神さま、頭を押さえる。
目には見えないが、空気のように世界中に存在している霊力は、地中奥深く、あるいはココとは少しズレた次元に張り巡らされている、地脈を通して循環している。
例えるなら、血液と血管みたいなものだね。
それに倣った時心臓にあたるのが、王都の地下にあった、時の精霊が授けた方陣だ。
心臓、というとちょっと語弊があるかも。
ペースメーカーの方が、イメージには近いかもしれない。
心臓は、地脈点と呼ばれる場所になるし。
その地脈点では霊力をせき止め、ある程度溜め込んでから、一気に世界中に流す。
また間欠泉のように、地上に高濃度の霊力が噴出するような場所もあれば、モーリシャス島の海の中の滝のように、高濃度の可視化された霊力が地面に吸い込まれるように錯覚する姿が見られる土地もある。
いずれも大量の霊力を溜め込める地脈点だ。
ギンヌンガの裂け目は、元々は地脈点だったけれど、今は霊力を消費するだけの場所になっている。
ニブルヘイムへと至る扉を、封印しなくちゃいけないからね。
そのせいもあって、霊力の循環が上手くいかなくなってしまった。
一箇所に瘴気が溜まれば、霊力の流れが不安定になったり、詰まって鼓動が停止してしまう。
また霊力の動きが滞れば、平和を願い太平を望む精霊達からの恩恵が届きにくくなる。
霊力は、精霊の力が届きやすくなる媒介の側面もあるからね。
逆に霊力が少ない土地は、自然災害が起きやすく大地が枯れ、人が過ごし難い環境になる。
瘴気が滞り空気が濁れば、時空の裂け目が生じやすくなる。
自然にヒビが塞がれば良いのだが、瘴気の滞留が解消されなければ、燼霊の住むニブルヘイムとこの世界が繋がってしまう。
強力な魔物や燼霊がコチラの世界に来てしまったら、被害はかなりの物になるだろう。
それを防ぐ為、地脈の流れを強制的に促す働きを担っているのが、地下方陣だった。
幾重にも方陣が重なっている、かなり高度な術式で作られて居たそうだけど、結局、見る前に壊れてしまったからなぁ。
アリア達に粘り強く交渉すれば、現地に足を運ぶ位はさせて貰えただろう。
その場で集中して探知をすれば、どんな構造か分かったと思うんだよね。
そうすれば、今こんなに悩まなくても、サクッと創り直す事が出来たのに。
言っても詮無い事だけど。
方陣を設置する地脈点に拘りが無いのなら、住民から方陣から全て引っ越してしまって、街に設置しても良いと思うんだよね。
わりとご近所さんだが、街の下にも地脈点があるんだ。
しかもソコソコ規模が大きいのが。
王都と同等、位かなぁ。
なので設置場所の移動だけなら出来るだろう。
ただそれだと、アリアの負担は変わらないんだよね。
せっかく作り直すなら、負担は分散すべきだと思うんだ。
俺が‘’地球再生計画‘’みたいな重要な役割を押し付けられて、結構精神的にも辛かったからさ。
アリアに掛かっているプレッシャーも、きっと大きいと思うんだよね。
英雄の娘であり国王という立場による、正義感や義務意識から、何年も一人で担って来たんだろ。
兄であるカノンが世界中を自由に旅をしているのに、アリアだけが王宮に引きこもって辛い思いをしているのって、正直どうなの? って思ってしまう。
そりゃ、そのカノンが旅している理由だって、王族としてのお勤めだったり、アリアの負担を減らす方法探しだったりするケドさ。
百年、二百年と探しても、無いワケじゃん?
