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第二章:友の死と赤い記憶

 キャンプを、見えざる悪魔が支配し始めた。壊血病だ。

 最初は、歯茎から血が滲むだけだった。やがて歯がぐらつき始め、身体のあちこちに紫色の痣が浮かぶ。最後には、生きる気力そのものを奪い去られ、人々は藁の寝床で静かに息絶えていった。

 そして、その悪魔は、希望を語っていたレオの身体をも蝕み始めた。

「エドマンド……なんだか、身体に力が入らないんだ……」

 日に日に衰弱していく友を前に、エドマンドはなすすべもなかった。彼は自分の僅かな食料を分け与え、水を汲んでやったが、レオの病状は悪化する一方だった。かつて輝いていた瞳からは光が消え、故郷の話もしなくなった。

 そんなレオの姿を遠巻きに見て、ガスパールが唾を吐いた。

「また一人か。弱い奴から死んでいく。俺は若い頃から海と戦場で生きてきたが、そんな情けない病にかかったことは一度もねえな」

 その冷酷な言葉に、エドマンドは殴りかかりたいほどの怒りを覚えた。なぜだ。なぜレオのような若者が死に、あの男は平然としているのだ。

 その数日後のことだった。エドマンドは、岩陰で奇妙な光景を目撃した。

 ガスパールが、懐から取り出した小さな布袋から、何かをこっそりと口に運んでいたのだ。それは、この収容所で配給される黒パンや干からびた豆とは全く違う、鮮やかな赤い色をした、乾燥させた小さな果実だった。彼はそれを、誰にも見られないように素早く咀嚼すると、また何食わぬ顔で仕事に戻った。

 あの赤い果実。あれが、あの男の秘密なのか?

 だが、その謎を解き明かす前に、エドマンドは友の最期を看取らねばならなかった。

 その夜、レオはエドマンドの手を弱々しく握り、途切れ途切れに呟いた。

「ジェノヴァの……港の匂いだ……ああ、潮風が……」

 それが、彼の最後の言葉だった。

 友の亡骸を抱きしめながら、エドマンドは声もなく泣いた。無力感と、理不尽な死への怒りが、彼の魂を焼いた。

 そして、その悲しみと怒りの底で、一つの記憶が、決して消えない烙印のように刻み込まれた。レオの死にゆく青白い顔と、対照的なまでに鮮やかな、あの「赤い果実」の記憶が。それは、この時の彼にはまだ意味をなさない、一つの謎の欠片でしかなかった。


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