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第七十三章 驚異の部屋

1713年。フランスとの長い戦争は、ユトレヒト条約によってついに終結した。スペイン継承戦争を終わらせ、スペイン帝国を分割し、ヨーロッパの均衡を取り戻したその条約は、大陸に束の間の平和をもたらした。

 エドムンドが仕掛けた復讐は、フランスの外交的敗北という完璧な形で結実していた。


 その頃、ポルトガルでは若き国王ジョアン五世の治世の下、壮麗な文化が花開いていた。ブラジルから無限に届くかに思えた金は、次々と宮殿や修道院、オペラハウスへと姿を変えてゆく。


 リスボン王宮の会議室。財務大臣カダヴァル公爵は蒼ざめた顔で王に進言した。

 「陛下! マフラ宮殿の建設費はすでに国庫を圧迫しております。これ以上の支出は国家財政の破綻を招きかねません!」

 だが若き王は、金糸の刺繍が施された椅子に深く腰掛け、退屈そうに言った。

 「案ずるな、公爵。金の流れについては、ヘイル氏が全てうまくやってくれる」

 その声音には揺るぎない信頼があった。エドムンドへの信頼は、もはや絶対であった。


 数日後、エドムンドは王宮へ招かれた。通されたのは謁見の間ではなく、王が私的に設えた一室。そこは世界中から集められた珍品で埋め尽くされていた。古代の化石、異国の蝶の標本、天球儀、錬金術の道具――「驚異の部屋キャビネット・オブ・キュリオシティ」である。

 「どうだ、ヘイル」王は得意げに言った。「美しいだろう? だが、まだ何かが足りぬ。この部屋をヨーロッパの、いや世界の中心とするための決定的な何かが」

 王は振り返り、真剣な眼差しで告げた。

 「お主の富と船団を使い、この部屋を完成させよ。誰も見たことのない伝説の品を、世界中からここへ集めるのだ」


 その裏に潜む意図――エドムンドの財力を自らの支配下に置きたいという王の野望を、彼は見抜いていた。だが同時に、これは自らの力を王と世界に誇示する絶好の機会でもあった。


 数か月後。王宮の「驚異の部屋」で完成を祝う小さな披露宴が開かれた。

 エドムンドはジョアン五世の前に進み、三つの「寄贈品」を披露した。


 一つ目は「インディオたちが守る謎の黄金遺物」。

 「ブラジルの鉱山のさらに奥深く、誰も足を踏み入れぬジャングルで発見されました。現地部族はこれを『太陽の涙』と呼び崇めていたとか」


 二つ目は「巨人の骨とされる化石」。

 「デュゲ=トルアン提督がカリブ海で拿捕した密輸船の積荷の中に紛れ込んでおりました。船乗りたちは聖書に記された古代の巨人ネフィリムの骨だと恐れていたそうです」


 そして三つ目。

 エドムンドはビロードの袋を王の前に置いた。袋を傾けると、数十個のくすんだ透明な石がころころと転がり出る。

 「…ただの石ころではないか」王は眉をひそめた。

 「はい、今のところは」エドムンドは答えた。「これは金鉱の奥深く、金と同じ鉱脈から稀に産出する奇妙な石。硬すぎて誰も加工できず、ただ『幸運を呼ぶお守り』として二束三文で売られております」


 彼はその一つを手に取り、ロウソクの光にかざした。石の奥で虹色の光が、まるで魂を宿したように瞬く。

 「私はこう考えております、陛下。いつの日か、この石を磨き上げる技術が生まれたなら、その輝きは金に並ぶ価値を持つでしょう」


 ジョアン五世はその未知の輝きに完全に魅了された。

 彼の心に、金以上に大きく、強欲な夢が芽生えた瞬間であった。

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