藪をつついて
熱石と火赤草を持ち帰り、スキンヘッドのおじさんに提出する。
「まだまだ余裕ありそうだな、お前ら。三人だけじゃ第四階層から少しきつくなってくるものなんだが」
「ロイのおかげだな。この分だとたぶん第五階層は余裕だと思うぜ」
ネディスは苦笑を浮かべて答えた。
「まあジェヴォーダンを返り討ちにしちまうんだからな。お前が足を引っ張らなかったら、第八階層までは安全ゾーンかもな」
「分かっているよ」
ネディスは悔しそうに言う。
第八階層か。
けっこう下のような気もするが、ジェヴォーダンが出るのはもうちょい下なんだっけか?
「まだ余裕あるなら、もうちょい相談してみたらどうだ」
「……そうだな」
おじさんに対するネディスの反応はあいまいなものだった。
相談ってあれかな。
迷宮を往復する時にやってたやつかな。
ネディスに続いて外に出ると、先頭を歩いていた男は勢いよくふり向く。
「相談しろって言われたが、迷宮内でやってしまったからな。あれ以外に何か質問はあるか?」
ネディスの言葉に俺はやっぱりかと思った。
まあ安全な地上でやるべきことを、迷宮にもぐりながらやっていたなんて言えないよな。
「今のところはないかなぁ……」
俺が言うとポリーヌが苦笑する。
「ロイさんは何ができるのか、把握したいという肝心な点がありますが」
よく苦笑されよく呆れられるなと思っていたら、もっともなことを言われてしまった。
「いいよ。ただし、ポリーヌもある程度話してもらうぞ。何か隠しているだろう」
「……藪をつついてヘビを出すという言葉が生まれた理由、思い知りました」
ポリーヌは天をあおぐ。
どうやら俺が逆襲することは想定していなかったらしい。
意外と抜けているところがあるんだな。
いや、予想はしていたけど、していなかったフリをしている可能性もあるか。
人間性はともかく、秘密っていう点について言えば正直あまり信じられない。
俺だって何も言ってないんだから責める資格はないし、責める気もないけどね。
「言いたくないことは言わなくてもいいが、迷宮にもぐるのに必要なことに関しては話してもらいたい」
「そうだな」
「了解です」
俺たちは神妙な顔でうなずきあう。
「……どこか移動しないか?」
ここは協会の前ということでけっこう人の行き来がある。
時おり奇異の視線をぶつけられて、微妙に気まずい思いをしてしまう。
「そうだな。人目につかないところがいい。どこがいいかな」
「それだったら俺が泊めてもらっている家に行こう」
ネディスはそう言い出す。
俺にもポリーヌにもいい代案はなかったので賛成して彼の後をついていく。
案の定、先日彼に連れてきてもらった店だった。
「結婚していたのか?」
「いや、まだだ」
俺がかけた言葉に、ネディスは首を横にふる。
まあ結婚しているなら自分の家だって言うか。
ごまかそうとしてそういう表現をしたのかと思ったんだが、違っていたらしい。
俺たちは狭い裏口を通って建物の中に入る。
階段をのぼって二階に行き、右に曲がって突き当たりの部屋へ進んだ。
中はおそらく六畳間くらいの広さだろう。
寝床とタンスとカーテンくらいしかない殺風景な部屋だが、清掃は行き届いていてきれいだった。
「必要なものしかないって感じですね」
失礼にならない程度に中を見回したポリーヌが感想を述べる。
「まあ居候みたいなもんだし、あまり私物を置くのもな」
ネディスは照れたように頬をかく。
「ちょっと待ってくれ。水でももらってくる」
彼が出ていくと当然俺とポリーヌの二人きりになる。
「何だか悪かったな。秘密のことに言及しちゃって」
今のうちに詫びておこうと思ったんだが、ポリーヌはにこっと笑ってくれた。
「かまいません。私も踏み込みすぎたのだと反省しました」
「使える魔法の種類とか、別に仲間に隠す必要は感じなかったんだが、言い出しそびれてそのままになってね」
俺は簡単に事情を話す。
グエリーヌ侯爵のこととかベレンガリア様のことならともかく、使える魔法に関しては隠す意味もない。
まあ星級も使えると言っても信じてもらえないかもしれないが。
「そうでしょうね。私も似たようなものです。実は申告しているよりも使える治癒魔法は多いです」
「別に意外には思わないな。何かそんな雰囲気があった」
「そうでしたか」
俺たちは何となく微笑みあった。
隠していた秘密の一部を打ち明けあい、ちょっとだけ親しくなった気がした。




