第07話 Bパート③ ー目覚めの刻ー
「さぁーて。弟くんを傷つけた悪い子には、とっとと退場してもらおう!」
「はい! お義兄ちゃんをいじめるなんて許せません!」
円と絵瑠が気合十分に大池へ到着。
戦闘継続中の哀へと声をかける。
「そこの魔法戦士さん!」
「っ!」
「これより支援行動に入ります!」
そう大声で告げた円が胸元に手を突っ込み、一枚の琥珀色のメダルを取り出す。
「DDDたまな市支部所属! 技術の魔女、樫木円!」
「同じく、DDDたまな市支部所属の嘱託魔女、エルリーゼ・キラキラ・ジュエルネーヴァ!」
続けて絵瑠も取り出したそれは、魔法金属オリハルコンで作られた、特別な証。
「みんなの平和な日常を守るため!」
「おいたが過ぎる悪い子は、全身全霊でやっつけます!」
二人の覚悟に呼応して、夕闇にメダルが煌めく。
「行くよ、絵瑠ちゃん!」
「はい!」
円がホウキにまたがり飛び上がり、絵瑠はその場で踏み込んで急加速。
それぞれが異形へと向かい、果敢に飛び込んでいった。
※ ※ ※
「ドレッ?!」
「はぁぁぁぁ!」
背中のリボンをヒュルルと揺らし、絵瑠が跳ぶ。
こぶしの一撃。真正面から異形の胴をぶん殴り、宝石が砕けるような音と共に、その体を大きく“くの字”に押し曲げる。
「今度はわたしだよ! ハジけて! 爆ぜる薬!」
空飛ぶホウキの高機動で背後に回った円が、先ほども使った薬瓶を放り、追撃。
チュドドドドーンッ!!
「ドレァァァッ!!??」
爆撃を受けた異形が炎上し、炎の中で巨体を揺らした。
「ドレレレレレ!!」
反撃の触手が伸びる。
鞭のようにしならせた数多の害意が二人を襲う! ……が!
「効っかないよーだ!」
円はホウキを上向かせ、瞬く間にそれを振り切り。
「ロイヤルジュエル! ガードダイヤモンド!」
ガキンッ!
絵瑠はティアラに戴く秘石を輝かせ、ダイヤの盾を作り出し攻撃を受け止めた。
「「魔法戦士さん!」」
「まかせて」
円と絵瑠の呼びかけに、哀の冷静な声が応じる。
二人の役目は時間稼ぎ、その隙に哀が大技の準備を完了する!
「……ナーサリーライム、起動!」
正面に立てた大鎌の刃に、ゆっくりと光が満ちていく。
「我が前に真の姿を示せ……大鎌“ブラックスワン”!」
光は黒い輝きを放ち、哀の周囲にもまた光の帯を幾筋も走らせ圧を増す。
真の力を発揮した彼女の武器が、眼前の敵を倒すべく振り上げられた。
「ドレッ!?」
「常闇へ還れ! シャドウ・クロス!」
シュ、ズバァァァ!!
「ドレアァァァァァァ!!!」
裂帛の気合とともに振り下ろされた刃が、燃え盛る異形の巨体を切り裂く!
「はぁぁぁぁっ!」
続けて放つ真一文字の黒の一閃が加われば、異形の体に十字の斬撃傷が浮かび上がる!
「……――ッッ!」
闇が、溢れる!
切り倒される大木のように、巨体がゆっくりと倒れ、崩壊しながら沈み、水飛沫を上げた。
(す、すごい……!)
その輝きは、その力強さは。
遠巻きに戦場を見守っていた照也の目に、余りにも鮮烈に映った。
絶望を打ち払う少女たちの煌めく姿に、彼は我知らず見惚れていた。
※ ※ ※
「「いぇーい、勝利ー!」」
「………」
大池のそばに降り立ち、ハイタッチする円と絵瑠。
大技で乱れた呼吸を整える哀。
張り詰めていた空気は解け、爆ぜた飛沫も落ち着いていく。
誰しもが、危機は去ったと思った――その時。
シュルルルルッ! バシッ!
