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第八十一章 アレクサンドリアの星

地中海を渡り、紺碧の水平線の果てに、白く輝く塔が姿を現した。

 ファロス島の大灯台――古代から航海者を導いてきた光。


 セバスティアンは息を呑んだ。

 「これが……アレクサンドリア……」


 港には数えきれぬほどの船が並び、香辛料の匂いと砂の熱気が入り混じって漂っていた。

 裸足の荷運び人が走り、ラクダの鈴が鳴り、遠くではアザーンの声が空気を震わせる。


 源八は黙して銃を背に、ロジャースは規律正しく隊列を崩さぬよう水夫に目を配り、デュゲ=トルアンは豪快に笑いながら「異国は血の匂いより香辛料の匂いが強いな」と肩を揺らしていた。


―――


 やがて一行は、細い路地を抜けた先にある宝飾職人の工房へと案内された。

 土壁の奥、松明の明かりに照らされた部屋には、金の細工や瑠璃の首飾りが所狭しと並んでいる。


 工房の親方は、刻まれた皺に砂漠の風を宿すような老人だった。

 セバスティアンが差し出した布包みを開くと、曇った石が現れる。


 「これは……」

 老人は不思議そうに眉をひそめ、手のひらで転がした。

 「硬い。ルビーでもサファイアでもない……未知の石だな」


 彼は棚の奥から黒く光る結晶を取り出した。

 「これはロンズデーライト。神が星を砕いて砂漠に撒いたと伝わる石だ。これでなら削れるやもしれん」


―――


 石工が静かに作業を始めた。

 ロンズデーライトの先端が、曇った原石に触れる。


 火花が散り、硬いはずの石の表面が、わずかに削り取られた。

 セバスティアンは思わず身を乗り出す。

 「削れている……!」


 老人の手は迷いなく動き、やがて八つの面を刻み込んだ。

 粗削りながらも、光を受けて煌めく形――

 それは後に「オールド・マイン・カット」と呼ばれる原型だった。


 「ほう……」ロジャースが低く呟き、

 「星のかけらを削って、また星に戻すとはな」とデュゲ=トルアンは笑った。


 源八は黙していたが、その黒い瞳にはかすかな驚きが浮かんでいた。


―――


 セバスティアンの胸は熱くなった。

 この石は、ただの宝飾ではない。

 未知を既知へと変える、その過程こそが力なのだ。


 工房の灯りに照らされたダイヤモンドは、夜空の星々に負けぬ光を放っていた。

 セバスティアンは拳を握り、心の奥で誓った。


 「必ず、持ち帰って報告する……エドムンド閣下に」

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