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【完結】時紡ぎ~再び君と出会うまで~  作者: 紫乃月 聖巴


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20/21

エピローグ

 学園を卒業後、結婚式は初夏の頃に行われた。


 王都の中心にあるリンフェリス大神殿で行われたその式には、多くの人が集まった。


 式ではルティアは最初から泣いて、ハインは少し涙目だった。


 ジェシカは朝から落ち着きがなく何度も絶対泣くと言いながら、リセリアの顔をみた瞬間に泣いていた。


 ヴィーナはいつもの物静かな雰囲気で、友人の晴れやかな姿に心から祝福をしていた。


 タルディ・グルナールは特別訓練で共に学んだ縁で招待していた。

 無口な青年は式の間、静かに見ていたが、その目は温かかった。


 教師達も招待し、先生方は並んで座って教え子の晴れ姿を見ていた。


 ウェルディは式の後列に座っていた。

 その目は、ずっと温かい目で二人を見続けていた。


 シャハリス神殿長が主礼者を務めた。


 式は荘厳であり華やかだった。


 神殿の内部に光が差し込んでいた。

 シャハリス神殿長の声が響いた。


「二人はいかなる時も互いを支え、愛し合うことを誓いますか」

「誓います」


 ルイが答えた。


「誓います」


 リセリアが答えた。



 中から外へ出ると赤い花びらが風に舞っていた。


 ジェシカが泣きながら言った。


「綺麗です、リセリア様!」

「ありがとうございます、ジェシカ様」


 ヴィーナがリセリアに近づいた。


「幸せになって下さいね」

「はい、もちろんです。ヴィーナ様」



 ウェルディは二人を見て微笑んでいた。


 リセリアは周囲の温かい祝福で泣きそうになった。



 夕方になり賑わいが少し落ち着いた頃、リセリアとルイは庭を歩いていた。

 花びらが舞っていた。


「ルイ、前世で二人で最初に作った双字の歌詞覚えてる? 」

「覚えてるよ」

「何て書いてあった?」

「……雨の日の帰り道に、君の声が聞こえた気がして、振り返ったら誰もいなかった。声が聞こえた場所には黒いバラが一凛あった……」

「そうそう、そんな歌詞だったわ」

「あれは、お前が書いたやつだな。その後の続きからちょっとホラー感が……」

「そうだった? ルイが書いたのもあったじゃない」

「俺のは没にしただろ」

「そんなことしたかしら?」

「した。あまりに普通の歌詞だと言ってお前に言われたの覚えてる」

「覚えてないんだけど」

「俺は覚えているぞ。お前に笑われたんだからな」

「笑ってないわよ」

「いや、笑ってた」

「ええ……」


 二人は並んで歩いた。

 ルイは、リセリアを見ていた。


「まぁ、これからはずっと一緒だし、また二人で歌詞を書いてみるか?」

「ふふ、そうね!」


 リセリアは満面の笑みを浮かべた。






 結婚式から数年が経った。


 北東部の土地に、立派な邸宅が建っていた。

 リセリアとルイはここに移り住んでいた。

 庭には花が植えてあった。

 母ルティアが選んで庭師に植えさせたもので、季節ごとに様々な花が咲く。



 ある朝。


 ルイが早く起きて、リセリアは少し遅く起きる。

 庭のテラスにはハーブティーが用意されている。

 そこで二人で庭を見ながらハーブティーを飲む。


「昨日のウェルディからの手紙、読んだ?」


 リセリアが聞いた。


「読んだ。また来いと書いてあったな」

「寂しいのかしら」

「そうかもしれないな」



 リセリアは現在、王立学園で特別講師をしている。


 それは歌だった。

 リセリアの歌を聞いて感銘を受けた者達が多くいた。

 噂を聞きつけた学園の生徒達が、自分達も歌を習いたいという希望があったそうだ。

 王立学園側から希望者に歌を教えてもらえないかと相談を受けていた。


 リセリアは教えることへの興味もあり、週一ではあるが受けることにした。



 最初の授業の日、十二名の生徒が学園の音楽室に集まった。


「今日は、まず聞いてもらいたいことがあります」


 生徒達は静かに聞いていた。


「私が伝えたいのは、一つだけです。歌は、伝えるためにあるということ。誰かに何かを届けたいという気持ちがあれば、それだけで十分だと思います」


 リセリアは生徒の前に立った。


「では、まず私が歌います。何も考えずに聞いて下さい。感じたことを、後で話しましょう」


