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第二十章 鷲の贈り物

 グジャラートの港で、エドムンドは数日間を費やし、救出した同胞たちが現地のコミュニティに完全に溶け込めるよう手筈を整えた。住居、仕事、子供たちの教育まで、ナフマンの現地代理人と共に、彼らの新しい生活の基盤を築き上げた。彼の任務は、これで完全に完了した。


 全ての仕事が完了した日、ナフマンの現地代理人が、恭しい態度で一つの重い木箱をエドムンドの元へ届けた。それは、サロニカから次の交易船で送られてきた、ナフマン本人からの「贈り物」だった。


 箱の中には、二つのものが入っていた。


 一つは、羊皮紙にナフマン自身の筆で書かれた手紙。


> 「我が友、エドムンドへ。


> お前は、儂の期待を遥かに超える成果を上げた。単に同胞を救っただけではない。お前は、我々の哲学が、暴力と恐怖に勝ることを、その知恵と勇気で証明してくれた。


> 奴隷だった男が、英雄となったのだ。英雄は、誰かの駒として生きるべきではない。


> もはや、お前に指令を与える必要はないだろう。お前は、鷲の翼の下で飛ぶ雛鳥ではなく、自らの風を掴んで飛ぶ、若き鷲そのものだ。


> これより、お前は儂の代理人ではない。自由な商人として、自らの道を歩め。


> 餞別として、ささやかな贈り物を同封する。お前の新たな船出の、追い風となることを願って」


 そして、もう一つが、その「プレゼント」だった。それは、分厚い革のファイルに収められた、法的な効力を持つ一枚の証書だった。


『フリゲート船 "ル・ヴァン"号、並びに関連する全ての装備品の所有権を、エドムンド・ヘイル氏に譲渡する』


 証書の下には、ナフマンの代理人としてではなく、一個人としてエドムンドを支援するという、数名の高名な銀行家からの署名が入った、莫大な額面の信用状が一枚、添えられていた。それは船団を組織するには足りないが、最高の船を数年間は維持し、大きな商いを一度仕掛けるには十分すぎるほどの金額だった。


 エドムンドは、しばし言葉を失った。ナフマンは、彼を解放したのだ。過去の鎖からだけでなく、ナフマン自身への義務からも。与えられたのは、船一隻と軍資金。そして、何にも代えがたい完全な「自由」だった。


 彼は、奴隷から解放され、ナフマンの代理人となった。そして今、サロニカの鷲は、彼を一人の独立した商人として、再び世界へと解き放ったのだ。


 エドムンドはグジャラートの同胞たちに最後の別れを告げると、近くのディウ港へと向かった。そこで、彼は初めて自らの船、『ル・ヴァン』と対面する。その黒く、鋭い船体は、彼がこれから歩む、厳しくも希望に満ちた未来を象徴しているかのようだった。


 船団の主ではなく、ただ一隻の船の主。しかし、それは世界で最も速く、最も美しい船だった。


 彼は、ナフマンが添えてくれた信用状を元手に、腕利きの船乗りたちを自ら選び、雇い入れた。「希望号」で苦楽を共にしたクルーの何人かも、エドムンドと共に新たな船に乗ることを選んだ。


 船の主となった彼の最初の仕事は、利益を上げることだった。彼はまず、インド最大の特産品である香辛料の市場を調査する。しかし、そこで彼は厳しい現実に直面する。ポルトガル船の活躍で、ヨーロッパ市場にはインドの香辛料が溢れ、価格が暴落していたのだ。この船の維持費を賄うほどの利益は、到底見込めない。


「何か、新しいものを。『ル・ヴァン』の速さを活かせる、価値ある何かを……」


 そう思いながら、ディウの港の酒場で船乗りたちの話に耳を傾けていた時、彼は東方のシャム帰りの船乗りから、ある噂を耳にする。


「シャムには、『闘魚』がいる。瑠璃や紅玉のように輝く、宝石のような魚だ……」


 その瞬間、エドムンドの目が光った。


 最高の船には、最高の積み荷を。彼の独立した商人としての最初の、そして最大の賭けが、始まろうとしていた。

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