第七十五章 東への風、西からの報
リスボンの港に、穏やかな春の陽光が差し込んでいた。
黄金の時代を謳歌する都は、祭りのような喧噪に満ちていたが、エドムンドの書斎に届けられた一通の手紙は、その陽光とは裏腹に、重い影を帯びていた。
差出人は、トマス・フィンチ。
エドムンドにとって、かつてロンドンを共に生きた、友人であった。
蝋を割り、羊皮紙を開くと、そこには力強い筆致で、しかし焦燥を滲ませた文字が並んでいた。
> エドムンドへ
> こちらロンドンは、異常な熱気に包まれている。
> 南海会社が、国債を株式へと転換するという法案を、議会で通したのだ。
> 老いも若きも、商人も貴婦人も、皆が株を買い漁っている。
> まるで黄金の川が、街を流れているかのように見えるだろう。
> だが、その川は、幻だ。
> 株の価値は、実体なき数字に過ぎぬ。
> いつか必ず、この街を呑み込む大津波へと変わる。
> 私は、この熱狂の裏に、宮廷と銀行家どもの思惑があることを掴みかけている。
> だが、それを口にしたが最後、私は敵に回されるだろう。
> ――気をつけろ、友よ。
> 彼らは、我々がかつて相手にした密輸商や海賊などとは比べ物にならぬ。
> 真の敵は、剣ではなく、羽ペンと印章を武器にしている。
> トマス
エドムンドは、手紙を読み終えると、静かに息を吐いた。
窓の外では、ポルトガル王の新しい宮殿建設を祝う花火が、昼空に白い煙を描いていた。
だが、彼の心には、不吉な予感が広がっていた。
ロンドンで、見えざる「新しい戦争」が始まろうとしている――。




