神さま、照れる。
精霊にはそれぞれ守護を担当するエリアがある。
地の精霊なら王都周辺。
風の精霊なら遥か西の大地。
火の精霊は南の火山地帯にある島嶼群。
水の精霊は小東洋の縁海。
光の精霊は白夜が多い北の大陸。
闇の精霊はギンヌンガの裂け目がある地区。
時の精霊は地脈全体を見守る為に、担当している特定の地域はない。
強いて言うなら、王都になるかな。
なので地の精霊と被っている事になる。
因みに新しく創られた氷の精霊は、年中雪に閉ざされた隣の大陸を担当する事になった。
それぞれ割り振られた地区にある地脈点に集まった霊力を、増幅して世界へと送り込む。
王都周辺の霊力が少ないから、じゃあ隣の風の精霊の所から、少し融通して貰おうか。
全体的に流れる霊力が少ないから、高位精霊を各地に遣わして原因を探ろうか。
あそこで干ばつが起きているから、水の精霊に余力があるなら出張して貰おう。
瘴気の溜まっている場所があるから、時の精霊に報告をしなければ。
そんな感じで各々判断して、助け合いながら霊力を巡らせている。
特に今は、祈りの声が精霊達に届かなくて、循環する霊力が少なくなって居るからね。
しょっちゅう顔を出すから失念しそうになるが、結構大変みたい。
そんなヒマがあるなら、マジメに仕事をしろよと言いたい。
信仰心のような、移ろいやすく不安定な人間の心持ち加減で、霊力が増減し世界が滅亡しかねない、と言うのが、なんともまぁ、危うい成り立ち方をしているものだと呆れてしまう。
この世界の神さまは、余程純粋だったのだろうか。
俺なら直ぐに、霊力が枯渇する考えに至ってしまう。
怖くてこんなシステムには、到底出来ない。
人の心程頼りなく、気まぐれなものなんて早々ないのだから。
その少ない霊力でも、アリアが犠牲にならず、精霊の皆の管理もない状態で、上手く世界を回るようになったら最高だよね。
また旅に出れば、皆の肉体を創る為の材料集めをするんだもの。
その時に、お仕事で手一杯だからと、せっかく身体を創っても突っ返されてしまったら、哀しいじゃない。
……――そんなワケで来るは、街からほど近いダンジョンの最奥だ。
昨日も来たね!
随分長い事来ていない気がするのは、何でだろうね!!?
王都を移動するか否かも含めた話し合いは、責任ある立場に居る大人がやれば良い事だ。
それも地下の方陣の設置場所が、王都の地下にある地脈点じゃなければならないのか、別の場所でも良いのかによって変わってしまう。
全ての話し合うべき事柄を解決するには、誰かが時の精霊の判断を仰がなければならない。
精霊教徒を幽閉させる為に‘’スファンクス‘’に護送をしたり、避難して来た住民への説明をしたり。
そういった事は、騎士達やゴルカさんに丸投げをした。
そもそもまだ国王と宰相閣下は、街へと至る街道の、馬車の中にいる設定なのだ。
表立っては出歩けない。
なので転移方陣のある部屋から全員追い出した後、コッソリとリビングへと移動して貰った。
家から追いやられた避難民は全員、学校やら役所やら、大きい建物へと移動したみたい。
不安だろうし、後で王家に請求するから、ジュースでも酒でも、何でも振舞って良いよと許可を出しておいた。
美味しい物を飲み食べすれば、心が落ち着くからね。
ただまだ時間的に、夕食にするには中途半端な時間だから。
飲み物だけでガマンして貰う。
宰相閣下は難色を示していたけれど、アリアが改めて許可を出したのだから良いのだ。
国のトップが良いって言ってんだから、下が四の五の言うんじゃねぇ!
突発的に迷惑掛けられたんだから、せめて金銭的に儲けさせろ!!
