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【完結】時紡ぎ~再び君と出会うまで~  作者: 紫乃月 聖巴


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09. 封印(ルイside)

 この世界に来てから七年が経った。


 ルイの力は、この国の頂点になるほどに成長していた。

 すでに双字の術式体系は完成していた。

 光の術式、盾の術式、移動の術式、結界の術式、封印の術式など、準備は整っていた。


 邪神を封印した後、いつか封印は解ける。

 封印の術式は二重構造になっている。

 邪神を封じると同時に、邪神を弱体化させ続ける仕掛けを組み込む。

 そして弱体化した邪神を、対となる使徒と共に討伐しなければならない。






 その日は、ルイは一人で訓練をしていた。


 訓練の途中で突如、光りに包まれた。


「ああ……これは……」


 ルイは上空を見つめた。


『明瀬琉生よ』


 それは、神だった。


「ああ……」

『邪神が動く。十日後、東の荒野に現れるであろう。そしてもう一つ伝えておかなければならないことがある。邪神と共に、邪神を崇める者達で構成された教団も動く。彼らは世界を滅ぼし、一から自分達の世界を作ることを望んでいる。お前が封印を施そうとする時、彼らはそれを妨害するだろう』


 ルイは、その言葉の意味を理解した。


「俺一人では、邪神と教団の両方を相手にはできるとは思えない」

『この国の力を借りよ。汝は邪神を封印することだけを考えろ』

「……分かった」


 神の気配が静かに薄れていった。


 ルイは考え込んだ。

 頭の中で準備すべきことを整理し始めた。

 まず、ガストロンさんに報告しなければならない。



 ルイはガストロンの部屋を訪ねた。


「ルイ、どうかしましたか」

「神託がありました」


 ガストロンの顔が、すぐに引き締まった。


「話を聞きましょう」


 ルイは神から聞いた全てを話した。

 十日後、東の荒野に邪神が現れると同時に邪神を崇める教団も動くこと。

 そして、邪神の封印を妨害するとされる教団は王国の力を借りるよう、神が示唆したこと。


 全て聞き終えた後、ガストロンは立ち上がった。


「すぐに王宮に連絡します」

「お願いします」






 翌朝、王宮に緊急の伝達が使者から届いた。


 当時の国王エシェルビンは神殿からの急報を受けて、緊急の軍議が開かれた。


 軍議には、騎士団長のバリドルト、魔術師団長のオフェルシス、神殿の代表としてリンフェリス神殿のベリトネスト神殿長、オオルト大神殿のガストロン神官長が出席した。


「邪神が九日後に現れる。使徒が封印を施す間、我々は教団の妨害を防ぐ」


 バリドルトは、地図を広げた。


「東の荒野は広大な平地で、騎士団が戦いやすい地形ではある」


 騎士団長に顔を向けて、オフェルシスが言った。


「しかし、教団にはどのような者がいるか不明です」

「騎士団と魔術師団と共闘し、実際の状況確認しながら対応するしかない」


 バリドルトが、具体的な陣形を説明した。


「使徒殿を中心に、三重の防衛ラインを構築する。外周は騎士団、中間は魔術師と騎士の混合部隊、内周は最精鋭の騎士だけで固める。どんな手段を使っても、教団の者を使徒に近づけないことだ。使徒殿が封印に集中できる環境を最優先だ」

「教団の規模は」

「分かっていません。神託では邪神と共に動くということのみで、具体的な規模は不明です」


 ガストロン神官長は答えた。


「そうすると最悪の場合を想定して準備する必要がありますね」


 オフェルシスは言った。

 国王エシェルビンが静かに口を開いた。


「使徒は、この国の民のために戦ってくれる。我々は、その使徒を全力で守り抜くしかない」


 全員が頷く。


「準備を急げ。短期間で全ての準備を整える」






 王国の騎士団と魔術師団が、東の荒野へ向けて進軍し始めた。

 それに加えて、ルイとガストロン達も同行した。


 バリドルト騎士団長が、馬上で全体を指揮した。



 長い距離を進むと東の荒野が見えてきた。


 ルイは、その荒野を見渡した。

 まだなにも起きていない静けさだった。


 バリドルト騎士団長が、陣形の指示を出した。


「第一隊は外周の東側に展開。第二隊は南北に分かれて中間ラインを固める。第三隊は使徒殿の周囲、半径三十メートル以内に位置につけ。魔術師団は、第二隊と第三隊の間に配置。指示が出るまで待機だ」


