名前を忘れた俺は彷徨わざるをえない。
第3話
「…な、名前が、分からない?」
朝から異世界に飛ばされるのまでは良しとしよ
う。ファンタジーでエキサイティングな冒険が待
っているのならなお良しだ。
ただ、異世界転移の代償として名前が消えてしま
うのは、いささか値が張りすぎではないだろう
か。
(俺は…誰だ?)
俺は俺としての知識や記憶を有しているし、昨日
の夜に食ったメニューもはっきり覚えている。
ただ名前だけが、風穴のようにぽっかりと抜けて
しまっていた。
「え?あなた、記憶喪失なの?」
ミルドが呆気にとられたように目を丸くする。
「いやいや…そんな大したもんじゃねぇよ。」
そう、記憶は鮮明にある。記憶喪失なんて大した
ことではないのかもしれない。ただ…
「…自分の名前、思い出せないのは、正直キツイ
な。」
混乱から思わず眉を寄せる。
「そう…、と、とりあえず、ウチに来なさいよ。
ある程度に歓迎はするわ。」
ミルドが気遣うように告げる。初対面の女の子に
気を使わせてしまうのは良いことではないのかも
しれないが、自分では何も出来ないから、甘え
る。しかし、初対面の男を家に招く年頃の女の子
とは如何なものか。
「悪いな、そんじゃ御言葉に甘えさせていただき
ます。」
初対面の人物についていく俺も、如何なものか。
読んでいただいた方々、本当にありがとうございます!少しでも楽しんで貰えたら幸いです。感想頂けたら嬉しいです。




