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小さな重み

 いつの間にか、斎藤が部屋に立っていた。


刀を外しながら、じっと布団の上を見つめる。


 もぞもぞ。


「……なんだ?」


 沖田は、にやりと笑った。

「カメコだよ。よろしく」


 手のひらにのるほどの小さな体。 

やわらかな光をまとったような甲羅。

 

まだ淡い茶色の殻には、細い線がきれいに浮かびあがっている。

 顔をのぞくと、小さな目がつぶらに光り、

首をそっと伸ばすしぐさは、驚くほど慎重で愛らしい。


 沖田は指で、そっと甲羅をつつく。


 もぞもぞ。


「なかなか大胆なんだよねえ。

初対面の人の布団に上がって、あっという間に顔の上だよ」


「メスなのか」


「わかんないけどさ、可愛いからカメコ」


「……そうか」

 斎藤は膝をつき、少しだけ顔を近づけた。

「……綺麗な亀だな」


「でしょ?」

 どこか誇らしげな沖田。


「お前のか」


「うん、たぶん。永倉さんがもってきた。

鉄之助とシロが河原で拾ったんだって」


「……そうか」

 しばし、沈黙。


 部屋には、亀の小さな動きと、二人分の呼吸だけがある。


 小さな頭が、ひょこ、と出てきた。


「……ふふ」

 思わず笑みがこぼれる。

「可愛い」


「そうだな」

 斎藤の声も、ほんのわずかに柔らかい。

「これで少しは退屈しないだろ」


「うん」

 外では、遠く稽古の声が響いている。

 いつもの日常。


 そこから少しだけ外れた、この静かな時間。


「ねえ、斎藤くん」


「なんだ」


「カメって 長生きっていうよね」


「そう聞くな…」

 短い答え。


「鶴とか亀とか、 まあよくは 知らんが…」


「そうだよね。」


 沖田は、そっと呟いた。


「ちゃんと世話しないとね」


 そう言って 小亀を斎藤の手のひらにのせた。


モゾモゾと動く小亀


 斎藤はその様子を見て、わずかに目を細める。


 ――こんな小さなものでも、生きている。

 


 斎藤は、静かに視線を落とした。

 正直 生き物を育てたことなどない。 


とても小さな小亀が ズシン と重い気がした。

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