第七十四章 職人の光
エドムンドのフランスへの復讐は、静かに、しかし完璧な形で目的を果たした。
彼の名は、今やヨーロッパ全土に響き渡り、影の実力者として畏怖されていた。だが彼の目は、さらに新しい富へ――ダイヤモンドへと向けられていた。
エドムンドは、国王ジョアン五世にその未来を示唆し、独占的な買い付け権を秘密裏に取り付けると、すぐに行動を開始した。アントワープから最高の宝石職人たちを破格の報酬でリスボンに招いたのである。彼らは、当時もっとも美しいとされた「ローズカット」を極めた名人たちだった。
「諸君、この石を磨き上げ、その真の輝きを引き出してほしい。成功すれば報酬は言い値で払おう」
エドムンドは、ブラジルから届いたばかりの原石を広げて見せた。
数週間後、見事なローズカット・ダイヤモンドが完成した。わずかなロウソクの光にも、薔薇の蕾のように輝き、宮廷の貴族たちは息をのんだ。
だがエドムンドは、その輝きに物足りなさを感じていた。
(…違う。この石の魂は、まだ閉じ込められている。もっと輝くはずだ)
そう直感した彼は、アゾレス諸島の秘密拠点を訪れ、源八の工房を訪ねた。
「源八。君に頼みたいことがある」
彼は完成したローズカットと、未加工の原石を手渡した。
「これがヨーロッパ最高の職人の到達点だ。美しい。しかし、これが本当の姿だとは思えない。君なら、この石の魂を解き放てるのではないかと…」
源八は黙ってそれを観察し、やがて原石を手に取った。小さなヤスリで角を擦る。鋼は削れ、ダイヤには傷一つつかない。
「…なるほど」
源八の目に、初めて興味の光が宿った。
「分かった。預かろう」
一か月後、エドムンドが再び訪れると、源八は彼をドックへ案内した。
「…どういうことだ、源八?」
大砲の照準器や歯車は、鏡のように磨かれ、驚くほど滑らかに動くようになっていた。
「…ダイヤモンドはどうした?」
「砕いた」源八は平然と答えた。「宝飾品には向かん。だが『砥石』としては神の領域だ」
ダイヤを粉にして研磨剤にし、大砲部品を極限まで精緻に仕上げた。鋼を削れる刃物で硬木を加工し、それを船の装甲に用いる。
「これでこの船団は無敵だ。どんな砲弾も通さぬ」
エドムンドは言葉を失った。夢見た輝きは砥石と船板へと姿を変えていた。
だが次の瞬間、彼は理解した。源八はダイヤモンドの真の価値を見抜いていたのだ。
一時の富ではなく、仲間を守り、勝利を保証する絶対的な「力」。
それこそが、この石の真の輝きだった。
エドムンドは黙々と作業へ戻る源八の背中を見つめた。
その目に宿っていたのは、デュゲ=トルアンやロジャースに抱くものとは異なる、深い尊敬と、絶対の信頼だった。