 次々と指示が飛び、騎士と魔術師が素早く所定の位置へと動いた。


 ルイは荒野の中央付近に立った。


 オフェルシス魔術師団長が、ルイのもとに来た。


「使徒様」

「はい」

「教団と我々が戦っている間、使徒様は邪神だけに集中していただきたい。教団の者が我々の防衛ラインを突破しようとした場合でも、使徒殿は振り向かないで下さい。使徒殿の魔力は、邪神のためだけに使ってください。守りは、我々が担います」


 ルイは、オフェルシスを見た。


「分かりました。あなた方を信じます」

「我々も使徒様を信じています。この戦い、必ず成功させましょう」






 夕暮れ時、それは来た。

 地の底から響くような重い振動音だった。

 それが少しずつ大きくなっていった。


「来るぞ!」


 バリドルトが叫んだ。

 突然、空から黒くて大きな穴のようなものが現れた。

 中から巨大な影が姿を出し舞い降りてきた。

 それこそが、邪神だった。


 翼の広がりは一振りするだけで、大風が起きた。

 黒紅色の長い髪をしていて、目が赤く輝いていた。

 

 邪神が荒野に降り立った瞬間、大地が震えた。


 騎士達の馬が一斉に嘶いた。

 周囲は、その邪神の姿に恐怖を抱いた。


「あんな……化け物とやりあうのか……」


 そう誰かが呟いた。


 そして――。


 邪神の後方から、人影が現れた。

 そして次々と姿を現した。

 黒いローブを身に纏った者達だった。

 この者達こそが教団の者だった。


「ひるむな! 邪神以外は、全て迎え撃て!」


 バリドルトの声が飛んだ。

 教団のリーダーらしき白髪の老人が杖を持ち、前に出た。


「王国の騎士と魔術師か……邪魔をするつもりか。邪神様は何者も妨げることはできない。退かぬなら、全員死ぬことになるぞ」

「我らは役目を果たすまでだ!」


 バリドルトは、剣を抜いた。


「全軍、かかれ!」



 荒野が二つの戦場に分かれた。

 教団の者達と王国側の戦いが始まった。



 教団との戦いは、すぐに激しいものになった。

 教団の魔術師達が術式を展開した。

 火球が騎士達に向かって飛んだ。


「防衛術式、展開!」


 オフェルシスが叫んだ。

 魔術師団が素早く防衛の術式を張り、火球は防衛ラインで弾かれた。


「反撃する! 第一列、前へ!」


 騎士達が教団の者たちに向かって突撃した。


 教団の魔術師と王国の魔術師が術式のぶつかり合いを始めた。

 オフェルシスが、前線で指揮を取りながら、自らも術式を放った。

 内周の騎士達は、一人の侵入者も通さないという決意で配置についていた。


 もう一方では、ルイと邪神が向かい合っていた。


 邪神が黒炎を放った。


 ルイは横に跳んで避け、着地と同時に双字で盾術式を展開した。

 王国の魔術師は仲間に邪神の攻撃が当たらないように防衛術を張った。

 次の黒炎が放たれ、ルイの盾に直撃し衝撃が走った。



 王国側と教団の戦いは、激しさを増していた。

 教団の魔術師と王国の魔術師団の力の差は互角だった。

 バリドルトが、全体の状況を見ながら指揮を取っていた。


「第二隊、中央を押せ! 教団の前線を分断しろ!」


 王国の騎士達が、教団の隊列に向かって突撃した。

 教団側も魔術師が術式で壁を作ろうとした。

 だが、王国の魔術師達がそれを崩していった。


 教団の数人が他の者達への注意を引くために、大規模な爆発術式を放った。

 それは中間ラインに向かって飛んだ。


「第二隊、防衛!」


 オフェルシスが叫んだ。

 防衛術式が展開されたが、爆発の規模が大きすぎた。

 防衛ラインの一部が崩れた。

 敵は、その隙を突いて走り出した。

 内周へと向かって行った。


「通すな!」


 教団と騎士達が激突していた。



 王国側と教団側が激戦中、ルイと邪神との攻防は続いた。

 邪神は衝撃波や薙ぎ払いをしてきた。

 ルイは、それらを次々と避け、あるいは盾術式で受けながら徐々に邪神に近づいていった。


 邪神の力は凄まじいものだった。


 また衝撃波が来た。

 すぐさま盾を前に出したが、少しずれが生じて余波を受け地面に叩きつけられた。

 すぐに起き上がり体勢を整えた。


「……くそっ」


 状況を確認してすぐ、双字で術式を展開した。

 盾の術式を重ね掛けをして強化した。


 ルイは邪神との距離を見極めながら、気づかれないように邪神を中心とした五方に移動しながら術式を地面に組み込んだ。

 攻撃を避け続けていると、邪神がより強力な攻撃を繰り出してきた。

 大規模な黒炎の放射攻撃だった。


 ルイは盾術式を最大まで展開した。

 周囲を覆うような球形の盾を作った。


 黒炎が球形の盾に当たり盾は震えたが、魔力を追加で注ぎ込んで盾を維持した。


 黒炎が止み通常の盾に戻し、距離を詰めていった。


(今だ!)


