表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/10

京の夏は厳しい


風はあるのに、熱がこもる。

 息をするだけで体力が削られていくような、重たい暑さ――京の夏は厳しい。


 病というほどではないが、酷い暑気あたりの後、なかなか体が整わず

 ただでさえ細い体が、ますます頼りなくなっている。

 

 沖田は、一日の大半をだらだらと床の上で過ごしたり、亀の桶を眺めたりしていた。


 カメは――思っているより、ずっと気まぐれで、ずっと繊細な生き物であった。


 沖田は、亀が少し食べたりするのを、一喜一憂して見ている。

 近藤もまた、沖田が少し口にするのを、同じように一喜一憂していた。


 沖田が、自分の粥の中のふやけた飯粒を、桶の中に落とす。


「おい、それはまずいんじゃないか


「えっ、だって食欲がない時はお粥でしょ」


「いや亀は違うと思うぞ。第一、水がよごれる」

 永倉が呆れたように言う。


「じゃあ、何がいいかなあ」


「やっぱり動くものに食いつくと思うぞ。虫とか小魚だな」


「ふーん、河原かあ。じゃあちょっと取りにいこうかなあ」


「バカ、おまえは寝てろ。あとで鉄之助に頼んでやるから」


「ちぇっ、ちょっとふらつくだけでもうなんともないんだよお」


 本人はそう言うが、ここ数日、沖田は水のような粥を少ししか食べていない。

 身体は、見るからに薄く頼りない。


「亀もそうだが、おまえも食べられるようにならないとな。食べれば元気になるさ」

 そう言って、永倉は笑った。


 午後


「……なんかさあ、江戸にいたころの僕って、夏バテなんてしなかったんだよねえ」

 縁側に座った沖田が、ぼんやりと呟いた。


「夏といえば祭りでさ、もう夢中で騒いでいたんだよ」

「なのに、初めての京の夏、こんなことになっちゃってさあ」


 その言葉に、隣にいた山崎が顔を上げる。

「京都の夏は厳しいですからねえ。それに沖田さん、京に来てからずっと、誰よりも働き詰めでしたから」

「疲れがたまっていたんですよ、きっと」


「うーん……でもさ、無理してたってほどじゃない気もするんだよねえ」

 沖田は苦笑する。

「江戸にいた頃もさ、僕、内弟子だから、道場の掃除とか炊事洗濯、それに剣の指導、ずっとやってきたし。出稽古もちゃんとこなしてたしさ」

「京に来てから、まあそれなりに仕事は増えたけど……こなせてたはずだったんだよねえ」

「別に、倒れるほどじゃ――なのになあ」


 なるほど。


 沖田は、身を削って働くことが当たり前だと思って育ってきたのだ。


「私は 鍼医だったころ、 そういう患者さん たくさんみましたよ。

 

人間の身体って、 意外と脆いんです。」


山崎は 静かに言葉をつづけた


「沖田さん。本当に、死んでもおかしくない状況でした。


せっかく無事に戻ってきたんです。


これからは、もう少し自分の身体を大切にしてくださいね」



沖田は黙って、小さくうなずいた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