第10話 ざらついた舌
クラウディアが完全に蕩けきった後、続いて診察台に座ったのは、猫耳獣人武道家のミオナだった。
「にゃははっ!ついに私の番だにゃ!ロア、うんと強いバフをお願いするにゃ!」
元気いっぱいに飛び跳ねるミオナだが、その尻尾は期待と僅かな緊張でピコピコと揺れている。
「ええ、任せてください。ミオナさんは前衛の遊撃担当ですから、それに合わせた調整を行います」
ロアが正面に座り、彼女の顎に手を添えた。
「口を開けて、舌を出してください」
「あーん……にゃっ、ひゃんっ!」
ロアの指先が触れた瞬間、ミオナの肩がビクンと跳ね、舌がピクピクと痙攣するように動いた。
「ミオナさん?痛みますか?」
「ううん、違うのにゃ。私、すごく猫舌で……それに、舌がザラザラしてて、とっても敏感だから……少し触られただけでも、くすぐったくて……っ」
ミオナは申し訳なさそうに猫耳をぺたんと寝かせた。
(また、変な舌だって言われるかにゃ……)
彼女の脳裏に、同族の集落で過ごした幼い頃の記憶が蘇る。
獣人特有の極端にざらついた敏感な舌と、重度の猫舌体質。そのせいで、集落で出される熱い食事も、強い薬も口にすることができず、ミオナはいつも発育不良だった。
『お前は本当に虚弱で扱いにくい落ちこぼれだな』
そう言われ、集落の端でいつも一人ぼっちで膝を抱え、傷心していた子供時代。
ノーラたちに拾われて居場所ができた今でも、自分の敏感でざらついた舌は大きなコンプレックスだった。
しかし、ミオナの舌を指の腹でじっくりと観察したロアは、パァッと琥珀色の瞳を輝かせた。
「素晴らしい……!」
「えっ……?」
「ミオナさん、あなたのこの舌のざらつきは最高です!インクを乗せた時、この微細な突起が表面積を広げ、魔導液が最も強力に定着する。僕のインクを最大限に活かせる、本当に素晴らしい舌ですよ!」
「す、素晴らしい……?」
「ええ。こんな極上のキャンバスに出会えるなんて、付与術師冥利に尽きます。少し敏感なのは、魔力感度が高い証拠。何も恥じることはありません」
ロアの真っ直ぐな肯定の言葉と、舌先を労わるように撫でる優しい指先の温もり。
それらが、ミオナの心の奥底にあった『落ちこぼれ』の呪いを、温かく溶かしていく。
「ロア……私、頑張るにゃ。いっぱい、魔法陣描いていいにゃ!」
ミオナは潤んだ瞳で笑い、自ら精一杯ざらついた舌を突き出した。
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「よし。では、陣を描きます」
数分後、微細な筆さばきでミオナの舌の上に魔法陣が完成した。
「ミオナさんの野生の本能を呼び覚ますため、今回のフレーバーは『ワイルドミルク&ホットスパイス』にしました。濃厚な甘みと、熱を帯びる辛味の調合です」
「ほ、ホットスパイス……?私、猫舌なのにゃ……っ」
「大丈夫です。クリーミーなミルクがざらついた舌を労わってくれます。少し熱くなりますが、耐えてくださいね」
ロアはミオナの顎をしっかりとホールドした。
「行きます――」
ちゅっ。
ロアの唇がミオナの唇を塞ぎ、舌が深く侵入してくる。
「んっ!?――にゃ、あつっ……熱いにゃ!!」
スパイスの魔力的な熱感に、ミオナの敏感な舌が激しく反応した。予想以上の刺激に耐えかね、ミオナの野生の本能が反射的に牙を剥く。
ガブッ。
「痛ッ!?」
ミオナが思わず、侵入してきたロアの舌を甘噛みしてしまったのだ。
「んんっ、ほ、ほめんひゃひい……っ!」
(ああっ、ご、ごめんにゃさい……っ!)
痛みよりも焦りがきたロア。
(まずい、術式が……!)
ミオナの甘噛みによって魔力の循環にイレギュラーな干渉が起き、陣の構成式が変質し始める。
個室ブース内に、体温が急上昇する媚薬のような甘くむせ返る熱気が一気に充満した。
ロアはここで引き下がれば魔力暴走を起こすと判断し、血の味が僅かに混じるのも構わず、さらに深くミオナの口内へと舌を押し込んだ。
キス技『獣牙乱舞・ベルベットキャットバイト』。
「んぐッ……じゅぷ、ちゅるるッ……んちゅぅっ!」
(だめ、逃げちゃだめだ。力ずくでもねじ伏せて、魔力を定着させないと!)
ロアはミオナの腰を抱き寄せ、獣のように激しく舌を絡め取り、互いの唾液を零しながら貪り合うような熱狂的で野性的なディープキスを展開する。
「ひゃぁっ……ふ、ぁ……あぐっ、んちゅ……」
スパイスの熱さに最初は驚いたミオナだったが、ロアの熱い舌が自分のざらついた舌を優しく、しかし強引に包み込んでくれる感触に、次第に思考がとろけ始めた。
(熱いのに……ミルクみたいにすっごく甘くて、美味しい……っ。ロアの舌、もっと欲しいにゃ……っ)
コンプレックスだった猫舌を強烈な快楽によって完全に克服し、ミオナは自らも獣のようにロアの舌を絡め返し始めた。
「ちゅる……じゅるるるッ、ちゅぱぁっ!」
「んふぁ……あっ、はぁんっ、ロアぁ……っ」
ブースの外でその壮絶な水音を聞かされていたエリスは、白目を剥いて壁に爪を立てていた。
「な、なんなのよ今の『ガブッ』て音!!それにこの、外まで漏れ出してくる変な甘い匂い!あの中、どうなってるのよぉぉっ!!」
エリスの悲鳴をよそに、ブースの中では術式の変質による想定外の『発情バフ』がかかり、ミオナの野生の欲求と好感度が限界突破に向けて急上昇していた。




