水の中の小亀
「おっ、いい子にしてるな」
寝ていると、すっと永倉が入ってきた。
そして、
「ほいっ」
と、桶を置く。
「これ、昨日、鉄之助とシロが河原で拾ったんだと。こいつと遊んでいろ」
それだけ言うと、いつものように大股で出ていった。
襖が閉まる音。 部屋はまた静かになる。
沖田は、しばらく天井を見ていたが――やがて、のそりと起き上がる。
「……亀ぇ?」
桶の中を覗き込む。
小さな亀が、のんびりと水の中で首を伸ばしていた。
「なんだよ、よりによって亀かあ……」
思わず、ふっと笑う。
指先で、水面を軽く揺らす。 亀は気にする様子もなく、ゆっくりと方向を変えただけだった。
「……小さいなあ、お前」
ぽつりと呟く。
焦りも、苛立ちも、まるで関係ないみたいに――ただ、ゆっくりと動いている。
沖田は、その様子をしばらく見つめていた。
小さく笑う。
「……いいよねえ、お前さ」
誰に言うでもなく、ぽつりとこぼす。
「強いとか弱いとか、言われないもんな」
桶の縁に頬杖をつく。
しばらくして――
「……ねえ」
小さな声。
「僕さ」
言いかけて、少し止まる。
「……ちょっとだけ、悔しかったんだよねえ」
その言葉は、思ったより素直に出てきた。
「先生たちに、弱いって言われるの」
苦笑する。
「わかってるけどさ。無理してるのも」
指で水をなぞる。
「でもさあ……」
ふっと、息を吐く。
亀は何も答えない。 ただ、静かにそこにいる。
沖田は、少しだけ目を閉じた。
風が、障子の隙間からやわらかく入ってくる。
「……ま、いっか」
ぽつりと呟く。
「そのうち戻るって、山崎も言ってたし」
軽く肩をすくめる。
「だけど――」
そう言って、もう一度亀を見る。
指先で、そっと甲羅をつつく。
亀は、ゆっくりと首をひっこめた。
「そうだね、
お前にちゃんと見せてやるよ
本当の沖田総司をさ、」
そして、くすっと笑う。
「ゆっくり 、さ。」