……って感じ。
まぁ、最悪、俺が出すよ。
金は最近使う機会がないから、有り余ってるし。
移動した人の中に、フィブレスとレイラの姿はない。
二人には、今後どのように動いて貰うのか、話し合いをしなければならないからね。
また馬車に乗っているのがアリアではないと知っている、避難誘導の際に活躍してくれた夢魔達への報酬の交渉もしておいて貰う手筈になっている。
ホント、彼らには世話になったからね。
報酬に聖典や電動マッサージ器を所望されたら、その時には一肌脱ぎましょう。
やる事は他にも、沢山ある。
この世界の全てを統治している国王が御座す王都が、一晩で陥落したのだ。
その衝撃は計り知れない。
単一国家とは言え、一枚岩とは言えないだろう。
即座に世界中にその衝撃的なニュースが駆け巡るに違いない。
情報戦はいつの世でも、後手に回った方が負ける。
なるべく早く、どう対処するのか決めて置かなければならない。
だが、そういう話に俺は関係ない。
誰がなんと言おうと、ただの一般人だもの!
なので俺は、自分にしか出来ない時の精霊との相談をしようと思う。
カノンは置いて来た。
アイツがいると、内緒話がしにくいからね。
あと、精霊の新顔である元素の精霊の面談も兼ねている。
氷の精霊も呼ぼうかと思ったのだけど、立地的に街と近いから、核に刻んだ制限が掛かってしまって、召喚出来なかったんだ。
地の精霊が許可を出さない限り、近寄れないってヤツね。
地の精霊には、時の精霊と引き合わせたいから了承して欲しいと頼んだのだけれど「まだ精霊になって浅いし、我が優先されてしまい暴走されたら敵わない」と断られてしまった。
表面上の理由は他にも、もっともらしい事を挙げ連ねて居たけれど、多分、本心は違う。
単に楽しいお料理タイムを、邪魔されたくないからだ。
許可を取りに店に行き、開口一発目で「大丈夫だった?」と聞かれたので、燼霊と戦っていた事には気付いていたようだ。
なのに来なかった。
だってお料理中だったから。
カノンは無事に生き返ったし、死者が居ないから別に良いんだけどさ。
もしそうじゃなかったら、八つ当たり位はしていたぞ。
「趣味と人命、どっちが大事なんじゃー!?」って言って、出来上がってる料理を片っ端から食い散らかしたに違いない。
ちゃぶ台返しはしないよ。
勿体ないから。
『――ナニ、この空間。
キモチ悪い……』
時の精霊と会える最下層では、ダンジョンの運営をする為の術式が絶え間なく働いている。
周辺区域の膨大な瘴気が収集され、魔物を作成したり、宝箱の中身が生成されている。
また霊力によって、各階の難易度の設定のため、浄化と中和もひっきりなしに行われている。
そのせいで霊力に敏感になった元素の精霊の、神経に障るようだ。
相反する性質のエネルギーが、ごちゃ混ぜになっているんだもの。
仕方ないよね。
俺が平気なのは、精霊とは違い、肉の身体があるからだ。
霊力の感度は、その分落ちる。
俺が鈍いからでは、決してない。
人間ならば、誰もがそうなる。
どれだけ霊力の扱いが上手になろうと、気配探知の精度を上げようと、霊力そのものと一体化する精霊のようにはなれないよ。
精霊って、海を漂うクラゲと似たようなものだから。
あぁ、デフォルトで身にまとっている服に、口腕みたいなレースがあしらってあるのは、クラゲをリスペクトしているからかもしれないね。
『――そんなワケないでしょ』
吐くワケでもないのに、口元を押さえている元素の精霊に、呆れ顔でツッコミを喰らってしまった。
負の感情から解放されたら、途端にツッコミ役に変わるのな。
元々が俺の一部だったりコピーだったりしたならば、ココは是非ともボケに乗って欲しかった。
ツッコミ不在による終点の見えない会話を繰り広げて居たら、そのうち時の精霊が『なんでやねん』とツッコミを入れに来てくれたかもしれないのに。
残念だ。
ホラ、王道なツッコミ役って、マジメな常識人が多いじゃない?
