第05話 Bパート① ー黒銀の戦士ー
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Bパート、スタートです!
戸惑う照也の見上げた先。
転校生、黒羽哀と思わしき人物が、大型の異形と対峙していた。
少女の鋭い視線は今朝よりさらに鋭く、油断なく身構えるその姿は可憐さも感じる衣装に反し、彼の目に、物語に語られるような英雄を想い起こさせた。
「………」
「ド……レ……」
両者互いに間合いの内側。
張り詰めた空気が照也の肌にも伝わってくる。
「……確か、大殿照也だったわね?」
「え?」
「死にたくなければすぐにその場から離れなさい。来るわよ」
「なっ、あっ!」
視線すら向けずに掛けられた声。
ほんのわずかな構えの変化。それだけで、向かい合っていた者たちの緊張が張り裂けた。
「ドーレイーーーーン!!」
異形が咆哮とともに触手を伸ばして襲撃!
柱の上の哀をめがけて、石灰色の悪意がうねうねと殺到する!
「フッ!」
悪意が少女を絡め取ろうとした刹那、黒銀が宙を舞う。
ブーツのかかとで柱を蹴って、哀が茜空へと身を投げ出す。
「この程度の攻撃……!」
空中でくるりと身をひねり、触手をかわすと同時に攻撃の予備動作を完了させる。
身の丈に合わない大鎌で空を切れば、そこから4つ、ギザ刃の生えた光の輪っかが生成されて。
「斬り裂け! ザークリッパー!」
哀の号令に従い解き放たれ、回転しながら触手を切り裂き、本体にも斬撃を浴びせる。
不自然なほどの滞空時間を維持していた哀が、さらにそこから人の身ではありえない空中を蹴っての前進を実行し、異形へと肉薄する!
「はぁぁっ!!」
くるくる回って遠心力を足した振り下ろし。直撃。鈍く輝く鎌の刃が、異形の体を袈裟切りにした。
「ドレァァァァーーーーー!!!」
緑の体液をぶちまけて、バランスを崩した異形がめちゃくちゃに触手を振り回す。
無軌道なそれは鞭のようにしなり、急加速して破壊を生む。
「っ!」
宙を舞う黒銀はたやすくそれをかわしてみせるが。
「おあっ?!」
ただの人である照也にとっては、およそ困難なことだった。
※ ※ ※
ドッ! バキャアッ!
「あああああっ!!」
振り下ろされた触手が、照也がさっきまで立っていた桟橋の板を粉砕する。
哀の指示から数秒遅れでも動き出せていたことが功を奏した。
かろうじて触手の一撃を回避する……が、橋の粉砕と水面に発生した大きな水の動きで足元の板が跳ね上がり、勢いづいて吹っ飛ばされる。
「ぐぁっ! くぅぅ……!」
軽い浮遊感の後に照也が感じたのは、石畳の硬さと冷たさ。
打ち付けた部位に痛みを覚えるが、彼は持ち前の身軽さを駆使し、本能で転がり勢いを殺す道を選び取った。
「生きてる?!」
「生きてる!! あいつ、何者なんだ!?」
最寄りの支柱へ降り立った哀に応じながら、照也は起き上がりざまに改めて、異形の姿を目で捉える。
イソギンチャクめいた生物的なフォルムの割に、表面には石灰色で鉱物のような光沢、さらには胴体部分に巨大な一つ目を持つ、明らかな常識外の存在。
混乱や困惑よりも先に、照也の生存本能が情報を求めた。
「奴の名は……“ソウルイーター”。生物が持つ生きる力――命の力を奪い取り糧とする……この星の外からやってきた存在」
「ソウル、イーター……!」
その言葉を照也が口にした瞬間。
ザワッ
言い知れぬ胸のざわめきが、彼の身の内から湧き上がった。
「奴にプラーナを奪われた生物は、命の輝きを失い、最後には生きる気力すら失う」
「生きる気力すら……まさか!?」
照也の脳裏を、今朝の学校でのやり取りが過ぎる。
「喪心病の原因は、こいつらなのか!?」
学校に来なくなった渡部。
明るかった彼が突然にやる気を失い、食事もせずにうなだれる姿を想像する。
「そう。人々からプラーナを奪い、喪心病にしているその犯人は……こいつら! こいつらに捕まったら、あなたも無事じゃ済まないわ!」
「!?」
渡部が自分に置き換わる。
照也の背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
「ドーレーイーンッ!!」
「来る! あなたは逃げなさい! 奴の相手は私がする!」
話すべきことは話したとばかりに、再び水面を揺らして動き出した異形……ソウルイーターと対峙する哀。伸びてきた触手を大鎌が断ち切る。
「ぐっ!」
その音を聞きながら照也も痛みをこらえて立ち上がり、戦いの場に目を向けて、自然、思考をめぐらせる。
(俺たちの日常の裏側に、こんな化け物がいただなんて……!)
考えたこと自体は、照也にだってある。
物語や伝承で語られるような怪異たちが、現実世界に現れる。
ただしそれは、あくまで妄想や空想、漫画片手に友達とするような、たられば語りとして。
いざ、それを目の前にしたショックは。
(足、が……?)
あまりにも大きい。
「……っ!」
未知なる恐怖に、足が震えていた。
しかし。
バチィンッ!!
照也は即座に自らの足を叩き、無理矢理に喝を入れて動かす。
「ぐぅぅおおおおおっ!!」
同年代の少女が、化け物と戦っている。
誰でもなく自分を守るために、戦っている。
だったら、俺も戦わないと!
「うおおおお!!」
「え!? あなた何をして……!?」
「ぜぇああああ!!!」
そして照也は、あろうことか足元に転がっていた砕けた木板を掴み、勢いをつけて投擲した。
狙いは異形の一つ目。回転を加えられた木板の尖った部分が、真っ直ぐに狙い撃つ!
「ドッ!」
バチンッ!
だが、照也渾身の一撃は、あまりにもあっさりと、異形の触手に迎撃される。
異形の目が、照也を見つめた。
「――ッ!!」
無機質なようでいて、その実とても怜悧で冷徹な、敵意。
それを向けられたのはほんの一瞬。けれどその一瞬で、照也の全身が総毛立つ。
体が宙に浮いた。
※ ※ ※
「バカっ! あなた程度でどうこうできる相手じゃないのよ!!」
「黒羽っ!?」
気づけば照也は、哀に抱えられていた。
驚くべき跳躍力で、二人は異形から距離を取る。
「なんであんな無茶をしたの!」
「お、俺は……」
着地と同時に突きつけられる、叱責交じりの問いかけに。
「恨みつらみで動いたワケじゃないわよね? まさかと思うけど、私を助けようとでもしたの?」
「!?」
図星を突かれて、言葉を失う。
「……呆れた」
戦士の黒い瞳が、照也を自分とまったく違う生き物として見ていた。
「……自分の立場を理解しなさい。今はあなたが、守られる側なのよ」
「っ!!」
静かに言い聞かせるような言葉。
優しさ、気遣いすら感じるそれが照也の耳朶を打つ。
反射で奥歯を噛み、崩れてしまいそうになった足をすんでのところで堪える。
「……今のでわからないくらいのバカでは、ないのね」
「っっ!!」
言葉の裏にある安堵を感じ取り、照也は心の底から恥じ入った。
自分の驕りと、無力を。
「さぁ、逃げなさい! あなたはここに、いちゃいけない!」
「~~~っ!」
背中を押され、照也は哀を残して戦場から逃げ出した。
ここには、まだ、彼の居場所はない。
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