五人寄れば文殊の知恵
「呼ばれたから来てやったぞ」
土方歳三が 伊藤甲子太郎、武田観柳斎を従えて、
現れた。
腰には、謎の小瓶がいくつもぶら下がっている。
「で、このちっこいのが食わねえって?」
「うん、何をあげても…」
沖田の答えに、土方はふんと鼻を鳴らした。
「まず環境だな」
伊藤は、真剣に桶を観察している。
「水が浅すぎますな。もう少し深さが必要かと」
「ほう、亀に詳しいのか?」
「いえ。犬は好きですが、亀には詳しくありません」
伊藤は堂々と 答えた。
武田観柳斎。
「ふむ……食欲不振ですか」
「これは水脈の乱れですな」
「水脈!?」
「はい。見えませんか。この部屋、湿気が偏っている」
真顔で空間を指す。
「お前、何が見えてんだ」
「感じるのです」
さらに言い募る。
「すべては理論で説明できる」
「じゃあ説明してみろ」
土方に促され、武田は亀を持ち上げる。
「まずこの亀、名はカメコと言ったな」
「はい」
嫌な予感が広がる。また アレ…?
「名前が軽すぎる」
沈黙。
「もっと重厚で威厳ある名にすべきだ」
「例えば?」
ウンザリ顔で沖田が聞く。
「玄武丸」
「絶対やだ」
即答だった。
土方が吹き出す。
「可愛くねえだろそれ」
伊藤は真剣に頷く。
「そんな名では 改名の効果は否定できませんな」
「カメコはカメコで十分! かわいいし!」
「お前も乗るな」
――では、それは諦めるとして。
武田は続ける。
「まず無理に食べさせてはいけません」
「……誰もしてねえ」
「それは結構」
得意げに頷く。
「静かに、構いすぎず、環境を整えることです」
沖田は桶を見て、ぽつりと呟いた。
「僕、構いすぎてたのかなあ……カメコ、ごめんね」
そこへ斎藤が言う。
「たしかに、騒がしすぎるのは良くないな」
一瞬、場が静まり返った。
男四人が亀を囲んでいる時点で、十分に騒がしいよねえ…
沖田が苦笑する。
「カメコ、びっくりしてるのかも。ごめんね」
そのときだった。
ぺち。
小さな音。
亀が、青菜に口をつけた。
「……食ったな」
土方がぼそりと呟く。
「静寂が効いたか」
???(うるさいだろ?今)
「水脈が整いましたな」
「偶然だろう。ただ一瞬、静かになっただけでそんな」
それぞれ好き勝手なことを言う。
沖田は小さく笑った。
「カメコ、よかった。わけわからんけど、ちょっと モグモグできたねえ」
亀はもう一度、もぐもぐと葉をかじった。
「えらい えらい かめこ」
カメコはもう一口、もぐ、と葉をかじる。
「……よし」
土方が短く言う。
その声には、珍しく安堵が混じっていた。
少しだけ胡散臭いが、それでも確かに亀を心配する男たち。
沖田はその様子を見て、小さく笑った。
そのときだった。
土方が、ふと腰の小瓶を指先で鳴らした。
そして
「さて」
とおもむろに ニヤリと笑う。
「次はお前だな、総司」
「えっ」
沖田の心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
斎藤が一瞬だけ目をそらし、
そして、、沖田の肩をぽんと叩いた。




