第04話 Aパート③ ー日常、崩壊ー
隈本県立たまな学園高校は、非常に自由な校風である。
髪染め肌焼きお化粧はもちろん、アクセサリーやちょっとした制服の改造すらも許容するほどに、生徒の自己表現を受け入れる大らかさがある。
反面、勉学においてはきっちり厳しく、赤点を取ると鬼のように課題が出されるが。
生徒会の裁量についても同じで、かなりの自由が与えられている。
生徒会室という専用部屋があるのはもちろん、各種学校のイベントを主導し、派手に楽しくお祭りを盛り上げられるようにと、あれこれ企画する権限も有している。
そして、第60代たまな学園高校生徒会執行部生徒会長――樫木円は。
「ほらほら、見て見て弟くん! 新作ガジェット~~♪」
「うおおおおお! 凄すぎる!!!」
ガジェット同好会なる自分と照也だけの部を作り、その部室として生徒会室を好きに自由に私的に利用している。
「今回のは腕時計型! ほら、このスイッチを押すと……これが起動して」
「うわっ! VRみたいにヴゥンッ、って数字出てきた!」
そのガジェット同好会の活動も、彼女が趣味で行なっているガジェット制作の完成品や製作途中の品を、同じくガジェット好きの愛する弟に持ってきて見せるという内容のため、まごうことなき職権乱用なのである。
『不純異性交遊だけはダメですわよ? 不純異性交遊だけは、ダメですわよ? フリではありませんわよ? マジでフリではありませんわよっ!?!?』
とは、彼女たちをよく知る、生徒会会計を務める金髪縦ロールのお嬢様の談だ。
つまるところ、容姿端麗文武両道才色兼備の樫木円という少女は。
「毎度毎度の圧倒的クオリティ……円姉ぇ、天才すぎる」
「えへへ~。弟くんが喜んでくれて、お姉ちゃん嬉しい! ぎゅ~!」
驚くほどに、弟(弟ではない)大殿照也を中心に世界を回していた。
※ ※ ※
「そのガジェットねぇ、弟くんにプレゼント~」
「えっ、いいのか!?」
「いいよいいよ~。弟くんがわたしのあげたものを身に着けてくれるのが、嬉しいから~」
「俺の私服だいたいが円姉ぇプロデュースだけどな。でも、うれしいよ。ありがとう!」
「うぇへへ~♪」
溺愛している照也に感謝され、円が彼の隣でデロデロにとろける。
ふわふわマシュマロボディとも称される女性的で肉感的な体も、今はスライムばりにぷにゃっと伸びている。
「へへっ」
対してプレゼントを受け取った照也もまた、右腕に取り付けた腕時計型ガジェットを見て満面の笑みを浮かべ、うっとりとして。
ある意味ではこの二人も、似た者姉弟と言えなくもない。
照也と円の付き合いは、彼の義妹である絵瑠とのそれより長いのだから。
「またお礼しないとな。円姉ぇには本当にお世話になってるから」
照也と円の関係は、それこそ照也が幼児の頃から続いている。
おむつ替えはもちろん、寝かしつけやお散歩、幼少の頃から照也の世話を円が行い、そのお姉さんっぷりを発揮していた。
「あっ、だったらわたし、弟くんのご飯食べたーい」
「もちろん。その時は腕によりをかけて、円姉ぇの好きなオムライス作るからな」
「やったー!! 弟くん大好きー!」
「うわっ!?」
飛びついて、抱きしめて、頬ずりをする。
このくらいは日常茶飯事。むしろ一昔前に比べてこれでも大人しい方である。
ちょっと前まではぺろぺろしたりあむあむしたりもデフォルトであった。
今の円は、多少なりとも弟愛を抑えているのだ。
「弟くん弟くん、だーい好きー! むぎゅむぎゅー!」
「むぐぐっ、円姉ぇ。息が、息ができな……!」
抑えているのだ。
※ ※ ※
「またねー、弟くーん!」
「またな、円姉ぇ」
その後、照也は円と一緒に昼食をとり、彼女に見送られて自分のクラスへと戻る。
「………」
哀はすでに教室に戻っており、照也が中に入ってきたときにまたほんの一瞬だけ目を向けて、それきりで。
キーンコーンカーンコーン……。
あれよあれよという間に、放課後になった。
「春は不審者が出やすい季節ですからね。気をつけて帰るんですよー!」
教師のありがたい忠告を最後に、1-Bの生徒たちは思い思いに動き出す。
