを飛ばす。

 そんな皆さまの罵詈雑言に対し、ロマンさんが「おい」と低い声で凄んだ。気圧されて「っ」と押し黙る殺意の高い皆さまを見据えてロマンさんが言う。


「俺のことはロマンさんと呼べと何度m」

「黙れ、栗」

「死ね、栗」

「くたばれ、栗」

「もはや、栗」


「…………」


 ロマンさんの頬をつぅと一筋の涙が伝った。

 と、そこで殺意の高い皆さまの内の一人が僕に気付き、


「ん? おい、なんかもう一人いんぞ?」

「うぉ!? マジでもう一人いやがる!」

「栗に気を取られて気付かなかったぜ……」

「おい兄ちゃん。どうしてそんな所にいんだ?」


 何やらクールダウンした様子の殺意の高い皆さまが僕を見下ろしてくる。

 状況の不利を悟った僕は素直に答えることにした。


「実は、ロマンさんを助けようとして……」


「「「っ!?」」」


 正直に打ち明けると、殺意の高い皆さまは揃って息を呑んだ。

 そして何やら口元に手を当てると、感極まったように目元に涙を光らせ、


「兄ちゃん、アンタ……」

「イイ奴だな、あんちゃん……」

「すまねぇ、この栗のせいで……」

「すぐに助けてやっからな、兄ちゃん……」


 そう言って、一番ガタイのイイ殺意の高い方がまるで大人が子供を抱き上げるように軽々と僕を沼から引き抜いてくれた。


「「「…………」」」


「?」


 引き抜かれた僕の泥に塗れても輝きを放つ洗練されたボディを見て殺意の高い皆さまが一斉に固まった。

 やがて互いに顔を見合わせて頷き合うと、ガタイのイイ殺意の高い方がそっと僕を元の場所に埋め直してくれたのだった。


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