「「「!?」」」
水面から突如として伸びた触手が、哀、円、絵瑠の足首に絡みついた。
「「「きゃあああ!!」」」
一瞬にして宙へと釣り上げられる3人。
彼女たちの眼下、大池の中から、先ほどよりもさらに巨大化した異形が姿を現す。
「まさか、技を受ける前に自分を切り離して……?!」
「ド~~~レ~~~イ~~~~~~~~~ン!!」
「「「いやあああ!!」」」
命の力……プラーナを吸い取られる。
背筋をピンと仰け反らせ、衝撃に少女たちから悲鳴が上がった。
「絵瑠! 円姉ぇ! 黒羽!!」
彼女たちに想定外が起こった。
それを即座に理解した照也は、迷うことなく彼女たちに向かって駆け出す。
なりふり構わず、ただただ必死に助けに向かって最短距離を駆け寄って。
だが……。
「ドレッ!」
「ぐあっ!!」
現実はただ、冷徹に。
食事の邪魔だと振るわれた横薙ぎの一撃が、照也をあっさりと石畳の上へ跳ね転がした。
「お義兄ちゃん!」
「弟くん!!」
「ぐ、ぉぉ……!」
痛みを堪え、なんとか立ち上がろうとして、失敗する。
これまでとは違った、違和感。
「が、な……にが? ……ぅぐっ?!」
今の一撃で照也の左足は骨折していた。
「ち、くしょう……まだ……俺、は……!!」
それでも、照也は立ち上がろうとする。
気づけば彼の心の中は、彼女たちを助けること以外のすべてが抜け落ちていた。
(動け、動け……!)
手に力を込め、右足でバランスを取る。
ボロボロになっても諦めず、何ができるかわからなくてもひたすらに。
それでも、起き上がれなくて。
心を、燃えるような怒りが支配した。
「だ、め……逃げ、て…………」
「おとうと、く、ん……」
「お、にい……ちゃん……」
囚われの少女たちの声も届かない。
ただ彼女たちを助けたい。助けなければならないという心が彼を突き動かす。
「ド~レ~イ~~~~~~~ン!!」
「「「きゃあああ!!」」」
「やめろぉぉぉーーーー!!」
人の心を喰い尽くし、今なお大切な人たちを傷つけようとする奴らが、許せない。
あれは……倒すべき敵なんだと、魂で理解する。
「うああああーーーーーーーっっ!!」
自然に、咆哮を上げていた。
(動け! 動け! 動け動け動け! 俺が、俺がみんなを守るんだろっ?! お前はそう決めて生きてきただろう! 大殿照也!!)
体が重い。
どれだけ心が叫んでも、それだけでは動けない。
(足りない、足りない! 俺には何もかもが足りない!!)
何が足りないのかさえ分からない。
目の前に立ち塞がる存在には、今日まで自分が生きてきたすべてが通じない。
(俺は、俺は絶対に認めない! こんな現実! こんな絶望!)
それでも、諦めたくはない。
目の前の理不尽を跳ね除ける……絶対的な何かが欲しい!!
(力だ! 力が……欲しい!!)
どんな攻撃も跳ね除ける、鋼の肉体が欲しい。
何度だって立ち上がる、強い足が欲しい。
襲い来る敵を打ちのめす、硬いこぶしが欲しい。
諦めない限りどんな困難だって乗り越えられる、立ち向かうための力が欲しい。
そして何よりも――。
(――目の前の絶望を打ち祓い、平和な日常を取り戻す……力が欲しい!!!)
そう、心の底から求めた瞬間。
「……!」
照也は自分が何をするべきなのか理解する。
「お、おお……おおおおお!!!」
呼び水となるのは、魂の叫び。
腹の底から力を溜めて、内側にあるすべての熱を吐き出すように……世界へ吼える!
「俺が! みんなの日常を、守るんだぁあああーーーーーーーっっ!!」
それに応えたのは、宝石と腕時計だった。
ピワァーーーーーーーーオッ!!
「!?」
瞬間。
照也は感じ取る。
(この、力は……!?)
火山が噴火するように激しく、強い何かが沸き上がってくる感覚を。
それと同時、全身を紫の光が包み込み、目も開けていられないほどの閃光に貫かれた。
次回、変身!
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