矜持
翌朝。
まだ誰もいない裏庭で、沖田は竹刀を手に取った。
くるり、と軽く回す。 手首の感覚はいい。
……ただ、ほんの少しだけ、呼吸が遅れている気がする。
(気のせいだ)
すぐに切り捨てる。
「おい」
背後から声。
振り向くと、永倉が眉をひそめている。
「どうした?」
「え?」
「え、じゃねぇよ」
一歩近づく。
「しばらく休むって話だったろう?」
沖田は、少しだけ首を傾げて――それから、にやりと笑った。
「スッキリしたい気分なんだよ」
「はあ?」
永倉の顔が険しくなる。
「スッキリってお前――」
「大丈夫だって」
言葉を遮るように、竹刀を構える。
すっと、足が前に出る。 自然に。迷いなく。
「ほら」
ふふん、と鼻で笑う。
「天才でしょ、僕?」
そのまま踏み込む。
鋭く。速く。正確に。
――打ち込む。
ぱしん、と乾いた音。
永倉は、何も言わなかった。
「いい感じ」
その言葉に、永倉はまだ少し眉をひそめていたが、
やがてため息をついた。
「スッキリしたか?」
そして、低く続ける。
「無理してもいいことはないぞ。ここまでだ。少し休め」
「うん」
沖田は素直に竹刀を肩に担いだ。
本当は、わかっている。
もう、身体はグラグラしていて、少し気分も悪い。
「仕方ないなあ。まだ休むか」
軽く笑う。
「とりあえず、だからねえ。
先生に心配かけちゃうからさー」
「もう、死んでもいいくらい退屈!」
「日にち薬だ。ちゃんと戻るよ。
おまえは沖田総司だしな。
だから、いい子にしてろ」
そう言って、永倉はすっと沖田の身体を支えてくれた。