 リセリアが歌い始めた。


 音楽室が静まり返った。


 リセリアが歌い終わった後、しばらく誰も何も言わなかった。


 それから、一人の女子生徒が目を拭った。


「……涙が出てきました」

「歌詞と歌が素晴らしかったです……」


 別の生徒が言った。

 他の生徒達も頷いた。

 リセリアは周囲を見渡した。


「今、皆さんが感じたこと。それが歌の力です」



 授業の後、ハリス先生が来た。


「最初の授業、どうでしたか」

「緊張しました」

「最初ですからね、あなたならすぐ慣れますよ」






 一方、ルイは別の形で動いていた。

 王宮の魔術研究部門に、協力することになった。

 百年前の知識と、現代の魔術研究を組み合わせることで、新しい発見が生まれていた。

 その橋渡し役をルイが担っていた。


 魔術研究部門の担当者は言った。


「ルイ・シトルト様の知識は、現代の研究にはない視点を持っています。百年前の術式理論と、今の理論の間には、失われた部分があります」

「百年前の方が全て優れていたわけではありません。現代の理論の方が洗練されている部分も多いです」

「ですが、根本的な部分で現代が失ったものがあります」


 担当者達は議論を続けた。

 担当者は後に「ルイ・シトルト様との議論は、生涯で最も刺激的な時間でした」と書き残している。






 ある日の夜にリセリアが家に戻ると、ルイが書き物をしていた。


「何を書いてるの?」

「術式の記録だ」

「またずいぶんと書いているのね」

「記録は大事だ。記録がなければ、未来の人間が同じ過ちを繰り返す」

「ルイらしいわね」






 友人であるジェシカには変化があった。

 学園を卒業したジェシカは、王都に残ることを選んだ。

 実家に戻ることが期待されていたが、ジェシカはそれを断った。


「王都にやりたいことがあるの。だから残りたい」


 と家族に言ったそうだ。

 やりたいこととは教育だった。

 魔術の才能はなかったが、教えることへの情熱に気づいた。

 人に説明することと、人の気持ちを読むことへの意欲は本物だった。


 ジェシカは王都の孤児院に、ボランティアとして関わり始めた。

 そこで子供達に読み書きと算術を教えた。



 ある時、ジェシカがリセリアに言った。


「リセリア様、私ね学校を作ろうと思って」

「学校ですか?」

「はい、平民の子供が通える学校なんですが、読み書きと計算と生きていくために必要なことを教える学校なんです」

「それはいいですね。ジェシカ様なら出来きますよ」

「はい、頑張ってみます」


 ジェシカは少し照れた。



 ジェシカの計画を聞いて、リセリアは協力することにした。

 資金の調達、場所の確保など、いくつかの壁があったが一つずつ解決していった。

 リセリアが王国功労者として持つ影響力が思いがけず役に立った。

 オルスティ侯爵に相談すると王宮から一定の支援が出ることになった。


 そして何より、ヴィーナが動いた。

 ヴィーナは学園卒業後、家の財政問題と向き合っていた。

 レクセニ伯爵家は財政的には苦しかったが、人脈と知識は豊富だった。

 ヴィーナはその人脈を使って、ジェシカの計画に必要な関係者を繋いでいった。


「私には直接教える才能はないかもしれないけど繋ぐことはできますから」


 ヴィーナはそう言った。


「十分すぎるほどです。ありがとうございます」


 ジェシカはお礼を言った。



 ジェシカ発案の学校が開校したのは、一年後のことだった。


 小さな学校で生徒は最初、二十二名だった。

 全員が孤児か、親が貧しい子供達だった。


 初日、ジェシカは子供達の前に立った。


「ここは、いつでも来ていい場所です。失敗しても怒りません。一緒に覚えていきましょう」


 子供達は最初、少し緊張していた。

 ジェシカが笑うと次第に笑うようになった。



 ジェシカの最初の授業日に見学に行っていたリセリアは自宅に戻った後、ルイに言った。


「ジェシカ様の学校、今日から始まったわ」

「どうだった?」

「子供達は最初ぎこちがなかったけど、少しずつ笑顔を見せていたわ」

「大丈夫そうだな」

「そう思うわ。これから平民の生徒は増えていくでしょうね」

「そうだな」



 ヴィーナはジェシカの学校を支えながら、もう一つのことに取り組んでいた。

 それはレクセニ伯爵家の再建だった。

 父の体が弱り、家の仕事を少しずつ引き受けるようになっていた。