自分の所属する部活動へと向かう者。
塾や習い事へと向かう者。
さっさと帰宅してしまう者。
教室に居残ってしゃべり続けている者。
「……さてっ、帰るか!」
みなが放課後の日常を過ごす中、照也はさっさと帰宅するグループにいた。
現在、実質的に絵瑠との二人暮らしをしている身の上な彼に、部活をしている暇はない。
海外出張が続く両親から託された家の管理と義妹の世話こそが、彼のやるべきことだった。
「……結局、聞けずじまいだったな」
最後のチャンスと哀の姿を探したが、彼女はいつの間にかクラスからいなくなっていた。
・
・
・
「よしっ。買い物はこれで全部だな」
帰り道の途中でスーパーに立ち寄り、諸々の買い物を済ませた時には、空は茜に染まっていた。
「……近道、するか」
早めに帰って晩の用意をし始めるべきかと考える彼に、公園への道が目に入る。
敷地が広大な割に明かりが少なく、夜になると真っ暗になって危ない場所だが、今の時間なら大丈夫だろう。
そう考えた照也は、少し早足になりながら、公園へと足を踏み入れた。
「この大池の真ん中を突っ切るルートが、早いんだよなっと!」
たまな自然公園。
その中心に位置する大池の真ん中を貫く桟橋の道を、照也は変わらぬ早足で進む。
そろそろ涼しさが恋しくなってくる季節だというのに、今日の公園に人気はなく。
じっとりと肌に張り付くような不快な感覚に、知らず照也の心に不安が重くのしかかる。
「なんか、雰囲気悪いな……ん?」
嫌な気配に眉をひそめながらも、とっとと通り過ぎようとしていた……その矢先。
ちょうど橋の向こう側、対岸に佇む人影を見つける。
「不審者? ……いや、あれは……えっ?」
目の焦点を合わせて捉えた人影の正体に、照也は驚きの声を上げた。
「あれは、黒羽哀? おーい、くろば……」
向かう先にいた哀に気づいて、思わず照也は彼女に呼びかけようとした――その瞬間!
ドシャァァァァーーー!!!
突如として池の水面が盛り上がり、巨大な何かが姿を現す!
「え?」
照也が見上げるその先にいたのは、異形の怪物だった。
「ば、化け物!!」
「なっ、どうしてあなたがここに!?」
突然のことに身構える照也に気づき、哀が驚きの声を上げる。
だが、そこから次の行動に繋げるより先に、異形の怪物が動き出す。
「ドーレーイーーーーーーーーーン!!!」
イソギンチャクのような体に一つ目の怪物は、大量の触手を生やして一斉にそれを伸ばすと、近くにいた照也を狙う!!
「う、うわぁぁぁーーー!!」
とっさの出来事で反応できず、買い物袋を落とし、ただ見ているしかできない照也。
(な、なんだこれ! 何が起こって、俺、ここで死ぬのか……!?)
突然の終わり。唐突で、理不尽な終焉に、カッと照也の瞳が熱くなる。
無情に迫る触手は照也が涙を流す暇も与えず、その身に突き立てられんとして――。
シュピピピッ! ズバッ!!
「……へ?」
ボチャチャチャチャ!
――彼の見ている目の前で、輪切りにされて池へと落ちていく。
「……巻き込んだ。やらかしたわ」
「え?」
声がしたのは、桟橋を支える高い柱の上。
照也が声のした方を見上げれば、そこに……少女は立っていた。
「……えっ?」
先ほど見た制服姿とは異なる、黒と銀を基調とした、肌に貼りつくスマートで神秘的な衣装を身にまとい。
その手に大きな、少女の身の丈を超す大鎌を持ち、凛とした佇まいで身構える……戦士。
「黒羽、哀……なのか?」
「………」
照也の視線の先、およそ現実的ではない美少女が、茜の空で異形と対峙していた。
(ダダダ、ダダダ、ダッダッダー!)←アイキャッチ
ここまで読んで下さりありがとうございます。
次回からBパート。投稿は翌20時から。1日1話ペースで進めさせていただきたく思います。
ここまで読んで、面白がっていただけましたなら、ぜひぜひ感想、高評価など軽くポチッとよろしくお願いします!
作者のモチベーションに直結していますので、お気軽にブチ込んで来やがれ下さい!
それではまた、物語の続きまで……ブレイブ・オン!




