06. 神の使徒と呼ばれた青年(ルイside)
明瀬琉生は、自分が消えた日のことを今でも思い出せる。
それは四月の終わりだった。
放課後、理世と並んで帰り道を歩いた。
来週末に映画を見に行く話をして、寄るところがあったから道の分かれ目で別れた。
振り返って、軽く手を上げた。
理世が小さく手を振り返すのが見えた。
その後、用事をすませて家に帰る途中だった。
突然、自分の周りに円形状の光が現れて包まれた。
光りが強くなり、眩しさのあまり目を閉じていた。
光が消え去り目を開けると、そこは別の場所に変わっていた。
不思議な空間だった。
足の下には地球とは明らかに違う世界が広がっていた。
状況が飲み込めずにいた時、上空から声がした。
周囲を見渡したが、声の主は見当たらない。
『明瀬琉生よ』
琉生は動きを止めた。
『我は、神である。汝を使徒として選んだ』
琉生は、その言葉の意味を整理しようとした。使徒……。
「……使徒とは何の事ですか?」
『世界を救うための神の代行者の事だ。汝には、我の勅命を果たすための素養がある。そして汝が作った文字体系が今、汝の下に見えるこの世界の術式に有効的だ』
双字のことだと琉生は思った。
「なぜ、俺をここに呼んだのですか?」
『この世界にはいずれ邪神が現れる。放置すれば、世界は滅びる。この世界の者では邪神は傷一つつけられん。汝には力を与える。その力で邪神を一度、封じてもらい弱体化をさせた上で倒してもらう』
「待って下さい! もしそれを成し遂げたとして、元の場所には戻れるんですか?!」
『別の世界に飛ぶことは一度きりだ。故に地球には戻せん』
「は?! 嘘だろ……なんで……なんでそんな事したんだよ! 俺は今のままが幸せだったんだ! そんなの俺の幸せを奪うことじゃないのかよっ!」
『最たる適合者が汝だったからだ。もし、汝がこの使命を放棄した場合、この世界は滅亡する。そしてその次に邪神は地球に降り立ち、地球も滅亡するであろう』
「地球もなのかよ……」
『一度、邪神の姿を見せてやろう。奴は今、別の世界を壊している』
景色が変わった。
それは巨大なもので禍々しい姿の者だった。
その見たこともない姿に琉生はかつてない恐怖を感じた。
あんなものがもし、地球にでも現れたら理世も家族もみんな死……
琉生の顔は蒼白になった。
『邪神がいる世界はその世界のものを徐々に吸収する。その影響であらゆる攻撃を無効化するため、その世界の者では邪神はどうにもできん。故に、別の世界の者と我の加護があって邪神に対抗できるのだ』
あんなのを俺にどうにか出来るのか? ……どの道、もう元の世界に戻れない――。
理世に会えない……家族に会えない……友人に会えない。
当たり前にあったものが、全て一瞬で消えた。
琉生は膝をつき、肘をついた。
あまりにも唐突すぎて、どうしていいか分からなくなった。
だけど……このままだと地球も邪神というやつに滅ぼされる……。
『明瀬琉生よ』
「……」
『そのまま、聞け。邪神は今の完全体では絶対に倒せん。一度、百年程は封印した状態で弱体化をせねばならぬ』
「……百年って俺は死んでいるか、年老いているじゃないか」
『邪神が封印されている間は、汝には眠りについてもらう』
「……」
『そして汝には一つ選択を与える。封印を解いた後に邪神を倒すには、もう一人の使徒が必要だ』
「……もう一人の使徒?」
『そうだ、対となる使徒が必要になる。弱体化した邪神とて、その力はまだ強力だ。倒すには二人は必要だ。だが、その者は汝と同じ世界の者ではなくてはならない。その者を汝が選べ』
「その人は、俺と同じで強制的にに飛ばされるのか?」
『邪神封印後は猶予がある。汝と同様に転移あるいは、寿命を終えた後に転生のどちらかだ』
琉生は考えた。
考えた末にもう、道は一つしかないと思った。
そして、もう一人の使徒……。
答えは出ていた。
「なら……俺の恋人の新村理世を選ぶ。だけど、彼女が寿命を終えた後の転生でいい。それと前世の記憶を残したままは出来るのか?」
『前世の記憶を持ったままの転生は可能だ』
「なら、前世の記憶を残したままにしてほしい」
『いいだろう』
「いっとくが、あんたの為じゃない。俺の大切なものを守るためにやるだけだ!」
琉生が声のする方へ向けて叫んだ。
『ああ、それでいい』
琉生は立ち上がった。
『では、汝に力とその使い方の知識を与える。その後は地上へと送る。この世界に邪神が現れるまで七年の猶予がある。それまでに、その力を使いこなせ』
「ああ……」
琉生は目をつぶり深く息を吸った。