なら、時の精霊に直談判出来る俺が居るのだし、方法が無いか聞いてみても良いと思うんだ。
コレばっかりは、時の精霊がどう判断するかに掛かっている。
彼は力が他の精霊よりも強いせいか、人に過干渉すべきではないと思っている節があるし。
「……元素の精霊は、何か良い方法思いつかない?」
『――生まれたばかりの私に、ソレを聞く?』
怒りの表情ばかり見せられていたが、今は元素の精霊となり心が晴れたようで、凪いだように穏やかな顔をしている。
生まれ変わったばかりだからこそ、精霊独自の派閥問題やしがらみが無い。
口を出し過ぎたとしても「知らなかった」で押し通せるかなと思ったんだけど。
なにせ精霊の皆は、俺に甘いからね。
俺と似た見た目で、元々俺の一部だった元素の精霊なら、同じように失敗をしても笑って許して、チヤホヤしてくれるかもしれないと思ったんだけど。
提案無しか。
ちぇっ。
……ハッ!
甘やかす対象が増える事で、甘やかしメーターの許容量が二分割されて、俺への当たりが強くなってしまったら、ソレはソレで困る!!
『――瘴気を溜めない方法なら、助言出来るわ』
教会にあった、淵窩と呼ばれていた道具は、周囲の瘴気を集める事が出来る道具だった。
本来は滞る事すらない、すぐに一笑と共に散ってしまう程度の、些細な不平不満。
些細と言うのは、冷蔵庫に入れて置いた、楽しみにしていたプリンが消えて無くなっていたような、衝撃的かつ怒髪天をつくような出来事ではない。
本当に他愛のない事――朝食に目玉焼きを作ろうとしたのに、卵を割り落とした時に黄身が潰れてしまったとか。
傘を持って出掛けたのに、差す程でもない小雨しか降らなかったとか、その程度の些事。
ちょっと残念だな、と思う程度。
人によってはスルーするような事柄。
ソレらの、モヤッと来る一歩手前程度の胸のつかえ。
そういう禍根にすらならない鬱屈した感情を集め、人工的に時空の裂け目を作り出す為の種となるのが、あの淵窩だ。
元素の精霊が燼霊だった頃に「スキル」で創り出し、精霊教徒達に渡していたそうだ。
淵窩の機能は、周囲の瘴気を集める事。
だがあまりにも収集し過ぎてしまえば、教徒達の心が浄化され過ぎてしまいう。
一度に相当量を吸収すれば、裂け目を作るキッカケ以上の状態に持って行けただろう。
なのにソレをしなかったのは、浄化されるのを避ける為だ。
都合の良い道具で居てくれる為には、世の中に不平不満を抱いてくれている方が、御しやすいからね。
そのため、一人の人間から吸収する瘴気は、さほど多くなかった。
あくまで‘’種‘’にしかならないのは、そのせいだ。
もっと上手く創れば良かったのに。
上限の数値をどれ位に指定するか、ではなく、吸収する対象が持っている瘴気の何%を吸い取るのか、という指定にすれば、浄化され過ぎてしまう事は無い。
そうすれば、今頃世界中のアチコチでギンヌンガの裂け目と同じような、高位の燼霊すら通れる時空の裂け目が誕生していただろうに。
詰めが甘いね。
人間サイドの味方としては、その詰めの甘さに助けられるが。
その淵窩とは逆――霊力を集め保存する道具を創り、必要箇所で使う仕様にすれば、霊力のムラを無くせるのではないか、との意見だった。
とってもアナログなやり方だね。
巡礼をする精霊教を、長年根城にしていただけはある。
考え方が、人は苦労してナンボ、みたいな所があるよな。
出来ればそんなアナログな方法ではなく、基本は全自動、たまにメンテナンスに人の手が必要、程度の霊力の循環方法があれば一番なのだが。
「お前はまた、何をたくらんでいる」
「企むなんて、失礼な。
アリアの負担を軽減させようと目論んでいただけだよ」
前よりも表情筋の動きが賑やかになったカノンは、思いっきりしかめっ面をして、暫し逡巡した後に「感謝する」と率直なお礼の言葉を述べた。
飲み込んだ言葉は幾つもあるようだが、最終的にはアリアの為になる事を画策していた事実が勝ったらしい。
さすがはシスコン。
しかし素直に礼を述べられると、少し怖いな。
やはり脳に異常をきたしているのだろうか。
「カノンお前、頭、大丈夫か?」
マジメに心配をしたのだが、進言をしたらデコチョップされた。
解せぬ。




