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第四十五章 牢獄の鍵

 エドムンドは、金に浮かされる都リスボンで、まず最も暗い影が落ちる場所を目指した。フィリップが最後に遺した、危険な希望の光。テージョ川のほとりに立つ、古く巨大な石造りの監獄「リムエイロ」。


 デュゲ=トルアンとの面会を果たし、彼の恐るべき脱獄計画の全貌を聞いたエドムンドは、すぐさま行動を開始した。彼に残された武器は、もはや金ではない。かつてナフマンに叩き込まれた、情報と、人間の心理を操る技術だけだった。


 最初の標的は、デュゲ=トルアンが名を挙げた、元看守。


 エドムンドは、港の裏社会にわずかな資金を投じ、男の居場所を突き止めた。テージョ川沿いの、寂れた安酒場。酒に溺れ、過去の悪夢にうなされる男が、そこにいた。


 エドムンドは、男の前に座ると、テーブルの上に、音もなく一本の短剣を置いた。鋼の鈍い輝きが、男の虚ろな目に映る。


「監獄所長の、闇取引について聞きたい」


 エドムンドの声は、静かだったが、拒否を許さない響きがあった。


「私は、お前の過去を知っている。お前が口封じのために、監獄を追い出されたことも。命が惜しければ、話せ。所長の罪を証明する、裏帳簿は、どこにある?」


 元看守は、顔面蒼白になり、全てを白状した。


 帳簿は、監獄の地下、古いワインセラーの、特定の石壁の裏に隠されている、と。


 その夜、エドムンドは、デュゲ=トルアンから教わった監獄の古い下水道を通り、単身、その場所へと潜入した。そして、彼はついに、所長が奴隷商人と交わした、血塗られた契約の記録を手に入れた。


 翌日、エドムンドは「ハーグリーヴス商会」の代表として、リムエイロ監獄の所長室にいた。


 彼は、顔面蒼白で震える所長の目の前に、一枚の羊皮紙を叩きつけた。それは、彼が地下から持ち出した、裏帳簿の一ページだった。


「所長殿。あなたの首と、この帳簿、そして二人の男の自由。どれが最も価値があるか、あなた自身でお決めいただきたい」


 その一週間後の夜。


 監獄の裏門が、音もなく開いた。そこから現れたのは、もはや囚人ではない、髪を整え、上質な貴族の服に身を包んだルネ・デュゲ=トルアンと、彼に付き従う一人の東洋人の男だった。


 馬車の中で待っていたエドムンドは、後部座席に静かに座る男、源八に目をやった。


 粗末な服を着た、小柄な男だ。年の頃は四十か五十か、老け顔で痩せている。筋肉も、それほど隆々ではなかった。ただ、その目の奥に宿る、氷のような冷たい静けさだけが、彼がただ者ではないことを示していた。


「……銃は、必ず取り返す」


 エドムンドが言うと、源八は、ただ無言で、小さく頷いた。


 馬車は、夜のリスボンを駆け抜けていく。


 策略家と、海の将と、そして沈黙の職人。


 三人の男たちの、知略と、暴力と、技術を賭けた、壮大な船出が、今、始まろうとしていた。

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