 財政は変わらず厳しかったが、ヴィーナは一つずつ問題を整理していった。


 リセリアはヴィーナの状況を聞いて、時々相談に乗った。


「一人で全部抱え込まないで下さいね」

「ええ、いつもありがとうございます」



 ある日、ヴィーナがリセリアに言った。


「リセリア様、旦那様との生活はどうですか?」

「ふふ、幸せですよ。毎朝、庭を見ながら他愛ない話をすることだけでも幸せを感じます」

「リセリア様が幸せそうでよかったです。私もやるべきことをやって、いずれ幸せを掴みたいですね」

「でも、日々の積み重ねが幸せに繋がることもありますよ」

「そうですね。リセリア様と話すとなぜか安心します」


 二人は語り合いながら笑っていた。



 それから1年後の秋、ヴィーナに縁談が舞い込んできた。

 相手は王都の商人の息子だった。

 貴族の令嬢であるヴィーナの方が格上だったが、その男性は勤勉で誠実であり、ヴィーナの家の状況を理解した上で申し出てきた。


 ヴィーナはしばらく迷った。

 それをリセリアに話した。


「格差があるから、迷ってるいるのですか?」

「それもありますけど……相手からの好意は感じ取れていたのですが、私自身は彼にどういう感情なのか分からなくて、どう判断すればいいか」

「何度か会っているのでしょう?」

「ええ、話が面白くて退屈することはない方です。一緒にいて楽しいと思うことが多いですね」

「一緒ににて楽しいと思えることも大事だと思いますよ」


 ヴィーナはしばらく考えた。


「……もう少し、考えてみます」


 翌年の春、ヴィーナは婚約した。






 そしてリセリアとルイに変化があった。

 リセリアのお腹には、新しい命が宿っていた。

 夕食の終わりに、リセリアが言った。


「ルイ」

「どうした?」

「子供ができたわ」


 ルイは、しばらく硬直した。

 それから、ゆっくりとリセリアを見た。


「本当か?!」

「ええ」

「リセ、嬉しいよ!」


 ルイは、リセリアに駆け寄り手を握った。


「ありがとう。生まれてくるのが楽しみだ」


 二人は微笑んだ。






 両親に報告した時、ルティアは大喜びした。


「まぁまぁ!! 本当に!?」

「はい」

「嬉しい! リセリアに子供よ!」

「リセリアも母になるんだな……」


 父ハインも嬉しそうだった。


 兄は留学から帰ってすぐに結婚し今は実家にいる。

 去年、子供が生まれた。


「俺の子供と歳が近いし、良い遊び相手になりそうだ」






 翌年、リセリアは男の子を出産した。

 名前はルトラと名付けた。


 そして二年後、今度は女の子が生まれた。

 名前はアリアと名付けた。


 二人の子供達は、すくすくと育っていった。


 ルトラは黒い髪に菫色の目をしている。

 父親に似て、少し髪に癖があった。

 うなじの辺りがはねてしまう。

 笑い方も父親そっくりだった。

 

 アリアは黒い髪に淡黄色の目をしている。

 母親に似て、澄んだ声をしていた。

 小さな頃から歌うことが好きで、家の中でよく鼻歌を歌っていた。






 ルトラが七歳になり、アリアが五歳になった頃。


 シャステリーゼ家の庭に家族が集まっていた。


 ルティアがテラスに座っていた。

 庭の花を見ながら、お茶を飲んでいた。

 ハインも隣にいた。

 兄夫婦と子供も一緒だった。


 ルイが椅子に座りゲンシェルンを抱えていた。

 リセはルイの隣に立っている。

 目の前にはルイとリセの子供達がいた。


「お父様、早く弾いて下さい」

「少し待っていなさい」


 ルイが弦を調整していた。


「よし、終わった。いいか、リセ?」

「ええ、私はいつでもいいわよ」


 ルイがゲンシェルンを弾き始め、柔らかい音色が響いた。


 それに合わせてリセリアが歌う。


 その光景はとても温かいものだった。



 その夜の就寝時――。 


「ルイ、私幸せよ」

「俺もリセと子供達がいるから幸せだ」


 二人はいつも笑い合っていた。


 君と紡いだ文字はこれからも消えない――。

最後に番外編、明瀬家のその後があります。

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― 新着の感想 ―
リセリアとルイの別れと再会と幸せなエンディング、心震えました。 素晴らしい物語を有り難うございました。
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