 ルイは、五方に仕掛けをした術式を展開し始めた。

 封印術式を唱えながら空中に正確に書き込んでいく。


 邪神が動き、爪がルイに向かって振り下ろされた。

 ルイは術式の展開を続けながら、横に跳んで避けた。


 邪神の攻撃を避けながら、術式の構造が形成されていった。

 そして術式が完成した。

 眩い光りが一点に収束した。

 その光が邪神に向かって放たれた。


 邪神の体が、封印の光に包まれていった。

 その巨大な体が少しずつ、光の中に沈んでいった。



 邪神が封印された瞬間、教団の者たちの動きが変わった。

 封印され戦意を失った者が出始めた。

 邪神の力をあてにしていた自分達にとって邪神が封印されたことは、目的の消失を意味していた。


「邪神様が……封印された」

「退くぞ!」


 教団の者達が崩れ始めた。


「逃がすな!」


 バリドルトが叫んだ。


「包囲しろ! 一人足りと逃すな!」


 逃げようとした教団員を騎士達が追った。


 その場で捕縛できた者、取り逃がした者といたが教団の組織的な抵抗は終わった。


 バリドルトが、部隊全体を見渡した。

 負傷者が多数出ていた。


「皆、よく守り抜いた」


 バリドルトは、全員に向かって言った。


「使徒殿が封印を成功させた。お前達の防衛があったからだ、よくやった」



 ルイは、地面に座ったまま動けなかった。

 全身の魔力を使い果たしていた。

 体中の筋肉が限界を超えていた。

 邪神が封印された場所を、ぼんやりと見ていた。


「……終わった」


 ガストロンが、急いで駆け寄ってきた。


「ルイ! 無事ですか?!」

「大丈夫です。ただ、しばらく動けません」


 ガストロンは、ルイの体を確認した。


「治療師を呼びます」


 オフェルシスが近づいてきた。


「使徒様、お見事でした」

「俺一人の力ではありません。あなた方が教団を抑えてくれなければ、封印はできませんでした」


 バリドルトが、ルイの前に立った。

 この武骨な騎士団長が、ゆっくりと片膝をついた。


「使徒殿に、敬意を表します」

「騎士団長、やめてください……」

「これは、儀礼ではありません。私個人の感謝です。あなたの戦いを見ていました。あなたの勇姿が、我々に力を与えてくれました」


 もう、戦いが始まった時の重い空気はなかった。

 今は穏やかな光が荒野を照らしていた。






 封印を完遂した後、ルイはガストロンと共に神殿に戻った。


 残りの準備を全て整えた。

 理世宛に書に残して置いた。

 神の知識で得たオオルト大神殿の加護の受取方法や双字の術式の説明、歌術式の理論など、全て書にした。

 四つの神殿には、邪神対抗時に必要なアイテムを隠した。

 ウェルディのもとに書を預けた。


 そして、最後にリンフェリス大神殿を訪ねた。

 神殿長に伝言を伝え、書物と指輪を預けた。



 眠りにつく前夜、ルイはガストロンと最後の食事をした。


「いよいよ明日ですか。寂しくなりますね……目覚める時はどうするのですか?」

「対となる使徒が、特定の術式を発動させた時に目覚めるようにしています」

「そうですか……」

「それと双字ですが、対の使徒が気づけるように、この書の写しを広めてほしいです」


 ルイは書物をガストロンへ渡した。


「お受けしましょう。ですが、邪神の教団の残党が残っています。彼らに気づかれてはまずいのでは?」

「その事ですが、その書には読めたとしても口外しないように指示しています」

「なるほど……では、これを読める者を探していることにして広めてみます」

「お願いします」


 ガストロンはしばらくルイを見ていた。


「……貴方の眠っている場所は我々が守り続けますから、安心してお眠りなさい」

「はい、ありがとうございます……」


 二人とも涙を抑えながら、微笑んだ。






 眠りにつく前の朝、ルイは神殿の庭に一人で立った。


 理世のことを考えた。

 今、何をしているだろうか。

 笑っているだろうか。

 誰かが傍にいるだろうか。

 俺がいなくなって、辛い思いをしていないだろうか。


 できれば、誰かと幸せになってほしかった。

 理世には幸せに生きてほしい。

 ここで彼女が転生した時を待とう。


 そして、ルイ・クロデリヌスは長い眠りについた――。

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