復活の秋のきざし
京の夏は、まだ暑い。
だが朝夕は、だいぶ涼しくなってきた。
沖田の夏バテも、少しずつ良くなっている。
縁側の水桶の中で、小さな亀がのんびりと青菜をつついていた。
「……食べてる」
沖田が、ぽつりと呟く。
隣で斎藤が、小さく頷いた。
「そうだな」
鉄之助に虫や小魚を取ってもらうようになり、カメコの食欲は増し、元気になってきた。
特別なことは、何もない。
ただ、食べている。それだけだ。
沖田は、少しだけ目を細めた。
「よかったねえ、カメコ」
亀は返事をしない。 ただ、ゆっくりと首を動かす。
数日後。
道場には、いつもの音が戻っていた。
「はあっ!」
竹刀の音が響く。
沖田は、軽く息を吐きながら構えを直した。
「……無理はするなよ」
永倉が言う。
沖田は笑った。
「これくらい お茶のこさいさいだよ」
稽古の後。
沖田は縁側に腰を下ろした。
そこには、あの水桶がある。
中では、亀がゆっくりと泳いでいた。 以前より、よく動いている。
沖田はそれを見ながら、少しだけ息を吐いた。
「元気になったよね。カメコ」
誰に言うでもない声。
そのとき、後ろから声がした。
「そうだな」
斎藤だった。
いつもの静かな声。
沖田は振り向かずに笑う。
「ねえ、僕も戻ったよね」
少しの間。
「……そうだな」
「じゃあ、もうしっかり食えるな」
原田が笑う。
「うん。そういえば、お腹が空いた」
一瞬、場が静かになった。
そして――
「よし! 今夜は俺が奢ってやる!」
永倉が高らかに宣言する。
「ありがてぃ!」
原田が即座に叫んだ。
「総司だけだ!」
永倉が慌てて訂正する。
「えー」
「えー、じゃねえ」
そう言いながら振り向いた永倉は、思わず言葉を失った。
斎藤も。
藤堂も。
ちゃっかり頭を下げていた。
夏は、ゆっくりと去ろうとしていた。
今回で「酷暑のあとさき」は終了です。
熱中症は今も昔も恐ろしい病気ですが、今回の話を書きながら改めて、体調の変化の怖さを感じました。
最後は総司もカメコも食欲が戻り、ようやくいつもの日常へ戻ってほっとしています。
なお、永倉の財布は少し軽くなったかもしれません。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。




