ポリーヌと言う少女
ネディスが戻ってきたところでポリーヌが口を開く。
「私がある意味きっかけのようなものですし、私から言いましょう」
俺とネディスがうなずくと彼女は涼しげな顔のまま言葉をつむぎはじめる。
「私が使えるのは空級以下の治癒魔法全てです」
「空級……その年でか? まさか」
ネディスは何かに気づいたようにハッとした。
ポリーヌは無言で肯定する。
「私は教皇候補でした。過去形で言えることに悔いはありません」
「教皇候補?」
何らかの宗教のトップなのだろうと予想はできる。
だが、だからどうしたというのが知識のない俺の反応だった。
俺が分かっていないと気づいたらしく、ポリーヌは俺を見て説明してくれる。
「ザナム教というのがありまして。そこで素養が高い者は教皇候補のエリートとして様々な知識を授かり、訓練を受けるのです。現場を知らない者が教皇となってはいけないというルールのせいですね」
だからポリーヌは若いのに知識も経験も落ち着きもあったのか。
わざわざ言わなかったけど、たぶん修羅場もくぐってきているのだろうな。
「しかし、教皇候補が抜けるなんて許されるのか?」
ネディスが厳しい顔で疑問をぶつける。
「無能だと判断されたら、そこで外されます。評価が高く期待が大きい人が離脱するなんて、絶対に許さないでしょうけど」
ポリーヌは自嘲気味に言った。
でも、俺は信じない。
目の前の少女は自由を得るためにわざと無能なフリをするくらいはやりそうだと、勘が告げている。
ここでそれを言うと、おそらく壊れてはいけないものが壊れそうだから踏み込まないが。
「そうなのか。厳しい世界なんだな」
ネディスのほうはあっさりと納得していた。
納得できるほど厳しい世界なのかもしれないな。
と思っていると二人の視線が俺に集まる。
「俺の番か。何から言えばいいのか……」
さすがに前世の記憶があって、もともとは異世界人だとは言えないし。
「手紙を出した時、担当者の方が驚いていましたよね? あれはなぜです?」
ポリーヌは気づかないフリをしていただけでしっかりと見ていたらしい。
「ああ。じゃあそこからか」
気づかれていたならあえて隠さなくてもいいだろうと判断する。
「俺の後援者が貴族だからね。あれは近況報告を兼ねた手紙だったんだ。担当はそれで驚いたんだろう」
「なるほど、貴族のお抱えか」
「ロイさんなら伯爵クラスの後援者がいても不思議じゃないですね」
二人とも驚くどころか納得している。
貴族のお抱えって、俺が思っていた以上にすごいポジションなのかもしれないな。
後援者はグエリーヌ侯爵だっていうのは言わないでおこうか。
言ったほうがいい気もするが、言っても言わなくても変わらない気もする。
「そういう理由でたぶん、みんなが思っているより使える魔法は多い。もっとも迷宮では威力の大きくない魔法を、素早く連射できるほうが重要だと教わったわけだが」
「その通りだな。魔法使いは判断力、使える魔法の豊富さが重要で単純な威力は二の次だ」
ネディスは感心したように言う。
「使える魔法についてはネディスたちが聞いてくれ、その都度答えるって形でもいいかな」
迷宮内で有用な魔法はどれか、まだまだ経験不足で理解しきれていないという自覚はある。
「分かった、そうさせてもらうとしよう」
「それが一番かもしれませんね」
ネディスとポリーヌが納得してくれたので、俺の話は終わりだ。
黙っていたことを打ち明けたせいか、心が軽く晴れやかになる。
見ればポリーヌも似たような表情をしていた。
教皇候補って俺はピンとこなかったけど、本当のところは爆弾発言だったんだろうな。
どうして脱落することになったのか、そしてこの街でバスターをやっているのかは分からないが、それは俺も同じだ。
お互いまだ言う必要はないと、言外に伝えあったという認識でいいだろう。
俺たちの絆は少しだけかもしれないが深まったように思う。
このまま進んでいきたいものだ。
ここで二章完結です。
山級編は長くなるかもしれないので……。