時の精霊なんかは、適任だと思うんだよね。
『――関西人でもないのに、そんな大役を押し付けられられても困るのだが』
「日本人ですらないもんねぇ」
『――今はヒトですらないしなぁ』
「ソレな!」
『――ノリが、軽い……』
ハッハッハッと笑い合う俺と時の精霊を横目に、元素の精霊は頭を抱えてしまった。
七歳頃の俺から派生したんだもんねぇ。
あの頃はまだ、マジメに上の連中の命令に従おうと頑張っていたから、俺よりも性根がマジメなんだろうなぁ。
大変だね。
こんなふざけた輩が生みの親で。
異次元に住んでいる時の精霊は、王都で何が起きたのかを知っていた。
そう前置きをした上で、方陣を新たに作るのは問題ないし、引っ越しても特に支障は無いと言ってくれた。
良かった。
最低限、しなければならない交渉事は、これで終えた。
ただそうなると、今まで通り霊力を方陣に込める為、アリアかカノンかの犠牲が必要になる。
せっかく引っ越しの機会なのだ。
ソレはしたくない。
避けたいのであれば、全く新しい術式が刻まれた方陣を編み出す必要があると言われた。
そもそも何で、二人が搾取されなければ成り立たないような方陣にしたのか。
理由は、幾つかある。
世界規模で足りない霊力を補える人が限られている事が、まず挙げられる。
消費するのはなにせ、桁違いの霊力量だからね。
宰相閣下も二人の血縁者ではあるが、今のアルベルトと同程度止まり。
そして二人はとても優秀な術者だ。
他の何百人、何千人を犠牲にするよりも、人身御供は一人で済ました方が良い。
その方が、効率も良いし。
だが一番の理由は、今回カノンが発動させた、時の精霊との契約の証である、万が一の時の為の‘’即死回避‘’を発動させる為。
コレが、一番の大きな理由だ。
二人は時の精霊と直接は契約していない。
だが霊力的な繋がりを持っていないと、‘’即死回避‘’は発動しない。
また、発動させる為に霊力をストックしておく必要があった。
地下の方陣は幾重にも重なっていると言っていたから、それぞれ複数の意味を持って居るのだろうな、とは思っていた。
その奇跡をもたらすために必要な霊力を貯めておくための方陣も、地下にあったそうだ。
ソレが破壊されていたら、カノンはお陀仏だったかもしれない。
正に危機一髪。
この話をしている最中、ずっと元素の精霊は視線を顔ごと背け、縮こまって居た。
一応、罪の意識はあるようだ。
精霊になっても尚、他責思考のままだったらどうしようかと思っていたけれど、良かったよ。
今回カノンに‘’即死回避‘’が発動した。
その上、致命傷を負ったまま暫く放置されていた為、死ぬ度に何度も‘’即死回避‘’の術が掛けられていた。
その為に、ストックされていた霊力は、ほぼ尽きている。
つまり、今この瞬間、再びアリアなりカノンなりが死に至ったら、免れる術が無い事になる。
ちょっとソレ、ヤバくない?
『――ヒトの理に殉ずると考えれば、特に問題はない』
「ソレは、そうだろうけど……」
元々霊力の循環を担っていたのは、精霊達だ。
神様から与えられた使命を放棄し、ヒトに押し付けるなんて事、本来あってはならない。
時の精霊が、二人の両親の願いを叶える為に作ったのが、あの方陣である。
時の精霊としても、世界を巡る霊力が減りどこかから霊力を調達して来なければならず、仕事が大変になるなぁ、なんて思っていた所で交渉をされたから、ホイホイ乗ってしまったそうだ。
ちょっとその理由は疑わしい。
だが誤魔化したという事は、聞かれたくない理由があるのだろう。
霊力の循環を時の精霊の代わりに手助けをする代償として、永年拘束されているのかと思っていたが、その実、助力を対価に命を買っていたワケか。
何かしらの思惑があったとはいえ、時の精霊が簡単に口車に乗るとは思えない。
何かとんでもない裏があるのではないかと、勘繰ってしまう。
『――他でもない、お前の親友の願いだ。
可能な範囲で叶えてやろうと思うのは、当然だろう』
「………………なる、ほど」
言って俺の目を見つめる時の精霊の顔は、酷くマジメだった。
いやぁ〜……俺ってば、愛されてんね!
地球で良くしてくれてはいたけどさ!!
そんなあからさまな好意? 厚意?? を向けられると、ちょっと、その、テレるね!!!




