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第四十九章 陸と海の戦場

イングランド商人たちがポルトガル海軍と連携するという報せは、「ハーグリーヴス商会」の粗末な司令室に重い沈黙をもたらした。壁にかけられた二つの地図――大西洋の海図とリスボンの市街図――が、彼らがこれから戦うことになる二つの戦場を無言で示している。


「ポルトガル海軍が相手か。ならば我々は拠点を分けるべきだ。狼は羊飼いの犬小屋の中から、狩りを行うことはできん」


彼は海図の上、ポルトガル本土から遥か西に離れたアゾレス諸島の一点を指さした。


「俺と源八、そして船団はこの島々の中の、海図にも載っていない隠れ家を新しい『巣』とする。そこから出撃し、狼のように敵の最も弱いところだけを狩る。お前はこのリスボンに残れ」


「私が司令塔となるわけか」


「そうだ」デュゲ=トルアンは頷いた。「お前はこの街で情報を集め、金を動かし、敵の注意を引きつけろ。頭脳は安全な場所にいなければならん」


エドムンドは作戦の合理性を理解した。しかし、一つの疑問が残る。


「…その頭脳が敵に捕らえられそうになった時は、どうする?」


その問いに、デュゲ=トルアンは、まるで当たり前のことのように不敵に笑って見せた。


「その時は、俺の首を差し出せばいい」


「…何だと?」


「簡単な話だ、ヘイル。俺はお前さんに雇われた、ただの私掠船長だ。もしもの時は、『提督が雇用主の命令を無視して暴走した』。そう言えばいい。ポルトガル政府も、イングランド商人も、それで満足するだろう。俺一人の首と引き換えに、この『ハーグリーヴス商会』という金の卵を産む鶏は、守り抜く価値がある」


デュゲ=トルアンはエドムンドの目を見つめた。


「これは俺からの提案だ。俺はただの駒ではない。自らの意志でこの盤上にいる。そして、キングであるお前さんを守るのが俺の役目だ。だから何も心配するな。思う存分、陸の上で戦ってこい」


彼の隣で黙って銃の手入れをしていた源八が、初めて口を開いた。


「…刀は、主を守ってこそ、その役目を果たす」


エドムンドは二人の盟友の顔を交互に見た。一人は海の狼。もう一人は沈黙の職人。出自も性格も全く違う。だが、その瞳の奥には同じ、揺るぎない覚悟の色が宿っていた。


彼は、もはや一人ではなかった。


「…分かった」エドムンドは固く頷いた。「君たちの覚悟、確かに受け取った。決して、君たちの首を安売りはしない」


三人の男たちの間に、言葉を超えた固い盟約が結ばれた。デュゲ=トルアンと源八は海へ。エドムンドは陸へ。それぞれの戦場で、彼らの戦いが始まろうとしている。

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